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今日の「魔法のライブ配信」を終えて、俺達は町に戻って来た。
はっきり言えば、今の時代、ドラゴンが住み着いてるダンジョンや猛獣がうろつく山林や荒野よりも、大都市の方が危険だ。
俺が物心付いてからの、ここ30年ぐらいで……俺が知ってるだけで複数の国の王都を含めた10以上の町が町ごと「闇堕ち」した。
つまり、魔性のモノ達がうろつく、人が住めない場所と化したって事だ。
この世界から、本物の神サマ達の力が消え、妖精系の連中が居なくなったタイミングで……「この世界」と「死後の世界」とやらを繋ぐ「通路」も無くなったか「細く」なっちまったらしく……アンデッドどもの発生率だけは年々デカくなり……まだ、この世の干渉出来る、かつては「神の僕」だった天使・精霊は神サマからの力の供給が途絶えた世界で生きていく為に悪堕ちした。
もちろん、同じく邪神・悪神からの力の供給が途絶えた魔性の存在どもは、よりタチが悪くなった。
この世界の今の時代……一番同情すべきは子供達だ……。
多分、今の子供達に子供や孫が出来る頃には……この世界は存続しているとしても、人が住めない場所と化してるだろう。
だが、誰にも、それを止める手段は無い。
そんな事を知識としては知らない連中も、本能的には何かを察しているようで……しょ〜もない娯楽に逃げ込んで現実から目を逸らし続けている。
例えば、冒険者達がダンジョンで化物をブチ殺してる「魔法のライブ配信」なんかに……。
町中で地道な活動をしている退魔師ギルドや人命救助ギルドやスーパーヒーローギルドの連中こそが、本当に自分達を護ってくれてる事を知らずに……あるいは知った上で知らないフリをし続けて……。
「お前……ど〜すんだよ?」
今や、俺のほぼ唯一の友人になった「魔法のライブ中継」の専門技師は、冒険者ギルドが提供してくれてる下宿で、俺に、そう訊いた。
「いや……どうって……」
「お前のバフ魔法の副作用の事、早く正直に話せよ」
「おい、待てよ。あんなマズい事、今更、話したら、俺、どんな目に遭わされるか……」
「あのな、『今更、話したら』なんて何年も言い訳にし続けた結果が、3つ目の死体だぞ。阿呆リーダーは体が異様に頑丈なせいで無事で済んでるけど、これからも無事とは……」
「わ……わかった」
「よし、俺が付いて行ってやるから……」
「その必要は無い」
「いや、お前、1人で、んな重大な事をリーダーに言う度胸無いだろ」
「いや、ちがう。逃げる。すまん、今まで世話に……」
「あ……あのな……阿呆か、お前、あんな奴でも長い付き合いだろうが。あの脳筋が死んでも平気……」
ごお……。
その時……部屋の片隅の影が……あ……ああ……影が、影が、影が……。
部屋の温度が……一気に下がったような錯覚……。
影は闇と化し……やがて……人の形になり……。
「お取り込み中すまないね。『あんな奴』だか『あの脳筋』だかが……相談したい事が有るってさ……」
突然、魔法で(おそらくは)この下宿の部屋に出現したのは……ウチのパーティーの外道聖女。
「あ……あの……何……で……しょうか……?」
「『女とやりてえけど、ど〜しても勃たねえんで、バフ屋の魔法で何とか出来ねえか?』だってさ……あとさ……」
「あ……あと……何でしょ〜か……えっと……?」
「おめえも魔法使いの端クレなら、下宿の周囲に結界ぐらい張っとけよ。タチの悪い悪霊なんかが入りたい放題だぞ、これじゃ……」
えっ……?
「知ってるだろ? 今の御時世、ダンジョンより町中の方が、余っ程、物騒だって事ぐらいさ」