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誰?




 聞いてはいけないことを聞いたのかもしれない。けれど八雲の反応的にそれはない。暗闇で見えにくい顔が今どうなっているのか分からないが、「ええっと」と何度も呟く姿は罪悪感を感じない。


 だから待った。答えが言われるまで、八雲のペースに合わせた。そして暫時、ようやっと口は開かれる。


 「まだ分からないよ。でも、時間の問題かなとは思う人は居るよ」


 今の自分に、答えは出せないということだろう。だけど、自分の意見を反芻すれば分かるように、その好きという領域に居る存在に目を背け続けることは叶わない願いだ。だから時間の問題なのだろう。


 既に八雲の中に恋愛的好意を抱く人物は居て、けれどそれが絶対なる好きかと問われれば曖昧なとこ。それは曖昧なだけで、傍から見ると答えは明確すぎるくらいに分かる。


 「後々好きになるかもしれない人?」


 だけれど、この六辻遥という無の権化だけは違った。八雲の思いを察せない、無感情の影響だ。


 「そう。いつか六辻くんの前にも現れるだろう好きになるかもしれない人」


 「そうだと良いけど」


 現れるとは思わない。いや、思えない。今の遥に好きな人という言葉は最も遠いと言っても過言ではないから、そんな可能性を持つこともない。


 「そういえば、八雲さんって好きなこととか物ってある?」


 「これまた突然だね」


 「友達の好きなことや物について、八雲さんだけ特に知らないと思って、今日聞いてみようって思ってたんだ」


 「なるほど、私の好きな色々か。食べることは好きだよ。あとは部屋で寛ぐこと、寝ること。好きな物は変なぬいぐるみかな。変顔とか寝顔とか、ブサイクな顔してるぬいぐるみとかは面白くて好きだよ」


 自己紹介をされてるようで今更感満載だが、これもまた九重の為なのだから無駄ではない。八雲の好みを知ることで、遥にだって友人としてメリットはある。お礼や誕生日を祝うことができたり。


 「へぇ、女の子って感じだね」


 「女の子ですから当然です」


 普段桜羽に対して言うようなことを八雲に言うのは失言か。否、そんなことはない。八雲は冗談が通じるのだから、男っぽいと言われてもノリよく返してくれる。


 桜羽は敵意むき出しで殴ってきそうだが、それもまた遥の中の思い込みだ。


 取り敢えず、これで九重からの依頼は達成した。願われたこと以外は聞かないので、ここからは背負うものもない楽しい会話ができる。


 「あっ、六辻くんにバカにされてたらコンビニすぐそこじゃん」


 「バカにしてないよ。気を悪くさせたらごめんだけど」


 「ふふっ。全然そんなことなーいよ。折角だし、初の相性指令と料理お疲れ様ってことで、私が六辻くん大好きのカフェオレでも奢ってあげようじゃないか」


 「えっ、なんでカフェオレ?」


 「好きでしょ?いつも購買から戻ってくるとカフェオレも一緒だから、カフェオレ大好きマンかなって思ったけど、違う?」


 洞察力が凄い。他の人も皆気づいているのかもしれないが、それでも昼休みに買ってくるただの食べ物飲み物に意識して記憶するだけの余裕がない遥の脳みそは、八雲の記憶力と洞察力を凄まじいと判断した。


 「ううん。好きだよ」


 「なら奢るよ」


 「今は全部無料だけどね」


 「それを言ったらダメなのに。まぁ、六辻くんなら言うと思ってたけど」


 手のひらの上で操られている感が半端ない。九重はこれに対応していると思うと、相性の善し悪しはやはり伊達の関係を築かないのだとハッキリ分かる。


 「よし、行こーう」


 朝起きて学校に通って、六辻や一瀬、その他の友人と会話して料理教室通って、そしてこの陽気さ。常に元気で精彩を欠かないのは、人前で弱さを見せない人の特徴でもあるが、心の底から願うのは不満やストレスを抱え込まないでほしいということ。せめて、九重には吐き出してほしいと思う。強く全てを吐き出しても、九重なら何とかしてくれるだろうから。


 そうじゃないと、人は簡単に壊れることを遥は知っている。


 それから暗闇を街灯だけに照らされてコンビニへ向かった。中に生徒は2人だけで、寮から近いこともあって一般客は然程コンビニに寄らないので、そう多く見られることはない。


 その後「これだ!これだ!これだぁぁ!」とカフェオレを選び、遥が最も好むカフェオレに5つ目で辿り着き、誰もお金を払うことなく購入を終えてコンビニを出た。


 ちなみに八雲は自分用にミルクティを購入した。


 「はい、どうぞ」


 「ありがとう」


 渡されるともう目の前の寮へと再び歩き出す。


 すると遥はふと、寮へと続く道に置かれたベンチに目を向けた。正確には、ベンチに座る1人の生徒に、だ。


 その生徒の目の前を通る時、横目でチラッと見るとその瞬間、時が止まったかのように目が合う。女子生徒であり、遥と目を合わせるなり無表情ながらも目が開かれるのが刹那でも分かった。


 「わぁお。先輩かな?それとも同級生?すんごい可愛かったね」


 おそらく人脈の幅広い八雲だが、その八雲でさえ知らない人。クラス内39人の中に彼女は居た記憶がない。だから少なくとも一組ではない。


 「この時間に1人でベンチ座ってるのって、何か理由あるのかな」


 「さぁ」


 「美少女の悩みなら、六辻くんが解決することで仲良くできるかもよ」


 「俺には悩み解決は向かないよ。八雲さんが適任」


 「私は自分のことで手一杯。それに美少女の悩みは私みたいな平凡じゃ手に負えないよ」


 たとえ手に負えなくても、手を差し伸べるのが遥の性格。しかし彼女には悩みがあるようには見えなかった。ただ偶然、その場に居るようにしか。だから八雲がどこで悩みと思ったのか気になるとこではありつつも、彼女のことは既に頭の中から消えかかっていた。


 そして同時に寮にも近づき、いつも通りの帰宅を終えた2人は、各々自室へ帰宅した。

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