04 波乱の文化祭準備
皆の笑い声や、騒々しいほどの色んな音で学校中が盛り上がっている。これからは文化祭が近くなる為に、授業がほとんど無いのが嬉しい筈なんだけど、俺は目が違う方ばかりにいってしまって、仕事に身が入らない……。何故かというと、詩貴と雅人が気になるからだ。
(べ……別に、雅人が羨ましいなぁーとか思ったりしないけどさ……でも、なんだかな……)
変な事ばかり考えていると、頭を誰かに叩かれた。
「……って! 何すんだよ馬鹿尚!!」
「きちんと仕事しろよな、誰かさんばかり見てないでさ」
「……っ!! 尚だってしろよな!」
「だったらコレ教材室に持ってけよ」
「ハイハイ!」
尚は本当に性格最低だ……。俺が握力あまり無いの知ってるくせにこんなに重いの普通持たせるかよ……。尚が俺に持たせたのは、見た目より重いカーテンだった。3枚くらいあり、その高さのせいで背が小さい俺は、前の視界がよく見えなかった。
「何でよりによって2階にあるんだよっ! って……ヤベ!」
階段を踏み外してしまい、後ろに落ちる寸前で誰かに後ろから受け止められた。もしかして、詩貴だろうか……という俺の可愛い期待は、後ろを見た瞬間に簡単に崩れてしまった。
「……なんだ、尚か」
「何だって何だよ。せっかく助けてやったのに」
「ありがと! 心配になって助けに来てくれたんだろ? どーも」
「いや、俺も教材室に用があっただけだ」
「あーそうですか!」
(何コイツ、まじ苛付く奴)
実行委員は思った以上にハードなもので、体力的にも疲れる役割だった。帰りも残るとか言ってたから、詩貴とも一緒に帰れそうに無い。詩貴にその事を言って置こうと思い、教室へ向かった。
「皆帰ったのかなー。あ、教室に明かり点いてる」
詩貴が居る事を願い、教室へ足を踏み入れようとした。でも、教室からは詩貴と雅人の声が聞こえてきた。恐る恐る、教室を覗いてみた――
(嘘……だろ……?)
目の前にはキスをしてる、詩貴と雅人が目に入ってきた。俺の見間違いだと思いもう一回見てみても、それは紛れも無く詩貴と雅人。目の前の現実にどうして良いのか分からなくなった。足に力がはいらなくて、そこから動けなかった。目から一粒の涙が零れ落ちて、それはやがて大粒の涙に変わった。
「……空? お前そこで何してんだ……」
「……な……お……?」
名前を呼ばれて横を振り向くと、そこには尚が立っていた。俺の泣き顔を見て吃驚したのか、尚は目を見開いて俺の方を見ている。涙を必死に止めようとしたけど、止まらなくて……。
「あ、ごめ……アレ……おかしいな……止まんな……」
「……誤魔化すなよ……」
そう言うと、尚は俺の手を強引に引っ張り学校から飛び出した。そして、着いた先は学校の近くの公園だった。
「……空、大丈夫かよ」
「え、うん……何でも無いよ! 目にゴミ入っただけ……」
「誤魔化すなって言ってんだよ!!」
声を荒げた尚に吃驚した。いつもは、クールぶってる尚が本気で怒って来たから。
「泣きたい時は泣けって……俺だってもうお前の苦しそうな顔見てらんねぇーよ」
「っ……うるさい……お前に何が分かるって……」
「お前が詩貴の事好きなのは分かってる……でも、俺だってお前が好きだ。
お前の傍に居たら、駄目か?」
詩貴を嫌いになる事何て出来る訳も無いし、勿論離れる事だって絶対に出来ない……。でも、尚の傍に居たら、いつか詩貴を忘れられる事が出来るのかな……。
「分かんない……俺は詩貴の事嫌いになれない……」
「それは分かってる。ただ、お前が一人で苦しむ姿は見てらんねぇ……」
「……ん……っ」
唇に暖かいモノが当たった。それが何なのか理解できたのは数秒たってからだった。尚のキスは凄く優しくて、凄く尚の気持ちが伝わって来て……尚を見てると今の自分を見てるようで苦しかった。好きなのかも、嫌いなのかも分からない人にキスをされてるのに、俺は拒まなかった。
これは傷の慰め合いなのかも知れない。そう知っていても、俺は尚に縋ってしまった。詩貴と雅人の事を早く忘れたくて、何度も何度もキスをした。
「……っ……尚、俺お前の事好きかも分からないのに、尚を傷つけてしまうかも知れないのに、
こんな事しちゃって良いのか……?」
「良いんだ。それでお前が辛くないなら」
あまりにも優しすぎてまた涙が出て来てしまった。俺は最低最悪の人間だ。人の優しさに漬け込んで、
最低な事をしてしまった。もう詩貴を好きでいる資格何て無いのかも知れない――
この日をキッカケに、俺は詩貴と雅人と距離を置く様になってしまった。
いきなり急展開ですね(^ω^;)
でも、まだまだ序の口です!