使ってる?
その間星中と香月を中心に会話がされているから、その小声は小声の意味を成した。朱宮の隣は風野で、その後ろに纏まって星中たちという謎の形なので、当然とも言えるが。
「ん?そう?」
「私がタオルを返しに行った時、周りに人多かったからさ。それに、1人が好きそうだったからそう思うの」
「よく言われるよ。1人も好きだけど、最近友達も増えたから、友達と居ることも好きだよ」
誰もが優しく接してくれるから、それだけ1人の時間よりも複数で居る時間を欲してしまう。1人ですることなんて限られているし、成長や新鮮、興味が湧くことを求める遥は、他人と関わることを求めた。
自分のことすら未知なことが多いが、少なくとも得手不得手の理解はある。だから自分のことより他人に触れ合って知ること得ることを優先する。
最近変化した遥の他人への興味だ。
「それじゃ、私のことも好き?」
そんなことを言っていると予想外にも朱宮は問うた。突然のこと過ぎて驚くのが普通なのだろうが、残念ながら今回は驚くこと一切なかった。
「嫌いではないけど好きじゃないよ。まだ朱宮さんのことについて何も知らないから、その状態で好き嫌いをはっきりさせることはできないかな」
正直に言う。嘘をつかれることを好まないから、そもそも嘘を言わない。後に悪影響のある嘘は、メリットデメリットを天秤にかける。その結果嘘をつくことは阿呆だと判断したなら、その際本音で語る。
人間誰しも隠し事はあって嘘はつく。それを理解するから、遥だって全て包み隠さず発言するとは決めていない。現に過去については倉木に対しても聞かないよう示唆したくらいだ。
「えぇー、それは残念。それじゃ、この機会に友達になれる?」
「うん」
「よーし、それなら頑張るしかない」
両手に握りこぶしを作り、上を見て気合を入れたように発した。しかしその瞬間、遥の目には深層の想いに負の歪みがあるように感じた。顔は笑って、満面の笑みと言えるくらい美しく輝く嫣然だが、目の奥は別の何かを見ているような。淡くて薄い、読み取りが不完全ながらも、不思議な存在なことは記憶に必然的に残った。
「あっ、そういえば、私が返したタオルは使ってる?」
「使ってるよ」
「ホント?バスタオルに?」
「ううん。バスタオルは足りてるし、今は部屋掃除の雑巾として時々役に立ってるよ」
「あっ……雑巾……」
何か打ち砕かれたか、唖然として言葉にしたのは雑巾という言葉だけ。普通、人が使った何かを自分のものとして利用することはない遥。それがバスタオルという人の体に直で触れただろうものならば、当然潔癖でなくとも用途通りに使うことはない。
「ダメだった?」
「あぁ……ううん。全然いいと思う。無駄になってないか心配だっただけだし」
「そっか」
ならば、その驚きに関しても見なかったことのように気にしない。相手の深層の想いを覗けても、知ることのできないことは山のようにあるのだから。
「ねぇ、朱宮ちゃんって特待生なんでしょ?やっぱりモテるの?」
遥を見て会話をしていた朱宮に、紫雲は突然話しかけた。星中たちの話題も朱宮のことになったらしく、タイミング良く聞く流れとなったようだ。
「私が?いやいや、そんなことないよ」
「謙遜してるけど、もう2回告白されてるらしいよ」
「マジか。やっぱりすげぇな」
「凛ちゃん、そういうのは相手の人のことも考えて言わないのが女の子の優しさだよ」
注意をする時も優しさの漂う雰囲気は変わらない。だが、遥と会話してる時の若干暗い雰囲気とは別だ。何故か遥に対しては明るさが消えて話しかけているように思える。自意識過剰だとしても、それは鈍感な遥でさえ判然とするのだから嘘とは思えない。
「それに、2回はモテてるとは言わないよ」
「それは乃愛の基準が高いからでしょ?いつも告白されすぎて狂ってるんだよ」
「それぞれの価値観だな」
風野が言うよう、価値観はある。朱宮の整った美しい顔立ちだと、告白される回数が多くて基準が上がるのも納得だ。
「しかも、特待生って理由でもなさそうだしな。実際、特待生のうちの六辻が告白された回数は今も0回だから」
「えっ、六辻って特待生なのか?」
「へぇ、お前って天才なのか」
「意外。そうは見えないのに。人は見かけによらないってホントなんだね」
星中の発言に、紫雲、風野、香月と驚きを露わにする。しかし唯一驚愕もなく平然とする少女が居た。流石は特待生。類は友を呼ぶように、何となくで理解していたのだろうか。
「特別なことは何もないけどね」
「それこそ謙遜だよ。私たち特待生は、しっかり選考によって選ばれた逸材だから、何かしら特出した才能がないと特待生として意味がないことになっちゃうよ。まぁ、生徒手帳を見れば謎は解けるだろうけどね」
「ってことは、ここに3分の2も特待生が集まってんのか。何万人もの入学希望者が居て、その中での3人。その中の2人がここに居るって……なんかすげぇ奇跡だな」
「今回限りかもよ。特待生のスリーショットは夢のまた夢、ツーショットなんて、金輪際ないかもしれないんだから、存分に視界に入れたまえ」
冗談でも、こうして自分の才能を認めて友人と巫山戯る姿は、やはり特待生として才能を認められたコミュニケーション能力の高さを伺わせられる。
圧倒的な存在感と、誰をも気分悪くさせない発言。タイミングも完璧だから、そりゃ、人は朱宮乃愛に集まるなんて容易いだろうと、遥に思わせていた。




