02 両想い
病院の個室にしてはあまりにもデカイ部屋に、二人の幸せそうな笑い声が響いている。
久しぶりに逢うのだから二人とも嬉しいのだろう。無論、俺がその会話に入れる訳が無かった。
雅人は幸せ者だと思う。親にも友達にも恵まれていて、頭も良くて成績も優秀だから先生にも好かれている。そして、詩貴にだって好かれている。多分、完璧な人間とは雅人の事なのかも知れない。
「あ、あのさ、喉渇いたでしょ? 俺飲み物買って来るよ!」
「何だよ空、気が利くじゃんか」
「何言ってんの? 雅人と俺のだけだよ! 詩貴には買って来てあげない!」
「ケチな奴だなぁ……でもお前金無いだろ? 俺買って来るよ」
「あ……そうだった……ごめん……」
「いいよ別に」
”ポンッ”と俺の頭を叩いて個室から出て行った。詩貴はズルイ……俺の気持ちも分からないくせに、すぐ俺の喜ぶ事をしてくる。何か、無関心って罪だ……。
「何か僕、空が羨ましいな」
「……え?」
「だって、学校にも普通に行けてるし……友達多いし、詩貴と仲良いから」
「雅人だって、友達多いしさ、詩貴と仲良いじゃん!」
「うーん……意味が違うんだよなぁ」
「……?? 意味分からん」
(何を言ってるのかが、よく分からない……)
「……話変わるけど、詩貴って好きな人居るのかな?」
「え!? な、何で……」
「いや、空なら知ってるかなぁ……って思ってさ」
「……分かんない」
「そっかぁ……俺はね、詩貴と出会ってからズット詩貴が好き何だよね」
――え……?
「わりぃー、遅くなった。雅人の好きなジュース出てたぞ!」
「本当? 有難う!」
「空は、身長伸ばす為にイチゴ牛乳! ……って、空……どした?」
一瞬、雅人が言った言葉の意味を理解出来なかった。いや、違う。ただ意味を理解したくなかっただけなのかも知れない。詩貴と雅人が両想いだって事を――
(ヤバイ……泣きそうだ……)
多分今、詩貴に触られたら絶対に泣いてしまう。
「おい、空聞いてるの……」
「あ、ゴメン! 俺、寮に戻らないと! 呼び出されてたんだ!」
「はぁ? 何言ってんだよ」
「先行ってるね! 雅人またね!」
俺は全速力で病院から逃げるようにして走った。もう夕方の5時位で、空は少し暗くなっていた。
だからだろうか、辺りの人が俺の目から溢れ出ている涙にも、気付いていなかったのわ――
俺と詩貴は全寮制の高校に通っていて、寮では同室だ。嬉しいと言えば嬉しいのだが、泣きたい時に泣けないのが困る。何故かというと、詩貴は俺が泣いてると必ず理由を聞いてくるからだ。
(どうしよう……泣いてるの絶対にバレないようにしないと……)
でも次から次へと溢れ出て来る涙には逆らえなかった。もう少しで詩貴が戻ってくるから、それまでに泣き止まないと。
「はぁ……いつからこんなに弱くなってたんだ俺……あんな事で動揺する何て……」
いっその事、詩貴を嫌いになれば楽なのに。詩貴から離れれば楽なのかも知れない。
でもそんな事自分には出来ない……出来る勇気が無かった。苦しくても辛くても詩貴が大好きだから。