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行こうかな




 普通ならこの状況、好ましくないのだろうが、看病という使命感に駆られている遥は全く気にすることなく居座った。寝顔を見られたくないとか、落ち着かないからとかいう理由で普通なら追い出されてもおかしくないのに、一色はそう言わなかった。


 純粋無垢とも言える遥なら従って動くのだが、一色もそれだけ気を許せる相手として認めてくれているのだろうか。


 そんなこと、今の遥には微塵も気にすることではないが。


 それから一色が起きたのは、遥が戻って2時間経過した時だった。寝相はいいようで、スマホを見ていた遥が一度動いたことを気にして目を向けると、寝惚け眼を擦る一色が居た。


 「……あっ、六辻さん。こんにちは」


 「こんにちは」


 「もう13時ですか……早いですね」


 「はい。寝心地どうでした?悪夢とか見ませんでしたか?」


 「悪夢は見てませんよ。ただ、まだ回復はしません。寝心地は良かったんですけどね」


 「そうですか。悪化はしてなさそうで良かったです」


 見ただけの判断だが、寝起きにしては顔色は悪くない。鼻声もガラガラの声色も変化はなく、会った時と大きく治癒した部分は見えない。だが、気分的には休めたらしく、笑顔はさっきよりも精彩に見えた。


 「何か食べます?空腹だと元気も出ないと思いますし。お粥なら作れます。インスタントですけど」


 「あぁ、お願いしてもいいですか?」


 「なら、レンジとか使わせてもらいます」


 「はい。ありがとうございます」


 お粥を作れる技量はある。しかし、時間はない。お米を炊く時間は長いし、一色の家電を使うのも憚られる。だからインスタントにして効率と美味しさを重視した。


 キッチンに向かうと、そこには多種多様な家電が置いてあったり、フライパンや鍋、自炊する人のような料理道具が種類豊富に置かれていた。


 「一色さんって、自炊してるんですか?」


 だから少し気になった。安静にするため、質問はしない方がいいのかもしれないが。それに対し、体を起こしていた一色は答える。


 「してますよ。しなくても生活はできるんですけど、時間もあって卒業後にも役立つと思うので、今から一人暮らしの準備をする感じでしてます」


 コンビニやスーパーに行けば、作られた食べ物を無料で買えるのだから、餓死することは絶対にない。それでも先を見据えて今から自炊するのは、確かに良いかもしれない。そう思って遥は、九重と一緒に一瀬への挨拶の品を買いに行った時の料理教室を思い出していた。


 「やっぱりしっかりしてるんですね」


 「いえ、ただ暇が多いだけですよ」


 「料理で消化してるのでいいじゃないですか。俺も何か見つけたいんですけど、不器用でしたいこともないので」


 遥には今はまだ何も無いから。


 「料理しないんですか?」


 「苦手なので。この前友達に色んなことに触れることも大切だって言われて、料理教室とかどうだって言われたんです。だから今、料理するのもありかなとは思ってるんですけど、今は全くしてないです」


 結構興味はある。料理の幅は広いので、飽きることはないだろう。自分で見つけて個性を出すことも可能で、初心者でも上達する可能性は誰にでも秘められている。それこそ遥にだって。


 メリットは多くて大きい。ならば期間を決めて取り組むことも、新たな発見に繋がって良いかもな、なんて思うことは最近増えていた。


 出来上がったお粥をレンジから取り出し、コンビニで貰ったスプーンと共に一色の寝るとこへ持って行く。テーブルは無理だから、ベッドの上で食べてもらうように運んだ。


 「良いと思いますよ、料理教室。できないことができるようになると、その時は達成感があって気持ちいいですから、暇があって退屈と思うなら、行くのもありです。――ありがとうございます」


 「考えときます」


 成長は、他人からではなく自分から。人生は自分しか選択権を持たない。だから好きなように生きて好きなように成長する。諦めたら終わりだ。だからここは、料理教室に通って暇を潰すことと、成長を感じる経験にしたかった。


 (行くか)


 その決然は、きっと揺るがない。


 「いただきます」


 「経口補水液もあるので、水分補給も忘れずに」


 口に含んだお粥を見せるわけにもいかないので、こくっと頷くことで理解を示す。一口は小さくて、プリンを遥よりも早く食べ終わるには納得し難いペース。それだけ風邪に体を蝕まれているらしい。


 そんな一色を見続けるのも嫌がるだろうと、スマホに目線を落として次は何をするか考える。


 「何見てるんです?」


 無言の空間は好みではないのか、今度は一色から話しかけられる。パクパク食べ続けて。


 「この後一色さんをどう看病すればいいのか、世間一般を基準に調べてるんです」


 「なるほど。ところで、相性指令ってどういった内容だったんですか?私まだきてないので、少し興味があります」


 喋り終えるとパクパク。何とも可愛げのある仕草だが、そこに惹かれること一切ない。


 「一色さんの体調が崩れたことは報告されて、その詳細はなかったです。あとは部屋番号と遂行の指紋認証について、そして今日だけという期間が伝えられましたよ」


 その後一応相性指令として送られた全文を読み上げた。


 「詳しくあれこれしろという命令のような形式ではないんですね。思ってたより大雑把な内容ですし」


 「緊急で出したからじゃないですか?病人を放置するより安否を確認させて、もしもがないように」


 「だとしたら、一気に罪悪感生まれます……」


 「気にしないでください。まだ簡単な内容なので全然大丈夫ですよ」


 何が指令として出されても覚悟は決めていた。だから今更面倒だとか迷惑だとか、校則でこうなる未来を予測できたのだから、そんな幼稚なこと思うことはない。

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