転生失敗?
カント村の少年ケイは、仕事の帰り道で巨大な魔族に襲われるも、突如として降り注いだ光の力によって魔族を倒し、危機を脱したのだった。その際、ケイの体に光とともに入りこんだ者は、自分は勇者であると名乗った。
「勇者様?」
ケイは理解できず聞き返した。
「そう。俺は勇者だ。魔王を倒した、人類史上最強の戦士のな」
勇者は当然のことのように答える。
「いや、勇者様は百年前、魔王と相打ちになったはずでは…?そもそも、あなたは今どこにいるんです?」
ケイは声の周囲を見渡し、声の正体を探すが、辺りには人の気配ひとつない。すると、勇者が自慢げに言った。
「転生したのさ。魔法を使ってな。今はお前の体の中にいる」
「僕の中に!?」
たしかに、勇者の声は外から聞こえるというより、内側から響くような感覚だった。
「あぁ、そうだ。死ぬ前に魂を肉体から切り離して他の生物に移す。それが俺の作った転生魔法だ」
「ちょっと何言ってるかわからないです…」
魔法とは縁遠い人生を送ってきたケイにとって、勇者の説明は理解を超えたものだった。そんなケイに対し、勇者は言った。
「だろうな。俺みたいな天才の考えは、凡人には理解できないもんだ。そう悲観しなくていい」
(ウザっ……)
ケイはつい心の中で不満を抱いた。
「おい、勇者に向かってその口のきき方は何だ?」
「えっ!?」
不意を突かれたケイはびくっとした。
「どうして、僕の考えたことがわかったんですか?」
「俺たちは音ではなく、心で直接会話してる。だからお互い心で思ったことは全部丸聞こえだ」
「何の拷問ですかこれ」
ケイの言葉を聞き、勇者はいたずらっぽく言った。
「ほ〜ん…そんなに心を読まれたくないとは…普段よっぽどやましい事を考えてるんだな」
「いや、生理的に無理ってだけです。ホント、なんで僕はこんな目にばかり遭うんだ…」
真顔で返答するケイに、勇者は不満げに訴えた。
「おい!俺がいなきゃお前は死んでたんだぞ!」
「それはそうですけど…僕なんて死んでも誰も困らないような存在なので…」
「俺が困る!せっかく転生したのに!」
転生という言葉を聞き、ケイはずっと感じていた疑問を口にした。
「そういえば、勇者様はどうして転生を?」
「あぁ、それはだな…」
勇者は転生に至った経緯を説明した。
「魔王が死んでも、魔族どもが消えるわけじゃないからな…残った魔族から人類を守るために、はるばる転生してきたってわけよ」
「嘘ですよね?本当は戦いから離れて可愛い女性と結婚するのが夢で、それを叶えるために転生したんでしょう?」
「な、なんでわかったんだ!?」
ケイの言葉に、勇者は思わず取り乱した。
「心の声が丸聞こえです。さっき言ってたじゃないですか」
「ぐっ…確かにこれはキツイな…」
ケイはさらに疑問を口にする。
「そもそも、これは転生と言っていいんですか?僕の自我、がっつり残ってますけど」
「あぁ…それも想定外だった。一つの体に二つの魂があったら、強い方の意識が残るの思ったんだがな…両方残るとは…しかも俺の意思じゃこの体を動かせないらしい」
「えっ…じゃあ僕の体を乗っ取るつもりだったんですか?」
「うん…そうだが?」
「なんて自己中心的…!まさか勇者様がこんな人だったなんて…」
最強の魔法使いであった勇者に憧れを抱いていたケイは、彼の身勝手さに幻滅してしまった。
「あーあ…転生魔法は失敗だったかぁ…」
勇者は計画がうまくいかなかったことを嘆いた。
「でも、確率で言ったらその辺の虫とかに転生しちゃう方がはるかに高いのでは?個体数が圧倒的に多いですからね。そうならなかっただけラッキーでしょう」
ケイは冷静に諭すも、勇者は駄々をこねている。
その時…
ドカァァァン!!!
「!…爆発!?」
村の方で大きな爆発が起きた。ケイが見ると、すでに村の周辺のあちこちで巨大な火柱が立っている。
「魔力を感じる…これは飛竜だな。ざっと30体はいる」
「30!?飛竜は群れないはずじゃ…」
「今は考えてる場合じゃねぇ。とにかく行くぞ」
「行くって…」
「村にだよ。お前の故郷なんだろ?」
「くっ…!」
状況は理解できないが、放っておくわけにもいかず、ケイは村へ向かって走りだすのだった。




