面白い人
だからと言って、全てを理解したわけではない。優しさが根底にあっても、それを発していないのなら意図的ではなく無意識なのだから。
「それにすら気づいていないことが、その魅力を際立たせていることもあるわ。まぁ、貴方のその魅力と無感情は、完璧な組み合わせということね」
「そんなにかな?」
「私にはそう思える。思い込みでそう思っているだけかもしれないけれど、結構人を見る目には自信があるから鼻高々と言えるわ」
「なら、そうだと思うけど」
倉木の才能はその通りだった。一瀬も九重も八雲も桜羽も星中も一色も、遥の魅力について語っては胡乱な存在だと帰結して話が変わってしまっていた。それくらい人には推察も不可能な魅力を持つことを、たったの1時間程度で導き出してみせた。
そんな倉木の人を見る目はマジだ。
「貴方の魅力は他人を引き寄せて抱擁する。そんな感じだろうから、きっとこれからも人から好かれるでしょうね」
「だとしたら嬉しいよ」
「私は全く嬉しくないわ。そうなれば親友になっても時間を確保できないもの。それこそ、恋人になれば話は変わるけれど」
遥には嬉しくても唯一の親友となれば違う。寂しく感じるものなのだろうか。それが分かれば、遥だって考えて行動することができるのだが。
「貴方とは恋人になれそうにないから、半ば諦め状態ね」
「難しいからね」
「私は貴方を好きにさせることはできないと思うし、そもそも貴方が誰かを好きになるにはまだ時間を費やすことも目に見えているわ。だから恋愛感情を抱くなんて、あってもまだね」
絶対に抱かないと言われないのは不思議と倉木から好かれているようで気分が良い。
そんなタイミングで、思ったよりも早く注文した品が届いた。スイーツだけを頼んで真っ先に食べる倉木が居るので、明太子パスタの次に出すという選択ではなく同時だ。
だから「お待たせしました」と言われて出される品は、先程タブレットにて注文した全てだ。明太子パスタとパンケーキ2つ、バナナクレープの合計4品。どれも出来たてで美味しそうなのは見て分かる。
お互いそれぞれ2つ揃うと、「ありがとうございます」と同時に言う。こういう時に、当然の提供だとしても感謝を伝える倉木は、やはり社長令嬢として基本の道理があるのだろう。礼儀正しいというやつだ。
「美味しそうね」
「バナナ好きなの?」
パンケーキの片隅に輪切りのバナナ。バナナクレープには輪切りのバナナとバナナエキス入りの生クリームが入っているので、先程出した飲み物が大正解だったのかと思って問うた。
「ええ。好きよ。さっきのチョイスは私を知ってるのかと思うくらいにナイスだったわ」
倉木も聞かれた理由を察して答えてくれた。怜悧そうではなく、怜悧のようだ。
「ありがとう。次は水道水を用意するよ」
「……何故?」
「あぁ……いや、冗談……」
困惑し過ぎて訝しげに遥の顔を覗くから、冗談が通じてないことは明らかだった。それだけ冗談を言う人には見えないということもまた、明らかだった。
「冗談?」
「さっきから、嘘よって何回も言われるから、冗談好きなのかと思ったから真似ただけ」
「なるほど。確かに好きだけれど、貴方から言われると混乱するわ。ホントに六辻遥なのか分からなくなる」
「それは仕方ない。俺だって多分そう思うから」
車道を逆走してたら運転免許証持っているのか気になるし、街をフラフラ千鳥足で歩いてハイになっている人を見たら薬物をしているのか気になる。それと似て、六辻遥が冗談を言えば、それが本当に無の権化か気になるのも普通のことだ。
「貴方ってホント不思議な人。飽きなくて好きだけれど」
自分でも思う。何故冗談を言いたくなるのか分からない。咄嗟のことだから、解明すら無理。ただ、倉木の言ったように何かが心の奥底で消えずに今も残っているから、ならば、それが解明の鍵になるかもしれない。
「さっ、食べましょうか」
「うん」
合掌して「いただきます」と一言。ホットケーキをナイフで切って、フォークで刺して口へ。倉木の豪快な一口は、食レポ壊滅的な無感情の誰かとは違ってそれだけで食欲をそそる。
美少女の美味しそうな相好が人を惹きつけるには、ダメージが大きい。遥もそれを見て、明太子パスタを見ても生クリームとハチミツの味がしそうで一瞬食べるのを止めたくらいには影響されていた。
「んーー!見た目通りの味ね。ふわふわのもちもちで生クリームと絡めると更に甘くて美味しいわ」
満足気に頬に触れてモグモグと噛む姿さえ破顔しない美しい顔が保たれる。それを見ながら明太子パスタを口にすると、なんとも言えない味がする。美味しいけど、甘いような。
「食べたことなかったんだね」
「ずっと前から貴方と食べたかったから、今まで食べなかったのよ」
「嘘よ、ってやつ?」
「違うわ。冗談よ、が正解よ」
「そっちもあるんだ」
けど、冗談だって見抜けたことは成長ではなかろうか。倉木によって倉木のことが理解させられていく。親友として近づき始めている証拠なら、この調子でいるのも好ましい。
「ホントはどうなの?」
「前回と前々回はサンドイッチといちごパフェを食べたから、今回は好きなものを食べたいと思って甘々にしたのよ」
「……ちなみに何を挟んだサンドイッチ?」
「カツサンドよ」
「……人に言えない気持ち悪い組み合わせだよ」
今日はたらこパスタを美味しく食べられない日なのかもしれない。




