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完成しました!




 言われたようにピーマンをフライパンの上に置いて、後は加熱しながら様子を見て完成となる。始まる前は簡単かな、と思っていた通り、遥の想像していた料理よりかは全然簡単だった。


 元々材料があるから、それらを用いて手順通りに進めることで簡単と思えるのだろう。今日は何を作るか決め、それに合った材料を買って材料を揃える。調味料などは部屋に保管するため、冷蔵庫の中を確認しないといけないし、ただ料理をするだけでも想像以上の面倒と時間を費やす。


 今後自炊をしてみようと思っても、暇がなくなって忙しい日々に追われたらきっとその意欲も彼方へ消え行くはずだ。だが風前の灯だとして、やらないよりやる方が何倍も賢くて得だ。だからやる。それが原動力だから。


 そんなこんなで詰めた肉にも火が通ったのを目で確認し、火を止めるとフライパンに置かれたピーマンの肉詰めたちを取り出す。肉だけなら茶色く美味しい焦げ目が目立つ程度の見栄えで済んだだろうが、タレが絡んだ結果、若干黒色寄りに見えてあの言葉が思い出される。


 「危なかったのかな?それともこれが普通?黒曜石一歩手前で踏みとどまったって色してるよね」


 「完成したし、先生を呼んで確認してもらえばどう?俺も完成したから」


 「だね」


 只今散歩中で暇そうな雪入を「センセー」と間延びした声で呼ぶ。そんな八雲の手元にはピーマンの肉詰めがあって、遥と似たような黒っぽい色合いもあった。


 だが最初にしては上出来だろう。それに最初から時間に間に合わず不器用を晒すつもりでいたのにそうならずに済んだこと、少なからず今日から料理教室という2人を気遣った雪入の陰の善意には感謝だ。


 八雲の呼びかけに気づくと、雪入はマイペースにゆっくり歩いてこちらへ来る。何も教えない、基本見回るだけの仕事は意外と疲れるらしく、向かって来る時の相好がそれを教えてくれた。


 「はいはい、どうしたの?」


 「完成したので呼びました。どうです?」


 「手順通りに作って、あとは味が自分にとって満足ならそれが成功だよ。料理には統一された失敗もないし、成功もないからね。ただ、美味しくない料理を成功と言えないのは、共通の失敗かもしれないけど」


 言いながら八雲の作ったピーマンの肉詰めを一口分切ると、それを口に運んで味を確かめる。


 「うん、美味しいよ。ピーマン嫌いな人にでも食べさせてあげるといい」


 「ホントですか?やったぁー!」


 「六辻くんは完成したの?」


 「はい」


 「ふむ」


 喜ぶ八雲の隣から、届く距離にある遥のピーマンの肉詰めを切って食べる。成人女性の平均身長よりも高いので、手足もそれなりに長く見えるからスタイルも良く見えて、届く距離とはいえ苦ではないのは女性の憧れだろう。


 「これは六辻くんの方が美味しいね」


 「えぇ!同じ作り方だったのにですか?」


 「六辻くんの方が私に対して食べてほしいって愛情が込められてたから、それが愚直に伝わってきたよ」


 胸に手を当てて、伝わったことで惚けるように演技をする雪入に、遥は深く捉えることなく冗談とも思わなくて言葉通り受け取ると返す。


 「愛情は入れてないですよ?」


 「ほら、六辻くんもそう言ってるんですよ?」


 「はぁ……冗談だよ冗談。講師がそんなこと言って贔屓すると思ってるの?」


 六辻も八雲も冗談とは思っていなかったことに呆れたらしい。冗談の通じない若人2人に何故冗談を言ったんだろうとも言いたげな面持ちは崩れることはなかった。


 「お互い味に変化はないよ。同じ材料で同じ分量なんだから。最初にしては上出来ってことは言っとく。今回は最初だったし、そんなに難しくなくて教える必要もない料理にしたけど、次からはハードル上げるから覚悟しててね。残りは自分で食べて、片付けに入って良いよ」


 「詳しく手順を記載してくれてたら大丈夫ですよ」


 「そうするよ」


 自分が考えて自分だけで成長する。その教育方針は、幽玄の敷地内ではどこも同じだ。だから料理教室だからって全てを付きっきりで教えてもらうことはできない。いつかは教える立場になるのだから。


 「それじゃ、綺麗にしてね」


 それだけ伝えて、次雪入を呼ぶ生徒のとこへ向かった。


 「ふぅ。なんとか作れたね。どうだった?」


 「思ってたよりは作れたかな。味に関しては、ピーマンは好きじゃないからなんとも言えないよ」


 「ピーマン嫌いとか子供っぽくていいね。私も嫌いだけど」


 自分で作ったピーマンの肉詰めを食べながら、やはり苦味を強く感じる味蕾は、ピーマンを酷く嫌悪している。それは八雲も同じで、勢いと気合いに任せて何度も口に運んでいた。


 「でも、中々良かったよね。簡単だからかもしれないけど、料理手順は頭の中に入るし、入れなくてもこのレシピを持ち帰ることも許されてるから覚えなくてもいいし。また作ろうって思えるから、時間ある時はいいかも」


 「うん。取り敢えず九重がピーマン嫌いじゃないことを願うよ」


 「確かに。私が嫌いだからあいつも嫌いだったりして」


 相性が良いと味蕾も似るのか。だとしたら、それは本当の相手なのかもしれない。


 「まぁ、今はそんなこと考えるより、作れた余韻に浸りたい。この面倒な片付けを前に言えたことじゃないけど」


 たとえ料理が簡単とはいえ、洗い物は生まれる。それを始まる時と同じように綺麗にすること、それも料理をしたくない理由の1つだった。


 「うん。大変だよ」


 どれをどう使えばいいのか分からなかった遥は、自分の使った道具と八雲の使った道具を見て、明らかに量のおかしい自分の洗い物に、当然気分を悪くしていた。

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