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知らないの?




 相手に迎合して仲を深めることを、遥は仲を深めたとは言えないと思っている。上辺だけの関係なんて糸ほどに脆いから、求めるのは釣り糸のように強固で堅牢な関係。


 それを選ぶ選択権くらいは、遥が持ってたって良いだろうと。嫌々相手と仲を深めることは、決して認めたくなかったのだ。


 「貴方、そういう性格なのね。まぁ、そういう人も居るし、分かったわ。もし合わない性格と思ったら、その時は認証を終えてから関わることはきっとないから安心して」


 「そこまでしなくてもいいけどね」


 「構わないわ。そもそも相性指令で仲を深めろと出されているのに、私たちが合わないなんてこと、それこそないと言い切れるから」


 「確かに」


 それは遥も思っている。嫌い合う関係をくっつけようとする学校側ではない。仲直りなら有り得ても、全くの他人同士が最初から嫌い合うことになる相性指令は多分ない。


 それは倉木も同じらしく、やはり相性というのは上手く管理されているのだと思わされる。


 「何か好きな飲み物ある?」


 椅子や座椅子もあり、ソファもあるのに、何故かベッドに座る倉木に問うた。


 「何でも飲めるわ」


 「分かった。それじゃ、バナナジュースで良い?」


 「ええ。ありがとう」


 「いえいえ」


 コップに注いで運ぶと、遥はクッションに正対した。


 「あら、私の隣に座っても良いのよ?」


 「クッションの方が心地良いから大丈夫」


 「そう?そういえば貴方、私を見た時から何とも思っていないような顔をしているけれど、もっと素直になっても良いのよ?」


 「どういうこと?」


 まるで自分が有名人のような言い方だ。最近会った朱宮や、学年では意外と有名な桜羽のような謙遜はなく、知っていて当然だろうとも言いたげな相好でもある。


 「ホントに知らないの?私の顔を見て何も思わないの?」


 「……整ってるとは思うけど」


 「それはそうだけれど、もっと近づきたくなる理由があるでしょう?」


 何度も何度も執拗に問われたとて、遥の思い当たる節は1つとしてなかった。


 「ごめん、そういうの分かんないから……」


 「嘘でしょ?このクラキカンパニーの社長令嬢を見て、貴方は知らないとでも言うの?」


 「うん」


 「……世間知らずなのかしら?……初めてよ、私のことを知らない人に会うのは」


 愕然として頭を抱える。それだけ自信があって絶対的な思いがあったのだろう。けれど遥にとって社長令嬢なんて記憶の欠片にすら残らない単語であり、人の顔なんて覚えれないから知らない。そもそも中学時代は外を知らない。故にどこぞの社長令嬢なんて記憶することもなかった。


 「そもそもクラキカンパニーを知らない?」


 「うん」


 「疎いにもほどがあるわ。まぁ、それなりに理由はあるのかもしれないけれど」


 やはり察してくれるのは同じ道を歩んだ者としての勘だろうか。倉木も幸せな人生ばかりを送れたのではないことを、その瞬間に察した。


 社長令嬢だからって順風満帆な人生が確約されることはない。社長令嬢には社長令嬢なりの人生があって、桎梏されることも多いのだろう。だから遥も、簡単な人生だっただろう、と、早速忌避することは決してない。


 「私はクラキカンパニーという日本で最も有名な会社の社長を父に持つ社長令嬢。だから大半の人には私は知られてる。今回も知ってるだろうと思って来たけれけど、大きく的外れで驚き中よ」


 「期待に添えなくてごめんね」


 「いいのよ。そういう人だって幾人居ても不思議じゃないわ」


 社長を知っていても社長令嬢は知らないことだって絶対にある。知らないからって常識外れの人だと嫌悪しないのはありがたい。


 「これで何故、貴方が私に驚きもしないのか理由が分かったわ」


 「倉木さんのこと知ってても、大半の人は逆に隣に座れないと思うよ」


 「恐れ多かったりするからでしょう?それでも、私と2人きりなら喜んで座る人は多いわよ。思い出したくもないけれど」


 遥は人の深層にある想いを知れる洞察力を持つ。かつて無意識に持ってしまった才能の1つだ。それは常に無条件で無意識で使えるから、嫌でも分かってしまうのが、相手が負の感情を抱いた瞬間だ。


 ――思い出したくもないけれど。


 その言葉には悲しみ、寂寞、不満、嫌悪など様々な負が混じっていた。だから良いとは言えない経験を重ねたことは、自然と遥に伝わった。


 「それを倉木さんが望むなら座るけど、何も知らない他人から隣に座られて落ち着ける人って少ないから、今日は遠慮してここで話すよ」


 「そう。何も知らない貴方は、やっぱり珍しいわね」


 「よく言われる」


 存在が稀有だ。無感情の時点で普通ではないし、更には悲惨な過去を経て笑い方も悲しみ方も怒り方も見失ったとなれば、共感する人生を歩んだ人は指で数えれる程度しか存在しないだろう。


 体罰やDV、いじめなどに対して否定的で法律も強化されているこの時代。遥に共感してくれる悲劇を経験した者は、きっと幽玄高校には皆無だろう。それだけ珍しい。


 「私を知らないなら、結構会話が弾んで楽しめるかもしれないわ。他力本願が私の基本だけれど、今日は私から話しても良いかもしれないと思うから」


 「そう?」


 「私の自慢話を聞いてくれそうだし、私が社長令嬢だからって持て囃すこともなく接してくれそうだもの。だから相性指令で貴方と会ったのかもしれないわ、六辻」

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