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正体不明




 時間的に余裕はある。しかしそれは、19時前にしたい複数のことを諦めるなら、だ。準備は必然だとして、他に学びたいことはある。とはいえ、既に承諾したのだから今更後悔もなければ、しないといけないと絶対的な思いに駆られることもない。


 それに桜羽の部屋に入って会話することは無駄とは思わない。まだ完全にお互いを知り合えた仲ではないのだから、少しでもプライベートな空間での会話も必要だろう。


 「分かった」


 「ありがとう!」


 だから欲に負けた一瀬に、またもや付き添うことにして桜羽の部屋に入室した。


 (それだけ食べたかったのか。ってか、まだ食べてなかったんだ)


 入学から約1ヶ月経過して、同時に一瀬がプリンを欲した日数も約1ヶ月となった。その間桜羽の言葉に甘えてしまうくらい欲しい食べ物をその間我慢していたと思うと、食への執着というか考え方が並大抵とは比肩しないのだと嫌でも分からされる。


 「一瀬さんは桜羽さんの部屋に入ったことあるの?」


 「ないよ。これが初めて」


 「そうだな。君たちが私の部屋に入った最初の人だからな」


 「それは知ってるよ。優に友達居ないんだから」


 「私をイジメてもプリンが出てくると思っているその謎の自信だけは褒められたものだな」


 「痛っ」


 何故か案内する側の桜羽ではなく、一瀬が前を歩いていて、ちょうどいい位置に頭があったらしく、軽く後頭部をパシッと叩いた。


 内装に関してはどの部屋も全く同じだ。だから迷うことは決してない。だとしても、人の部屋にはそれなりに人の個性が表れるもので、散らかってたり大切な何かを置いていたりする可能性もある。それを踏んで壊したりする恐れがない様子なのは豪胆というか、桜羽だから大丈夫と安堵しているのか、一瀬の行動は遥にはまだ分からない。


 「うわぁ、デジャブを感じる部屋だね」


 「六辻の部屋と然程変わらないからな」


 特にいじるほどの面白さを持った内装は1つとしてないが、だからこそ遥と似た内装になってそれはそれでいじれる。必要最低限の家具だけで、唯一入っていた他人の部屋である一色の部屋と比べれば、断然桜羽の部屋の方が落ち着きというか空間の広さは感じる。


 まさに六辻遥と同じ部屋だ。


 「誰も好んで入れようと思わなければ、誰の部屋も形は同じなのだから彩りを添えたところで無意味だ。おもてなししなければならない相手を呼ぶこともないと言えるだろうしな」


 排他的とも言える自分だけの世界を絶対とした考え。遥にはその気持ちがなんとなくだが分かる。


 「もし相性指令で部屋に入ることを望まれたら?」


 「当然入れる。だが相性指令で来たのなら、私がおもてなしする必要はない。相手も相性指令に動かされて来たのだから、自分の意思で来ない相手を快く迎える必要は皆無だからな。どう思われたって構わないということだ」


 遥は前々から思っていた。桜羽優という存在には他人に心底興味を持たないという決然があるのではないか、と。


 恋愛に関してだけならまだ分かる。人は好みがあって、まだ恋愛をしたいと思えない歳だったり、したいと思えない歳だったりして自由に選択が可能だから。


 けど人間関係に関しては分からない。相手が自分と仲を深めるために来ている可能性があって、メリットも十分確保できる相性指令に対しても、桜羽は関係なく切り捨てると言った。


 やはりこの学校に通う理由は親から離れるだけ一択なのだろうか。だとしたら、何万人もの入学希望者が居て、その中から特待生除く197人の1人として選ばれるには、いささか志望動機が薄い。何か選ばれた1人になる才能が隠れていると思えるが、さてそれが本当か否か答えは桜羽しか持たないから不明瞭だ。


 「優らしい考えだけど、どうしてそんな他人に興味ないの?」


 タイミング良く、遥も気になっていたことを一瀬は堂々と聞いてくれた。同時に寛ぐために、一瀬はベッド、遥は床に座って足を伸ばした。


 「逆に聞きたい。何故他人に興味を持つんだ?自分と違う価値観が大半で、自分と違う生き方をして、自分を知らないで接触してくるだけの他人に、何故興味を持てるんだ?」


 私を知らないのに何故堂々と近づける?と。不幸せな両親の喧嘩を見て嫌になり、抜け出すように幽玄高校へ足を運ぶこととなった桜羽。辛い過去を知らないで接触する人たちに、嫉妬に似た嫌悪が少なくとも混じっているようだ。らしいといえばらしい考えだ。


 「もしかしたらその中に自分と相性の合致する人が居るかもしれないから持てるんだよ」


 それに対して一瀬は幽玄高校に通う最もな理由で返した。


 「私は自らこの学校を選び、自ら動くことを面接で伝え、決めている。だから相性指令だってその私の意思を汲み取って、相性の良い相手と接触するなら私から接触するよう組まれると信じている。だから接触することは好ましくても、されることは好ましくないんだ」


 だが桜羽の考えは堅牢であった。揺るがない絶対の思いは、一切瓦解する気配を見せはしなかった。


 「なるほどねぇ。そういうことか」


 自分から手に入れたいと強く願う桜羽は、相手から来ることを求めない。それを知る学校側は、当然その意思を尊重して成長の鍵とするだろう。なるほど、その考えはなかった。

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