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不毛な争いだな




 「これは?」


 キョトンとした優しい瞳、けれどキリッと男性として整った目の形をして桜羽に問うた。


 「話し相手になるということは、私に構うと言うことなんだろ?」


 「あぁ、うん。だけど、コップの意味は?」


 「私の前は紙皿だけで埋まっているんだ。置き場所に困っていたら、いい高さに太ももがあってな。利用させてもらおうとして置いたんだ。迷惑か?」


 そう言いつつ紙コップを一旦取って、位置関係的に上目遣いで遥を見る。そこにあざとさとか、意図的な可愛げを見せようとする思惑は感じられない。繰り返すように、自分に魅力がないことを理解しているから、当然と言えば当然だが。


 「全く迷惑じゃないけど、俺のスペースなら空いてるし、使っていいよ?」


 迷惑か?と問われて、素直に迷惑だと言う性格の遥。でも今は桜羽のスキンシップをはじめとして、桜羽優を知る時間なので、些細なことで迷惑と思わない。どんな人でどんなことを好んでどんなことを嫌うか、少しでも友人として知りたいからと、成長のために貪欲な性が生まれているのだ。


 「良いのか?」


 「場所が場所で、紙皿を毎回置いて話しするっていうのも面倒でしょ?だから最初から紙皿は持っとくし、気にしないで使ってよ」


 1人だけテーブルからやや離れたベッドに座るので、その分スペースが空く。だからそれを使えば、太ももよりも零す心配もない。


 「良かったね、優しくしてくれる友達が1人居て」


 それを見ていた一瀬は、たこ焼き器に生地を注ぎつつノールックで言った。こちらに耳を傾けていたのは、隣が八雲でその隣に九重が居て、見なくても哄笑して幸せそうなのが分かるとこからなんとなく推察可能だ。


 「何、嫉妬か?」


 「全然違うけど」


 「六辻のことになればすぐ嫉妬するんだな。大好きが溢れてるじゃないか」


 否定を受け取らない。反撃しようと決めた桜羽は後先考えずに反撃する性格のようなので、何も恐れていないらしい。


 「六辻くんのこと考えないで勝手に肩に寄ったり、コップ置いて困らせたりして構ってもらおうとする優の方が溢れてるように見えるけどね」


 「もちろん。私は六辻が大好きだからな。隣に居ると安心感がある。それで、私の()()溢れているということは、一瀬も溢れているのか?」


 「当然だね。溢れてないと今隣に座ってませーん」


 ニヤッとしていじわるを返球すると、更にそれを肯定する球が返ってくる。予想外だったようで、「なっ……」と言って一瞬固まる桜羽が完成した。


 「認めた……のか?」


 驚愕の事実を聞いた時のように、目は見開いて口は開いて上半身は後ろに下げられている。だが姿勢を正すのもすぐだ。


 「うん。だって好きじゃないとここ来ないでしょ。佳奈だって九重くんだって星中くんだって、六辻くん好きだからここに集まったんだし」


 「はぁ……そっちか。恋愛感情の好きかと期待したのに、それを裏切るとは」


 「ってことは、優は恋愛感情を持って六辻くんが好きってこと?」


 「私も友達として、という意味で言ったんだ。出会って4日で恋なんて、そんな短期間で恋に落ちる人は滅多に居ないだろ?そもそも恋なんて知らないのに」


 何故このメンバーが組まれたのか分からなかった初め。しかし今、何度も聞く桜羽の言葉に遥はなんとなく理解を始めていた。


 桜羽は恋を知らなくて、それは過去の影響。一瀬も恋に関して積極的ではなく、相性の良い相手を見つけて友人となることを優先している。それは何かしら過去が影響していそう。星中は中学の頃に自分の未来を見失い、幸福を求めて幽玄へ来た。


 残る八雲や九重、きっと2人にも何かしらの過去が影響して集められた、所謂訳有りメンバーということなのではないか、と。


 真意は見抜けない。慎也の意図や風早の目論見は、簡単に把握するには大量の時間が必要になる。だから目的は判然としない。けれど、過去に何かしらあった者を共通項として集めた組み合わせなのではないかと、それだけは勘で思っていた。


 「恋、恋、恋、恋。それしか頭にないの?」


 「学生として最も関係の深い感情なんだから、当然とは思わないのか?」


 ちょうど焼けてきたたこ焼きをひっくり返しつつ問う一瀬に、火加減を調節しつつ桜羽は答えた。しかも遥が慎也に聞かされていた言葉と同じ言葉を。


 「恋、良いよね。楽しそうだし、絶対この学校なら飽きないよ」


 質問返しに答えたのは八雲だった。


 「八雲はいつも変なとこで入ってくるな……」


 どこから聞いていて、どこから九重との会話を止めていたのか全く分からないほどに意識外だった。だから突然の加わりに慣れた桜羽は、いつもと同じ光景に一言零していた。


 「今は何?六辻くんを取り合ってたの?」


 「いや、2人とも恋に興味ないのに、不毛な争いをしてるだけ。俺は関係ないと思う。だから俯瞰してどうなるか見届けてるって感じかな」


 「なるほど。プライド高い女同士の引けない戦い、みたいな?」


 「そうなのかな?」


 「私はただ逆襲したいだけだ」


 「私はそれに対抗したいだけ。それに六辻くんを利用してたんだよ」


 ちょうどいい材料だったということだろう。桜羽にとって遥の存在は、異性にしては最も近寄ることの容易い存在だから、それで反撃することで勝算を得ようとしたか。しかし相手も相手だ。今の遥のことを最も知る存在なのだから。

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