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唐突に




 その相手を求めていた。そう受け取れる言い方だった。社長令嬢として常に一線を引かれた状態で人と会話をしていたから、その願いは生まれたのだろう。


 「期待に応えれる自信はないけど、俺はいつも通りで会話するつもりだから、社長令嬢とかそういう肩書きみたいなのは気にしないよ」


 そもそも知らなかったから気にする方法も知らない。


 「やっぱり、特別は特別でしか釣り合わないのかしら」


 「そんなことないと思うよ」


 「私のクラスの生徒は少なくとも、私を崇め奉って同じ目線では話してくれなかったわ。まだ全員と話したことはないのだけれどね」


 「でも、全員倉木さんをそういう目で見ることはないと思うから、いつか普通に感情豊かで対等に接してくれる人は現れるよ。それを特別と言うなら別だけど」


 「そうね。気長に待つしかないけれど、そんな悠長に待つ時間も惜しいのよ?私だってしたいことはあるのだから」


 「したいこと?それは聞いても良いこと?」


 確認は必要だ。先程覗かせた負の感情があるから、過去に触れられたくないことは確実にあると遥の中で分かっている。だから土足で踏み込んで人の心情を荒らすことは避けるべきだった。


 「ええ。恥ずかしながら、私は友達が少なくて、親友と呼べる関係の人は1人も居ないのよ。この学校に通う前からそうで、小学生で3回、中学生で2回転校を経験したから、作ることが叶わなかった。だから今、私は可能なら親友を作りたいの。友達は入学してから確立するまでが早い。そして今が乗り遅れないようにするギリギリのラインなの。だから早く見つけたいと思っているわ」


 どこかで聞いたことあるような発言を皮切りに語られた過去と今の想い。それは切実に感じられて、親友という言葉に興味を持った過去を持つ遥は心の中で共感していた。


 「そっか。倉木さんなら親友作れると思うよ。初対面でも臆せず話すとことか、礼儀正しいとことか、言いたいことをはっきり言うとことか、コミュニケーション能力は高いと思うから」


 「現段階では分からないわ。全員私をまだ社長令嬢として接しているもの」


 それを取り除いて、何も気にしないで心の底から笑いあえて楽しめる相手を親友として共に過ごしたいと思う願い。遥は、それを叶えられると確信に近い思いを持っていた。


 第一印象こそ高飛車で威圧感ある人だったが、会話をするとそれは一転、正直者で目標を持った社長令嬢としての威厳ある人へと変化した。


 確かに社長令嬢ならば嫌でもその肩書きがチラついて接する時に意識してしまう。しかしそれでも、社長令嬢という一線を超えてくれる人を倉木は懇願している。無理かもしれないが、線を飛躍してくれる人を。


 「けどまぁ、貴方はどうかしら。比べることはお互いに申し訳ないけれど、三組の男子は皆、私に近づくなり写真を求めて握手を求めて仲を深めることを求めたわ。けれど貴方は私を知らないから求めなかった。私の顔の良さを知っても求めなかった。たとえ私のことを知っていても、貴方はきっと同じ対応をしたと思えるほどに求めなかった。だから私は今、水滴程度の可能性を感じているわ」


 目を見て伝えられるその思いは、きっと遥を念願の相手にしようとしていた。それは遥にだって伝わっていて、求められていることも分かった。


 「俺は親友を知らないから、何をしたらいいのか分からない。願いを叶えれる人にはなれないと思うよ?」


 だからそれは時期尚早じゃないかと一旦止めた。


 「俺は無感情で、人との関わり方なんて適当。役に立たないよ」


 「何を言っているの?だから良いんじゃない」


 しかし更に倉木は続ける。遥が無理だと思う理由を消すように。


 「私だって親友は知らないわ。だからこそ、お互い未知の領域に踏み込んで新鮮に経験を積んで、私たちらしい親友を築けるかもしれないでしょう?私のことを知る人なら、私の好きなことを率先して頑張って、私の気を引いて親友になろうとする。けれど貴方は無知だから、率先は愚か私のエスコートの仕方も知らない。その結果お互い無理のない頑張る必要もなく分かり合える親友になれるかもしれないじゃない」


 何も知らない者同士寄り添って、お互いの苦手や嫌い、得意や好きを知って、その果てに親友という頂上に辿り着く。少し先を行く人に倉木が追いつくのではなく、同時にスタートラインから手を握って倉木と共に走り出すことを求めるのが、倉木の描く親友の未来図なのだろう。


 「それは魅力的だけど、俺と倉木さんがそもそも価値観の違いとかあって友達になれないこともあるよ?」


 「だから水滴の可能性なの。私だって貴方と絶対に親友になれるとは思わないし、友達になれるとも思わない。貴方は誰にだって合わせられるような人だから、もしかしたら思い込んでるだけかもしれない。ただ今は可能性を感じただけだもの。でも、私を知らない人なんて初めて会ったし、少しくらい希望抱いても良いじゃない」


 微笑んだ相好の中にある瞳は、やはり出会った時と変わらず輝いていて美しい。高飛車で女王様気質かと思われた時からだと想像できない、女の子特有の良い意味で蠱惑的な笑顔だ。


 「私からもお願いよ。貴方も素で私に接して。そして無理はしないで」


 「うん、良いよ」


 「よし、それじゃ、出かけるわよ」


 「え?」


 突然立ち上がると満面の笑みで倉木は遥を戸惑わせた。

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