episode.2
「ただいま」
「ん? あら、お帰り! 早かったわね今日は」
僕が帰ると、叔母さんが迎えてくれた。
僕には、0歳から10歳までの記憶がない。
僕が“僕”として目を覚ました時は、もう僕は僕で。0歳から10歳までのことを、全く持って覚えていない。
そして、僕が“僕”として目を覚ました時には——もう、叔母さんしか家族はいなかった。
叔母さんには、本当に感謝している。
突然記憶をなくした甥を、実の息子でもない子供を、引き取ってくれて。女手一つで愛情を込めて育ててくれた彼女を、本当に尊敬しているし感謝している。
けれど。
いつも、僕は叔母さんにとって重荷なんじゃないかって。
いつも、僕は叔母さんにとって邪魔なんじゃないかって。
思ってしまう、時がある。
叔母さんには旦那さんがいない。
僕が産まれる前に、事故で死んでしまったらしい。
それでも、叔母さんは別にそれを引きずって独身を貫いているって感じでもない。
僕が、いるから。僕を、育てなきゃいけないから。
だから——再婚とか。恋人とか。
考えずに。
そこまで考えた時、心配そうな表情で僕の顔を叔母さんが覗き込んでいるのに気付いた。
「どうしたの? ご飯もう出来てるから、早く手洗ってきなさい」
「あ……、うん。ありがとう」
「、ええ」
にこりと安心するような優しい微笑みを浮かべて、叔母さんはぱたぱたとスリッパを鳴らして奥に消えた。
僕は、ふぅ、と息を吐き、スリッパを履いてリビングに向かった。
今日の夕食は、ビーフシチューだった。
美味しそうな匂いを立ち昇らせるビーフシチューに、食欲をそそられる。
「いただきます」
手を合わせ、挨拶をしてから食べる。
「ん、」
とろり、とシチューが僕の口の中でとろけて、ごろごろとした色とりどりの野菜たちも柔らかく溶ける。
「美味しい……」
「あら、そう? ふふ、作り甲斐があるわ」
口元をほころばせ、叔母さんはそう僕に言った。
「、ごちそうさまでした」
美味しすぎて、ハイスピードで食べ終えてしまった。名残惜しい気持ちになりながらも、僕は手を合わせそう挨拶をした。
お皿を食洗器に入れてから、読みかけの本を手に取り栞のところでぱらりと開く。
そして、そのまま読み進めた。
気が付くとあたりは真っ暗で、叔母さんがテーブルでうとうとしていた。
時計を見るともう9時で、こんなに読んでいたのかと驚愕しながらぱたんと本を閉じ、叔母さんを軽く揺さぶる。
「叔母さん」
「……、ん? あ……あぁ、澄雨……ふわぁ」
「僕、お風呂入っていい?」
「ああ……ええ。どうぞ」
ありがとう、と言ってから、僕はお風呂の支度を始めた。
お風呂を上がって、すぐに叔母さんはお風呂に入って。
僕はもう寝ようと、寝室に向かった。
ベッドに寝転がり、明かりを消し、布団に寝転がる。も、全く寝付けそうにない。
すぐに眠るのを諦め、僕は羊を数えることにした。
「羊が1匹、羊が2匹、羊が3匹、羊が4匹……」
あ、1匹羊がこけた。
おお、起き上がってまた飛び越えた。頑張った。
「絶対寝付けない……」
はぁ、と一つ嘆息して、僕は思考放棄して目を閉じた。




