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第一話 黄泉、覚醒

「感情を捨てた少女と、絆を結ぶ少年。断罪か救済か――運命が交錯する」


「兄を奪われ、両親を殺された少女は『感情』を捨てた。

天空に現れた漆黒の城から、断罪者・黄泉が降臨する。


一方、平凡な高校生・一色結真は、

怪異と絆を結ぶ謎の能力を隠していた。


氷の術師・紫音、雷の令嬢・鏡花と共に、

神都を揺るがす陰謀に立ち向かう——


感情か、理性か。復讐か、救済か。

現代異能ファンタジー、開幕!」


あの日を忘れたことは無い


兄は私が5歳の時、危険な異能を保持しているからと


術師協会に連れ去られてしまった


両親はそんな危険な異能の保持者によって殺された


あの晩のことは、忘れようと思っても忘れられない


苦しんで死んでいく両親を、ただ見ていることしか出来なかった


そんな無力な自分が、何も出来なかった自分が嫌だった


そして、そいつらがただただ憎かった






「あいつら…にくい、にくい…!」


ここは神都、かつて神々が生み出した神秘と術師の都。いくつもの霊脈、龍脈が張り巡らされ、人ならざる怪異と異能を扱う術師が当たり前のように存在する首都。


その都の外れにある、ネオン彩るスラム街。そこを通り抜けるのは、まだどこにも名を刻んでいない、ただの「被害者」の少女。


彼女が吐き出す呪詛のような言葉と凍えるような殺気は、スラム街の不埒な連中を怯えさせるには充分だった。


少女が辿りついたのは。『神都深層』。かつての神域の名残である。通常術師でないと入り込めないそこに少女が入れたのは、呼ばれたからだ。


封印が、綻びる。


『汝の憎しみは美しい…ならば感情を捨てよ。感情こそが犯罪を生むと信ずるのならば、この力で世を変えてみせよ。』


「いいわ、捨ててやる。ーー感情なんて、いらない。」


泥の王は言う。それに応える。


泣き笑い顔のそれは、金色の双眸を少女に向ける。その双眸が光った時、少女の瞳は漆黒に染まった。


『目覚めよーーー黄泉。』




---


ーーこれは数年前に遡る、少年の回想


あれは確か、10歳くらいの時の出来事だ。


神都の裏山で遊んでいたら、みんなとはぐれてしまって、彷徨っていた時のことだ。


妙に音が小さくなる空間があったのだ。誰も立ち入らないような危険な小道。


何かに呼ばれるようにその道に踏み入った自分がいた。


段々と音が聞こえなくなっていく。木々のざわめきも、足音も、鳥達のさえずりさえも。何もかもが消えていく。


しかし不思議と嫌な感じはしなくて、歩みを進める自分がいた。


辿り着いたのは、ひとっ子一人いない廃神社だった。相変わらず音はない。


ふと、碑が目に入った。そこに、小さな何がいた。近づいてみると、黄色いレインコートに身を包んだ小さな子だった。俺に気が付いたのか、びっくりしたような顔でこちらを見た。


小さな子は、怯えたように一歩後退りしてしまった。


黄色に輝く瞳が、警戒の色をしている。


「ねえ、きみーー寂しいの?」


その警戒の中に、少し寂しさを見つけて、尋ねてみた。答えはない。


手を出してみると、少し間を置いて、おずおずと手が握られた。


温かかった。


気が付くと彼女は消えていて、音のある空間が戻っていた。俺を探す声が聞こえて、慌てて走り出す。


その日から、自分が何かに見守られているような気がしていた。




---


ーー神都暦2045年、5月某日




あれから数年。高校生になった俺、一色結真は相変わらず神都で生活を送っていた。


異様に怪異に遭遇することを除けばなんてことない日常、いや、なんてことないわけはないか。しかし不思議と、襲われるようなことは無かった。怪異を、特別危険な存在とは思わずこここまで育ってきた。


ある日の帰り道、まだ5月だというのにやけに空が陰るのが早かった。時刻はまだ15時半。変だな、と思って空を見上げると、異様なモノが上空にあった。周りの人々も、一様に皆上空を見上げている。


漆黒の天空城。後にそう呼ばれるモノが神都中心部上空に現れた、最初の日であった。黒々としたものが空を裂き、覆い、街を黙らせた。


そこから、何かがふわりと、地上に降り立った。ダークグレーのサイドテールの髪に、仮面を付けた顔、西洋を想わせる漆黒のドレス。


異様な雰囲気を纏った女性と思しきそれは、ゆっくりと人々の前に歩み出た。


「我が名は――黄泉。感情は弱さ。罪を生む源。よって否定する。今ここに、断罪の時を告げよう。」


彼女がそう宣言した瞬間、世界は状況が一変した。次々と人々が槍で刺し貫かれたのだ。


断罪者黄泉の異能なのだろう。感情を宿さないその瞳で罪を見抜き、断罪を行なっているのだ。


人々を畏怖させるには、十分な出来事だった。




---


衝撃的な日から、数日後のこと。


何故自分が生き残っているのかも分からぬまま、俺は学校から帰路に付いていた。早く家に帰りたい。正直今の神都は以前より危険性が増しているし、なんで休校にならないのかも不思議だった。


黄泉の出現後、すぐに政府は術師協会を通じて使節団が派遣したようだが、その後の使節団の生死は不明らしい。勘だけど、生き残ってはいないような気がする。


術師協会は国中にいる術師達を管理、監視する国家機関で、簡単に言ってしまえば防衛装置のようなもの。今回の黄泉という異能を扱う未知の術師の出現に素早く対応したように見えるけど、実際上手くいっていそうにもない。


突然、死と隣り合わせの日常がやってきて、戸惑わないわけもなく。神都中が大混乱だ。






かつて神が創り上げた都だというのならば、その神が現れてささっとこの状況を救ってはくれないものだろうか。普段神様なんて、いれば面白いなくらいの感覚でしかなかったけれど、今は祈らずにはいられない。


そうだ、早く帰るためにショートカットをーー


そう思ったのがいけなかった。


薄暗い路地に入ろうとした瞬間、無数の黒い手が伸びてきた。まずい。そう思ったって逃げ切れるわけもない。黒い手達が腕に絡みつくーー


『ーー氷華式・霜刃』


凛とした声が、詠唱が響く。


周囲の空気中の水分が氷の刃となり、黒い手を散り散りに切り裂いていく。


「あなたが、一色結真さんーーですね?」


現れたのはかの有名な南十字魔法魔術学院の制服に身を包んだ、冷たくもたおやかな微笑をたたえる少女だった。高い位置で結ばれた長い黒髪と、冷たいサファイアのような瞳が印象的だ。


「あなたが…正体不明の高濃度魔力反応、という割には随分と凡庸ですのね。」


そう言って現れたのは同じく南十字の制服に身を包んだ、黒きツインテールと意志の強そうなインディゴブルーの瞳を持った高飛車そうな少女だった。言葉の棘が鋭い。


「あれだけの黒い腕に触れられて無事なんてあなた、本当にーー」


「それ以上近づくな。」


制止した鋭い声の主人は、他でもない、あの断罪者黄泉だった。


「私達は協会の命で彼を保護しにきただけですわ。あなたに止められるいわれなどーー」


「私が先に見つけた『種』よ黙って取らないで。」


彼女達の視線がばちばちと火花を散らし合う。え?これどんな展開??


ただ呆気にとられて地面にへたりこんでいるしかない自分が情けなかった。


「ねえ、ーーーー『聞いて』」




次の瞬間、視界が暗転した。


気がつくと薄暗くも淡いブルーに照らされた、蝶の舞う空間にいた。その中央には見覚えのある姿があった。あの日の、黄色いレインコートの子。


「君はーー」


「覚えててくれたのね、ユウマ。嬉しい。」


「うん、覚えてた。えっと、そういえば…名前…」


「今はリリィと呼んで」


今はというのがなかなかに意味深だが、言われた通りにリリィと呼ぶことにする。そういえば、あの日と違って彼女の表情がまるで見えない。


「これから君には試練が待ってる。救いをとるのか破壊をとるのかーー君がそもそも選べるのか。楽しみ。」


そう言って微笑んだように感じた瞬間、右手に焼けるような痛みを覚えた。




意識が遠のいていくのが、分かった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


術師協会の中にある居住区の一室。


長く美しい銀髪が印象的な青年・春野秋仁は、ベッドの上で考えあぐねていた。黄泉の出現以来、何故か記憶の混濁と聞き覚えのある言葉と声が脳内に響くようになったのだ。


しかし、それがなんなのか思い出そうとすると激しい頭痛に襲われるのだーー


「あぁ…う…っ!」


協会から処方された薬を飲んで、眠るように意識を手放す。


何が真実なのかも、知らぬままーー

ここまでお読みくださりありがとうございます!

謎はまだまだ沢山…続きをお楽しみに!

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