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良い機会




 「中に入るとホントに料理するのかって思うよ。違和感ってやつが凄い」


 「すぐ慣れるよ」


 特に気になることは何もない。八雲にとってはその空間が緊張を煽る材料になっているのだろうが、無感情で鈍感、そそんな空虚な心を持つ遥は共感することはない。


 周りを見渡してどういうとこなのか、ただ白一色の壁を見たり目立った装飾もされていない清潔感ある教室内を見ている八雲は、何度も綺麗という言葉を口にしていた。それを見ながら、八雲の価値観は普通なのかな、なんて思いながら、指定の場所に向かっていた。


 「あっ、居た」


 「雪入先生だ。レッツゴー」


 正面を向くと、そこには申し込みの際にも居た担当講師――雪入(ゆきいり)あずさが居た。今年アラサーの領域に入ることを嘆いていたことが印象深い女性講師だが、料理の腕前は凄まじいらしく、料理教室に通った生徒は皆満足しているという実績を持つらしい。


 そんな雪入のとこへ、2人は足早に向かった。


 「雪入先生、どうも!」


 「おぉ、八雲ちゃん。それに六辻くんも。珍しい組み合わせだね」


 「どうも」


 身長は八雲と変わりないくらい。茶髪のボブヘアーに、右目の下にある小さなホクロが特徴の、若々しさを感じる魅力ある女性だ。


 「六辻くんは大人しくて、私は騒がしいですからね。でもめちゃくちゃ仲良しなので」


 「そう。若いって良いねぇ。私もこんな時期あったのかと思うと感慨深いよ」


 「先生もまだ若いですよ。大学生って感じします」


 「だとしたら、それはそれで幼いって言われてる気分」


 「アラサー手前の女性の扱い方、私でも難しいと思いましたよ」


 年齢に関してシビアになる時期なのだろう。そんな時はそもそも年齢に関することを一切触れないのが賢いというものだと遥は知っている。もし年齢や美に関することに相手が触れたとしたら、その時は人それぞれと言って逃げるつもりでもいる。一応の回避方法は備えているつもりだ。


 「それが女って生き物だから仕方ない。さっ、取り敢えずエプロン着て戻ってきて。ロッカーは前説明した場所ね」


 「はーい」


 間延びした返事をして、すぐに自分のロッカーへ向かう。距離はそんなにないし、名前があるので間違えることはない。ロッカーに生徒手帳やスマホを置いて、予め用意していたシンプルな白黒ストライプの入ったエプロンを着ると、ほぼ同時に着た八雲と共に雪入のとこへ向かった。


 「早いね。それに中々様になってる。特に言うこともないから、初めてってこともあるし色々説明するよ。まず組み合わせについてだけど、幽玄高校側から言われているように、料理教室では基本1人で作業をすることになってる。けれど既に関わりの深い生徒同士なら組み合わせ可能だから、八雲ちゃんと六辻くんは二人一組になってもらうね。その方が私も見回る数が少なくなって助かるし」


 周りを見て分かるが、既に料理教室に来て準備を始めている生徒は9人で、二人一組の組み合わせが1つだけ。他は1人で淡々と準備を進めている。先輩同級生分からないが、やはり制限は設けられている。


 「よし。私が黒曜石作らないよう見張り頼んだよ」


 「いいけど、八雲さんも注意してね」


 「もちろん」


 他力本願ではいつまで経っても成長は芳しくない。自ら動くことで意味は生まれるのだから。


 「そして次に、これも学校側の指示だけど、私は基本教えることはない。レシピを見て理解して各々自分なりの手順で進めてもらう。けどその途中失敗した時とか、次をどうしたらいいか分からなくなったら、当然私はその時手助けをしに向かう。でもそれだけ。私から勝手に生徒たちに手を加えないから、独力で頑張ることが基本になる。それを覚えてて」


 「私には六辻くん居るので大丈夫ですよ」


 「俺も料理苦手だし、自分のことで手一杯だから何も大丈夫じゃないけどね」


 不器用だからミスはする。お粥とかチャーハンとか、自己流でなんとかなる料理は作れても、栄養を考えた料理は一切作れない。だから安心なんてこれっぽっちもしていない。


 「なるべく黒曜石作る前に六辻くんに助け求めてね?」


 「止めれるか分かりませんけど、何とかします」


 「作らないよう頑張ります!」


 きっと気合いだけは誰よりもある。


 「それじゃ、他の説明は実際に作りながらするから、今は19時まで指定の席で2人仲良く待ってて」


 「「分かりました」」


 大半の生徒は独力なのだろうが、それと違って運が味方してくれたおかげで、なんとか3ヶ月乗り切れそうなパートナーができたのは助かる。


 黙々と作業を進めるより、誰かと切磋琢磨することで身につく技術もある。協調性を鍛えることも時には必要だ。いつまでも1人で全てをやり遂げようと考えることは、きっと今後愚策と言えるだろうから。


 それから2人は残る10分弱をいつも通り途絶えない会話で消費していた。相性指令についてだったり、今後の活動について、更には八雲と九重の関係についても。


 仲が良さそうで、相性の良い相手だと九重も認識し始めた今、九重の中では大きな存在となりつつあるのが、この八雲という存在。そんな彼女が今どう思っているのか、それが遥の未来に影響するかもしれないと、十人十色の考えあっても参考にするつもりで、1つ聞いてもいいのかもしれない。

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