勇者パーティー・セーラ
故郷を守るため、飛竜の群れに立ち向かったケイは、飛竜の攻撃で背中に傷を負いながらも、なんとか全ての敵を討伐した。
「はぁ……はぁ……!」
飛竜の爪で背中を裂かれたケイは、痛みに悶えていた。覚悟はしていたつもりだが、想像を絶する苦痛に涙がこぼれる。そんなケイに、勇者が冷静に声をかける。
「呼吸を整えろ。魔力を背中に集中させて、傷の悪化を抑えるんだ」
「そ…そんなこと言ったって…」
魔力による傷の悪化防止は基礎的な身体強化魔法の一種だが、今まで魔法を使えなかったケイにとっては至難の業だ。するとそこへ、セーラが駆け寄ってきた。
「傷を見せてください。すぐに治します」
セーラはそう言ってケイの背中に触れようとする。
「ぼ、僕なんかより…セーラ様…腕が…」
「私は大丈夫です」
セーラは飛竜の攻撃で右腕を失っていたが、構わずケイの傷に手をかざした。その瞬間、ケイの背中は優しい温かさに包まれ、悶えるほどの痛みがすっと無くなった。
「まだ痛みますか?」
「いえ…全く…これって、もしかして…」
「はい、私の治癒魔法を施しました」
そう言いながら、セーラは自分の右腕を瞬時に再生させた。
「すごい…!これがセーラ様の治癒魔法…あ、ありがとうございます!」
ケイは深々と頭を下げる。それを見て、セーラは穏やかな声で言った。
「いえ、私の方こそ助けていただき、ありがとうございます。あなたが来てくれなかったら、危ないところでした」
二人の話の途中で、勇者が興味深そうにつぶやいた。
「へぇ…この子、治癒魔法が使えるのか」
「はい。セーラ様は世界で唯一の治癒魔法の使い手なんですよ。勇者様から見ても、治癒魔法は珍しいんですか?」
「あぁ。俺が生きてた頃は誰も使えなかった。治癒魔法の適正は俺の光属性と同じ特別な才能だからな」
「そうなんですね…」
「つーかこの子かわいいな」
「いや、急にどうしたんですか」
「いやー…前世では女の子とまともに関わったことがなくてな…転生したらワンチャンあるかと思ってたんだが…」
「そうですか…」
ケイと勇者が会話している途中、セーラがケイの顔の前で手を振りながら声をかけた。
「あの…大丈夫ですか?」
ケイはびっくりして飛び跳ねた。
「はっ…!な、なんでしょう、セーラ様…」
「何度も話しかけたのですが、どこか遠くを見つめたまま動かなくて…」
「え…全然聞こえませんでした…」
「なるほど。どうやら俺と話してると外の音が聞こえなくなるようだな」
「えぇ…めちゃくちゃ不便じゃないですか」
心の中で勇者と会話するケイを、セーラはしばらく不思議そうに見つめていた。
その後、ケイとセーラは共に村の居住地へ向かっていた。その道中、セーラが話しかけた。
「ケイさん、先ほどあなたが使っていた魔法について聞かせてくれませんか?あのような魔法は見たことがありません」
「えっ?…そ、そうですね…信じてもらえるかわからないんですが…」
ケイは、自分の体に勇者の魂が宿り、勇者の魔力が使えるようになったことを説明した。
「なるほど…転生魔法ですか。確かに、勇者様なら実現できるかもしれませんね」
セーラは、ケイの予想とは裏腹に、すんなりと信じたようだ。話している内に、二人は居住地に到着した。いくつかの家屋が焼けて崩れており、人は見当たらない。二人で地下の避難所に向かうと、村長が人々に指示を出していた。村長はセーラが近づいてきたことに気づき、声をかけた。
「おぉ、セーラ様!よくぞご無事で!」
「えぇ。たった今、飛竜を全て討伐いたしました。怪我をした方はいらっしゃいますか?」
「いえ、全員無事です。本当に、何とお礼を申し上げたらよいか…」
その言葉を聞いて、ケイはほっと胸を撫で下ろした。その時、村長がケイの存在に気づいた。
「ケイ!?何をしていたんだ!探したんだぞ!」
「あ…えっと…」
「村長さん、彼は私を助けてくれたのですよ」
セーラは、飛竜を倒した経緯を説明した。村長は信じられないといった様子だったが、少し考えて言った。
「ケイがそんな力を…にわかには信じがたいですが、セーラ様が見たと言うなら間違いないのでしょう…」
その後、村人たちが各々の家へ帰って行く中、セーラがつぶやいた。
「ずいぶん遅くなってしまいましたね…今から都へ帰るとなると、朝までかかりそうです…」
セーラはかなり疲れた様子だった。ケイが駆けつけるまでの間、一人で飛竜の群れを食い止めていたので、当然だろうとケイは思った。
「それなら、今夜はうちに泊まって行きませんか?」
ケイの提案に、セーラは首を横に振った。
「いえ…大丈夫です。これでも勇者パーティーですから、体力には自信が…」
そう言いかけたとき、セーラのお腹の音が響いた。セーラは恥ずかしそうに目をそらす。
「あっ…これは…」
「よかったら、夕食も一緒にどうですか?」
「……では、お言葉に甘えて…」
そうして、二人はケイの住む家へと向かった。すると、しばらく黙っていた勇者が言った。
「おいお前…やりやがったな」
「え、何のことですか?」
「お、女の子を家に誘うなんて…俺なんて女の子とまともに喋ったこともないのに…」
「そんなに難しいことですかね…?」
「あぁ!勇気がいるだろ!異性と話すってのは!」
魔王に挑むほど勇敢なのに、女性と話す勇気は無いのかと、ケイは思った。
「勇者様にも苦手なことってあるんですね」
「当然だ。人間だからな!」
「なんでちょっと誇らしげなんですか…」
勇者とそんな会話をしていると、ケイとセーラは家に到着していた。ケイが玄関を開けると、中から優しそうな女性が現れた。
「マリアさん。ただいま」
マリアは、親のいないケイを家に住まわせている女性で、普段から何かとケイを気にかけている。セーラが自己紹介すると、マリアはすぐに家へ受け入れた。その後、三人で食卓を囲んだ。
夕食を済ませると、セーラが真剣な表紙で言った。
「ケイさん、少しお話があります…二人だけで」
「…はい」
ケイはセーラを自室に案内した。
「セーラ様…話とは?」
「単刀直入に言います。ケイさん、勇者パーティーに加入し、私たちと一緒に戦ってくれませんか?」
「……!」




