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恋って何?




 「私、適応力がなくて、新天地になれば必ず体調を崩すんです。中学校に入学した時も、部活に入った時も、引越した時も。だからその度に申し訳ないって思って、今も思ってるんですよね」


 少し暗くはなったが、それでも一色は一色らしくお粥を食べ進めた。罪悪感が根付くのも当然で、病弱体質ではないのだろうが、体調を崩すことを分かっていても対処が難しいことに懊悩して負い目を感じるのは人として普通だ。


 「そう思うことも一色さんの自由ですし、それを思うなとも言えないです。でも、1つだけ。俺は今をいい経験だと思って看病しています。そこに嫌だとか面倒、早く終われとかそんな考えは全くなく。だから今は少なくとも、一色さんは誰にも迷惑をかけていないので安心して休んでください」


 思ってしまうのは仕方がないこと。そこに安堵の言葉をかけても、結局長年根付いた罪悪感は消えない。だから遥はその考えを改めることを要求せず、ただ自分は不満に思ってないと目を見て率直に伝える。


 そこに嘘はない。元より嘘をつかない関係でいようと約束した仲、それを言い出した一色が遥の純粋な瞳に感化されずに嘘と思うことは――決してなかった。


 「優しいですね、六辻さんは」


 今見せれる最大の笑顔を綻ばせただろう。気持ちのこもった笑顔は、遥の胸の中にしっかりと届いた。言っていないが、ありがとう、と。


 「それだけが取り柄なので」


 否定はしない。相手の受け取り方に間違いはないのだから、謙遜を知っていても遥は謙遜しない。今は空気感に合わせて、自分のするべきことをするだけだ。


 「ごちそうさまです。ありがとうございました」


 「いえ」


 完食してテーブルに容器を置こうとするので、それを取って代わりに置いた。動きはまだぎこちなく、完治には程遠いため、早く元に戻って元気に月曜日を迎えて登校してほしいことを願っていた。


 「六辻さん、人を好きになるってどういうことだと思います?」


 「え?」


 突然だった。何を思ったのか、元気は失ったまま予想外過ぎることを問われたから、流石に遥も即座に返せなかった。それを見ず知らず、手を見るように下を見て一色は語り出す。


 「私がこの学校に来たのは、恋をしたいからっていう理由があるからなんです。昔から大人しい私は、恋は全く自分と無関係な感情だと思っていて、私はずっと恋することなく生きるんだろうと思うくらいには諦めていました。でもこの学校に入学して、先日の打ち上げの時も皆さんそういう話で盛り上がって、最近ずっと考えてました。もしかしたら諦めなくてもいいのかも、と。だからこうして考えることに熱中して看病してもらうことになったと思うんですけど、折角ですし六辻さんはどう思ってるのか聞こうかなと」


 恋という概念に耽溺してしまったが故に、風邪を引いてしまった。なんとも有り得そうで意外な罹患の仕方だ。


 「恋……ですか?」


 「六辻さん視点で、人を好きになる思いはどんな感じかな、と」


 「んー……難しいですね。俺にはその想いはないので。十人十色で片付けるのも役に立てなくて悪いんですけど、やっぱり人には人の価値観があって、一色さんにも恋をしなかった理由があると思います。大人しくて人と接することを得意としなかった。だから疎遠になって恋心も遠ざかったのかもしれないように、俺は人を好きになることを語れるだけの経験と知識はないです」


 人を好きになることがどういうことか、それは他人から聞いても参考にならない。だから人を好きになるという気持ちを理解できない。よってどう思うかも、答えはないのだ。


 「そうですか。難しいですし、そう簡単にこれといった確立した考えはないですよね」


 残念そうに悄然とするが、全くその通りだ。人を好きになるとはどういうことか、答えは自分しか持ってなくて自分しか正解を出せない。他人と何もかも同じ価値観なら、似たような答えは聞けるかもしれないが。


 「はい。俺の周りにも恋という概念に興奮している友達は居ますけど、その人にもその人なりの好きがあって、それに合致したから喜悦を覚えているだけだと思うので。でも、一色さんに誰かを好きになるという気持ちが生まれることはあると思いますよ。これから多くの人と触れ合って琴線に触れてくれる人が、きっとどこかに」


 だって感情があるから。


 感情があれば、人は喜ぶし泣くし怒る。そこに人は、相性が良いか悪いか見分ける目を向ける。同じことで喜ぶ人、同じことで悔しがる人、同じことで怒るからお互い避けようとする人。そこに、「この人なら」という魅力を見つけるものだ。だから笑える一色は、きっと恋をできる。


 「だとしたら、ここに来て良かったと思えます」


 (俺は……思えるかな)


 目標達成が限りなく不可能に近い今、可能性という言葉に甘えて無理ではないと思い込むが、さて、どうなるかは未知だ。


 「これでその相手が六辻さんだったら、その時は笑ってるでしょうか」


 「それは未来の自分に聞いてください」


 「それもそうですね」


 それを望んでいるかいないか、それによって今後の一色の未来は決まる。人の心は決然によって大きく変化するのだから。


 それから一色は少し寝ると言って、遥の一言で気にすることのなくなった罪悪感を捨てて再び眠りについた。次起きたのは19時過ぎ。流石に長居させたことに謝罪をされつつも、遂行の証拠として指紋認証を終えて、感謝を背に本日初めての相性指令を完璧に終えた。

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