6 「恋愛心理テスト 前編」
気づけば5000字超えになってしまったので、前編と後編に分けます!
部室の机に肘をつき、ぼんやりと時間を潰していた俺の前に、ひより先輩が勢いよく座る。
彼女の動きに合わせて、椅子がわずかに軋んだ。
そして、ニヤリとした意味ありげな笑み。
悪戯を企んでいるときの、あの顔だ。
「昨日と、今日で、恋愛指南ばっかりだったじゃん? だからさー、今日はちょっと気分転換しようかなと!」
軽い口調で言いながら、先輩は俺の方へ身を乗り出してくる。
その手には、一冊の雑誌。表紙には「恋愛心理特集!」と大きな見出しが踊っている。
どうやら適当に本棚から持ってきたらしいが、端が少し折れていて、何度か開いた形跡がある。
……これは、どう見てもろくでもない予感しかしない。
「そもそも気分転換って、何をするつもりですか?」
警戒しながら尋ねると、ひより先輩は満足げに笑い、雑誌をパラパラとめくる。
「ふふふ、それはね――」
わざとらしくもったいぶりながら、彼女は雑誌の一ページを指で押さえ、俺の前に開いた。
「……恋愛心理テスト、ですか」
「そう! ほら、こういうのって雑誌とかネットによくあるじゃん? 『あなたの恋愛傾向が分かる!』とか、『理想の恋人タイプ診断!』とか!」
ひより先輩のテンションは妙に高い。
それに対して、俺は少し考える。
こういう心理テスト系は、大抵ふんわりとした質問と、それっぽい解説で構成されているものだ。
「あなたは○○タイプ!」とか、「理想の恋人はこんな人!」みたいな、どことなく占いめいたものばかり。
正直、信憑性には欠ける。
「いや、それって女子がやるやつじゃないですか?」
「そんなことないよぉ! こういうの、男女関係なくやってみると意外と当たることあるんだから!」
食い気味に反論されると、俺も強くは否定できない。
それに、この人は一度やると言い出したら止まらない。
(まあ、適当に流して終わらせるか……)
「まあ、別にいいですけど……」
「やった! じゃあ早速!」
ひより先輩は嬉しそうに雑誌を開き、ページを押さえながら、わざとゆっくりと読み上げる。
「じゃあ、第一問! 『あなたが好きな人と一緒に過ごす理想の休日は?』」
紙面を指でなぞりながら、俺の反応を楽しむように続けた。
①オシャレなカフェでのんびり過ごす
②アクティブに遊園地やイベントへ
③家でまったり映画鑑賞
④どこでもいいからとにかく一緒にいることが大事!」
「……どれも、ありそうな選択肢ですね」
「でしょ? で、藤崎くんはどれ?」
ひより先輩が紙をひらひらさせながら、俺の顔を覗き込む。その表情は、興味津々な子供のような――いや、どちらかというと、俺の答えを面白がるための材料にしようとしている目だ。
(……こういうの、普通に答えたらいいのか?)
恋愛心理テスト。言葉の響きからして、なんとなく女子が盛り上がるような類のものだ。今まで興味を持ったこともないし、ましてや自分がやるなんて考えたこともなかった。
雑誌やネットでよく見る“恋愛傾向診断”とか“理想の恋人タイプ診断”とか。そういうのを、ひより先輩が持ち出してくる時点で、すでに不穏な気配しかしない。
(まあ、別に害はないし……適当に答えればいいか)
そう考えた瞬間、ふと手が止まる。
(……いや、待てよ?)
こういうテストって、答え方でその人の恋愛観が分かるとかいうやつじゃなかったか?
そして俺は――
(そもそも恋愛経験ゼロだ)
何を基準に選べばいいのかが、そもそも分からない。どれも「ありそう」な選択肢だけど、実際に誰かと過ごしたことがあるわけじゃないから、ピンとこない。
いや、それ以前に、選び方を間違えたら変な風に解釈されるんじゃないか……?
(まずい……こういうの、思ったより難しいな……)
「ねえ、藤崎くん? どれ選ぶの?」
ふと顔を上げると、ひより先輩がじっとこちらを見つめていた。
距離が近い。
無邪気な笑みを浮かべながら、好奇心いっぱいの目で俺を覗き込んでくる。
その瞳の色が、窓から差し込む午後の陽光を受けて淡く光って見えた。
思わず少し身を引き、咳払いをする。
「えっと……そうですね……」
(どうする……? どれを選べば自然なんだ……?)
わずかに沈黙した後、俺はなんとか口を開いた。
「……③の、家でまったり映画鑑賞、ですかね」
不意に顔を覗き込まれて、俺は思わず身を引いた。近い。先輩の茶色がかった瞳が、じっと俺を見つめている。
「ほぉ〜、なるほどなるほど」
ひより先輩はニヤリと意味ありげな笑みを浮かべながら、雑誌に何かを書き込む。
(え、何その反応……!?)
「藤崎くん、意外とインドア派なんだねぇ」
「まあ、そういうわけでもないですけど」
俺が言い訳めいたことを口にすると、ひより先輩はさらに嬉しそうに頷いた。
「ふふ、でもね〜、こういうテストって、無意識に自分の理想が出ちゃうものなんだよ?」
妙に得意げな顔でそう言いながら、俺をじっと見つめてくる。
「いや、あくまで選択肢の中での話ですよ」
「ほんとぉ〜?」
「ええ、本当です」
俺が淡々と返すと、ひより先輩はさらに口角を上げて、ニヤリとした笑みを見せた。
「もしかして、彼女とお家で……?」
「そ、そんなこと考えてません!」
「ふふっ、顔赤いよ?」
「赤くなってません!」
思わず大きな声で否定すると、ひより先輩はくすくすと笑う。
「ほんとに〜? じゃあ、ちょっと鏡見てみなよ?」
「……」
俺は言葉を詰まらせる。
こうして、俺の答えはひより先輩に完全に面白がられる結果となった。
(……しまった、これが狙いだったのか?)
メモを書き込みながらニヤニヤと俺を見る先輩を見て、なんとなくそんな気がしてきた。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
放課後の2人の様子だけではなく、普段の学校での様子や、天文部での様子もしっかり描いていきますので、ご安心ください!
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