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急な出会い




 料理教室に通っているからといって、別に土日が充実することはない。部活もなくて趣味もない。けれど中学生の頃、ただ外を走って部屋に戻って、ただ適当につけられたテレビを眺めて、ただ寝て起きてを繰り返していただけの遥にとって、やはり休日は価値のある日ではない。


 きっと世間では、友人と出かけたりゲームをしたり、趣味の共有を当然として青春を謳歌しているのだろう。そんなことが当たり前と思えている時点で、遥と価値観が懸隔しているのだが、羨ましがることもないから休日に何もしなくたって良かった。


 未だ受け身の姿勢は変化なく、好機が訪れるならば手を取るだけ。それを常に頭の中に入れて愚直に遂行するから、今も尚、珍しく梅雨の時期に回復した天候の休日にすら何とも思っていなかった。


 しかし、そんな空虚な時間を滅却してくれる存在がこの幽玄高校には何人も居る。例えば、相性指令によって仕方なくも接触を求められる場合とか。


 そしてそれは突然訪れる。


 珍しく遥の住む6100号室にピーンポーンとインターホンが鳴り響いた。贈り物を届ける間柄の人は叔父だけ。しかし月一度の仕送りは届いている。他にもショッピングセンターやスーパーでの配達も頼んでいない。


 十中八九、訪問しているのは遥の知らない何かだった。


 「こんな時間に……」


 朝の10時過ぎ。中途半端にも思える時間帯に遊びの誘いでもないだろう。料理を作れと一瀬や桜羽が来ることもない。そんな冷やかしに本気になる人たちでもないからそれは分かる。


 結局何を考えても答えは出ない。なら待たせ続けてドアを破壊されても困るので、二度目のインターホンが鳴り響くと、時計から視線を逸らして駆け足で向かった。


 「はい」


 幽玄の寮のインターホンは、ボタンを押さなければ相手の顔が見えないようになっている。だから相手を嫌がって居留守を使うことは難しい。


 そんなこと遥には関係ないが、ボタンを押して呼び出しに応える。するとそこに立っていたのは予想外にもはじめましての女子生徒だった。


 『あっ、居たのね。ならもう少し早く出なさいよ』


 「えっ……あぁ、うん。ごめん」


 遥も会話した瞬間に分かるくらいのツンツンした人だ。腕を組んで堂々と仁王立ち。ボブヘアにくりっと大きくて澄んだ瞳。紅い唇はインターホン越しでも艶があって、これが世でいう美少女という類の人なのかと思うくらいには端正な容姿をしている。


 とはいえ、初めて言われた言葉が衝撃的で若干困惑した。


 『いいわ。私は倉木杏(くらきあん)。一年三組に所属するのだけれど、今日は六辻遥――貴方に相性指令を出されたから来たの。だから早く出て、私を部屋の中に入れてくれないかしら?』


 高飛車にも軽く来た理由と所属を明かす。同時に理解した。三組といえば女子が15人で男子が25人のクラス。一組と比べて陽気で騒がしい女子が多いクラスなので、その1人だと思うとこのグイグイ来る勢いにも納得だ。


 「分かった。待ってて」


 『早くし――』


 「あっ……いいか」


 途中で切っても分からないだろうし、別に気にしない。そんな小さなことでグチグチ言う人でもないだろうから。


 そうして再び駆け足で向かってドアを開けると、インターホン越しでは分からなかった身長や顔の小ささ、改めて容姿の評価を一段階上げてくれるような優艶な女子生徒が立っていた。


 「遅い。蒸し暑くて死ぬかと思ったわ」


 「この暑さなら大丈夫だよ」


 「私を貴方と一緒にしないで」


 「それもそうだね。じゃ、どうぞ入って」


 「言われなくてもそうするわ」


 開けたドアをそのままに、人が1人入れるスペースを堂々と入る。これが普通のもてなしよね、とも言わんばかりに。


 しかし、履いてきたスニーカーは丁寧に脱いで丁寧に並べ、先に歩くことなく遥が案内するのを待つようにその場に止まった。


 (しっかり者なのかな?)


 この先が遥のプライベートだと知って、勝手に入ることはしないのだろうか。だとしたら、以前打ち上げで構わず勝手に入って騒いだ一瀬たちとは違う性格の持ち主ということにもなるが。


 「今日は相性指令で来たって言ってたけど、部屋の中に入らないとダメなことだったの?」


 待ってくれたのだから先を行く。その途中、部屋に入りながらもドアを開けて問うた。それに「ありがとう」と言って続ける。


 「入る必要はないけれど、入る方が涼しくて楽だからそっちを選んだのよ。内容は、【第一学年一組所属――六辻遥と接触し関係を深めよ。部屋番号6100。期限は本日24時。遂行次第六辻遥の指紋を認証すること】だから、どこかに散歩することは必要ないわ」


 一言一句間違いはないように、証明するよう座りながら言った。クッションではなくベッドに。


 「俺と関係を深める?」


 「そうよ。今日だけで仲良くならないといけない。だからとことん付き合ってもらうわ」


 「分かった」


 願ってもない好機だ。遥だって他人から接触されて仲を深めることが可能なら僥倖。けれど、その中でも1つだけ遥でも重要なことがあった。


 「けど、その代わりに1つだけお願いをしていい?」


 「何かしら?」


 「嘘をつかないで、本心で話してほしいんだ。俺、ホントに賢くなくて鈍感で、人情とかそういうのに疎いから、偽りかホントかを見抜けない。だから、折角友達になるなら、素で仲良くなりたい。その方がお互い楽しいだろうから」


 それこそ、本心から伝えた。

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