もしかして
興味があるかと聞かれればあると答える。恋愛という概念には興味ないが、他人が他人に抱く好意が、持たれることでどう変わるのかを知りたかった。
好きになったから言動に変化があるのか、好きだから特別に想いたいことがあるのか。感情の起伏について知識皆無の遥は、それらを些細とは思わなかった。
「よーし、19時になったからこれから今日の料理教室始めるよ。何を作るかは、それぞれ机に置いてるから捲って自分で確認してね」
いつの間にか時間は19時に。それに合わせて雪入は生徒たちに指導を始める。レシピは開始と同時に捲ることが指示されており、始まる前に見ないようにと釘を刺していたので従順に守る。
「これかな?どれどれ……ピーマンの肉詰めだって」
「ピーマンの肉詰め?」
「うん。あれじゃない?ピーマンの中に肉を入れるやつ。多分だけど」
お互いにハッキリと頭の中にピーマンの肉詰めを描けない。食べたことないし見たこともない。聞いたことはあるかな?程度の覚えしかないので、つまりこれが初めて作るピーマンの肉詰めということになる。
「調理時間は45分。各々完成か、質問があったら私呼んでね。その間私は見回りながらしっかり食べ物となるよう作れてるか見て回るから、しっかり料理すること。それじゃ、始め」
ピッとタイマーを押して45分間の料理タイムが始まる。
「意外と簡単かな?」
「レシピに載ってる完成した写真見ると簡単っぽいけど、実際作らないと分からないよ」
ただピーマンの中に肉が入っているだけ。それを見れば簡単と思うのは必然だ。
「そうだね。取り敢えずレシピに従って進めようか」
「うん」
そう言って玉ねぎを取ると、みじん切りにするために包丁を持った。こういう時、大体は剣呑な雰囲気が張り詰めるのだが、八雲が持ってもそうはならなかった。不慣れではあるが、ザクザク切る手際に迷いはなく、怪我をする気配もない。
(唐揚げを黒曜石にするだけで、他は普通に上手なのかな?)
能天気にも思える性格で、ひたむきに料理に取り組む姿には驚かされつつも、自分も頑張らないと、と奮起しようと意欲が湧いてくる。
だから同じく玉ねぎを取り、みじん切りにするため不細工な包丁さばきで切り込む。
「目に染みるぅ。玉ねぎは何かしたら染みなくなるって言うけど、それしてないんだね」
「らしいね」
目を細めながらも染みることに耐え、それでも切り続けるのは執念のよう。それを見てると何故そこまで料理をするのだろうかと、暇という理由しかない遥は思った。
「八雲さんって、なんで料理するの?将来のため?」
「ん?あぁ、まぁ、それもあるよ。料理は覚えて困らないし、無駄もないから得だなって思ってる。けど、一番の理由は、九重だよ」
「……九重?」
ここで出るとは思ってなかったから、何故そこで九重が出るのか、その時は全く分からなかった。
「あいつ、私の部屋によく遊びに来るんだけど、その時にお腹空いたって何回も言うから、私が作ってもいいよなと思ってね。それから自分1人で始めてみたけど、黒曜石作るとやる気なくなっちゃって。だから料理教室行こうって決めたんだよ」
「へぇ、そうなんだ」
遥の思っていたより、九重は八雲が相性の良い相手として確定して接しているらしい。以前まで、「まだ相性の良い相手見つけられない」と言っていたのに、いつの間にかこうだ。人というか、九重優斗の心も案外変わりやすいのだろうか。
「やっぱり仲良いんだね」
「男子の中では一番接しやすいかな。六辻くんもそうだけど、六辻くんは誰相手でも接しやすいって印象を持たれるから例外。九重はなんとなく、趣味も合うし笑いのツボも似てるし、相性良いんじゃないかっては思うよ。うぅぅ……染みる」
(こっちもか……)
似た者同士、類は友を呼ぶとはこのことか。
九重も相性良いかもしれないと言っていたが、まさか八雲も思っているとは。お互いに相性良いと思うことに恥じらいを持った様子もないし、幸せを感じていることも隠そうとしない。
自分の好きを相手が埋めてくれる凹凸コンビではなく、自分の好きを相手と共有して幸せ埋めてくれる凹凸コンビだ。
「相性良い相手、見つけたかもってこと?」
みじん切りを終えてボウルの中に入れて問うた。
「うん。まだ何人も関わってない人は居るから絶対ではないけど、私は九重を嫌がらないし、初めて会った時から気さくに話せた。それだけでも十分、見つけたって私は言えるよ」
それ以上は求めない。それだけ自分の性格と合致しているなら、たとえ相性の良い相手じゃなくても構わない、と。今後を左右するだろう幽玄高校の最も大切で重要な関係を、八雲は既に確立しようとしていた。
「そっか。だから九重に美味しい料理を食べてもらいたいって思ってるんだね」
「そういうこと」
それが懸想か否か、それは聞かない。でも、懸想だったら良いなと思える。まだ不確定なことだが、4月のイベントでチームメイトとなった友達は皆、過去に常闇の負を抱えている。だから、その負に抗って今も生きている人たちは、報われたって良いじゃないか、と。
本気でそう思えるのは、過去に幸せを感じずに長年地獄を経験した遥だからこそだ。友人への情は厚くて、これから先明るい未来だけを歩んでほしいと常に願う遥の善意だ。




