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プロローグ02「けじめをつけろ」

模擬戦で通信を絶ったミリーを探しに立体(ホログラム)幻像(ヴァーチャル)・エリアに飛び入ったジョーは、彼女を発見した。

(うずくま)っていたミリーは肩を落とし、頬には涙の線が戦闘によってついた煤を滲ませている。

「ミリア」ジョーがミリーの本名を呼ぶと彼女は顔を上げずに「ごめん……なさい」とかすれた声でつぶやいた。


「謝るなよ」

 ジョーが苦笑して、少女の傍にかがみ込む。

「なにがあった?」

 そう聞くと「マエストロ……」と震える声を出した。

 合点がいったジョーは「なるほどな。チャック・シールか」と名前を出す。


 チャック・シール。通称『マエストロ』は戦術を教えるこの学校での不良グループに所属しており、最近になって模擬戦に度々乱入してきてはおいしい所をかっさらう問題児だと聞く。


「怪我はないか?」

 安否を問うとミリーは「私は大丈夫。ただ……」と足元に垂れ下がったマントを見た。

 マントは戦闘によって生々しい弾痕がいくつも空いており、(あな)の周辺には焦げが焼き付いていた。鼻を効かせるとポリエステルを含有する素材の化学的(ケミカル)な悪臭が粘膜に暴力を振るう。もうこの防弾マントは使い物にならないようであった。

 ミリーはこのマントを気に入っているようだった。ひらひらと舞って戦うさまは、彼女の大好きな漫画(コミックス)に登場するヒーローのようであった。


「どうしよう。ショウがせっかく作ったマントが台無し……」

 ミリーはそう言って肩を震わせ、泣いた。


「ショウはまた作ってくれるさ。今のお前が着ているそれよりも少しだけ、良いものを」

 ジョーは安堵する。ショウ・ザキと名乗るこの防弾繊維で作られたマントを作った生徒は技術の可能性をとにかく追及する姿勢を持っている。失敗から学び、何度も試行錯誤を重ねる彼はおそらく、次は耐久性のあるもっと上質なマントを制作し、彼女に与えるであろう。


「ジョーせんせ」

 ミリーははじめて顔を上げ、ジョーをまじまじと見つめた。

「怒ってないの?」


 ジョーはミリーの頭をくしゃくしゃと撫でた。

「僕が一番わかっている」ジョーは静かにささやく。

「【来るべき戦争】に対応できる優れた素質を、お前はたしかに持っている。色々いたらない部分はあるが、失敗から学び成功に導く強さを。そして思考から行動に移す決断力を。マエストロに負けたのは残念だが、致命的な弱点が彼にもあるはずだ。それを学習し身に着けろ。だから今は――」


 ジョーは一拍置き、次の言葉(ワード)を放った。

「【よくやった】」



 列車を模した無機質な模擬戦区域が静寂に包まれる。(ほこり)の一つ一つがまるで雪のように舞う。


 作戦が終了したことを認識したミリーはジョーに抱きかかえられ寝息を立てている。ジョーは明々と光が刺す出口を目指し、彼女の子どものようなあどけない寝顔を見守りながら歩を進めた。

 眠りについた彼女に言葉は聞こえない。しかしジョーはもう一度、言葉を紡ぐ。彼女を安息させる言葉を。






 西暦二〇四五年。日本が米国に降伏し、終戦してから百年。

 新たな戦争が起ころうとしている。












 B/0 戦術学校と血塗られたマント

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