(2)
百数十年前……この世界で「何か」が起きたらしい。
その異変のとんでもなさにも関わらず、一般人は異変が起きた事に気付く事もなく……そして世界は普通に存続していた。
少なくとも、表面上は、そう見えた。
だが……。
それ以来、この世界に残っていた本物の「神聖魔法」の使い手達は「力」を失なった。
どうやら、本物の「神聖魔法」のパワーソースである「神々」と呼ばれる超越者達は、善・悪・秩序・混沌・自然・文明などの属している「勢力」に関係なく、「この世界」との絆を失なったらしい。
ただ、神々に仕えていた天使・精霊・魔性などは、まだ「この世界」に介入出来るが、そいつらさえ、神々との繋がりを無くしてしまっていた。
神々からの力の供給が途絶え、このままでは力を失ない消え去っていくだけになる天使・精霊・魔性は、人間の魂に目を付けた。
偽物の「神聖魔法」を授けてやる代りに、術者に「信者の魂を自分に捧げる」事を強要するようになった。
例えば、現代の「偽物の『神聖魔法』」で傷や病気を治療してもらったが最後、「偽物の『神聖魔法』」のパワーソースである「タチの悪いナニか」に「魂を売る」事になってしまう。つまり、死んだら、その魂は「タチの悪いナニか」に食われてしまう上に、その「タチの悪いナニか」は同類どもに自分が唾を付けた魂を横取りされないように、「獲物」が自分の同類による治療魔法を受ける事が有れば、それを阻害したり、魔法で治療してやった奴を早い内に巧妙に死なせてしまうのだ。
かつては、善の存在だった天使達でさえ、今や存在る為に、人間の魂を貪り食らう魔性と区別が出来ないモノと化してしまった。
百数十年という人間にとっては長いが……天使や精霊にとっては一瞬に過ぎない時間で、奴らは、とんだ外道の詐欺師どもと化した。
更に、神々の力が消え去ったのと同時に、エルフ・ドワーフなどの人間と友好関係にあった者達も、ゴブリンのような人間に敵対的な者達も、妖精系の種族は、全て、この世界から消え去った。
じゃあ……リーダー達が倒したゴブリンは何者か……?
冒険者ギルドが人工的に作り出した小人症の家系の人間、その体を改造し、精神操作系の魔法で偽の記憶を植え付けた存在……それが、今の時代のゴブリンやドワーフだ。
バグベアやトロールなどの人間と同じか、それ以上のサイズの妖精系種族は……同じく、人間を改造したモノだが、こっちは普通に体格がいい人間の奴隷が材料だ。
エルフは……この辺り十数ヶ国で差別の対象になっている北方系白肌人種……「病人肌」または「白豚亜人」と呼ばれてる連中……達の中でも人間社会で成り上がろうとする奴らが魔法の美容整形で姿を変えたモノだ。
そう……全ては……「冒険者」という芸能興業を存続させるというみみっちい理由で、人の道に外れた事が平然と行なわれているのだ。
ウチのパーティーの「エルフの聖女」なんぞは三重の意味で偽りだらけの存在だ。
そもそもエルフじゃない。正体は「単なる人間」と呼ぶのさえ、まだマシな扱いの賤しい被差別民族……何なら「モンスター」扱いされる場合さえ有るような連中……の出身だ。
そもそも聖女じゃない。「神聖魔法」の正体は剣呑い「何か」から力を借りてる危険極まりない代物だ。
そして、性格も聖女じゃない。とんだ肉食系レズビッチだ……。こいつと寝ちまったせいで、エラい事になった女性ファンが、何人居る事か……。
いや……最後のは……俺のせいである可能性も若干有るんだが……。
「あのさ……」
俺達のパーティーのファンにさえ存在を知られてないパーティーメンバーが2人居る。
1人は通称「バフ屋」の俺。
もう1人は、同じく「魔法使い」だが、「魔法のライブ中継」専門の技術者であるこいつ。
今、俺に声をかけた奴だ。
「お前の魔法の副作用の事、いつ、あいつらにゲロするんだ? 後になればなるほど、リスクが上が……」
「ぐえっ?」
その時、忍者が胸を押えて倒れ込んだ……。