距離感近くないですか?
「恋愛は面白いからな。他人が恋するのは、見ていて何とも言語化が難しい感情に駆られるんだ」
「自分がする恋愛は好きじゃないって言い方だけど、そうなの?」
「前に六辻にも言ったが、私は恋を知らない。魅力がないことを自覚してから、その概念の意味を理解することが難しいと思った。それ以降、他人の恋愛を見ることは面白くて、それを……いや、面白くなっただけだ」
「へぇ、いじったら可愛くなるのに」
「不憫な私が可愛い、と?」
「元々綺麗って言葉が似合う人でしょ?だから可愛いには遠い容姿とか雰囲気だけど、ギャップは誰以上もあると思う。まぁ、他人の考えに私が何か言ったとこで変わるわけもないし、これ以上優の考えには何も言わないよ」
遥と似たようなことを言い終えると、桜羽は「六辻と同じことを言うんだな」と笑って両手を後ろに上半身を後ろに傾けた。
「私にそう思ってくれることは嬉しい。だが、今は相性の良い相手を探す一瀬のように、私も今は誰かに恋することに興味はない。恋を知らないからすることも叶わないが、知っていてもする気はない。厄介な私の性格があるからな」
「厄介な性格?」
「貪欲」
答えたのは遥だ。以前話した時に桜羽が自負していた性格の1つ。
「それもそうだな。けど、それじゃない。教えないがな」
「ケチ」
「なっ!誰しも全てを話すことはしないのが普通だと思うが?」
「冗談で言っただけだよ」
「そろそろ桜羽さんの情緒が狂い始めるんじゃない?」
「もう狂っている。君たちには辟易し続けているからな」
「楽しそうでなによりだよ」
これが普通となってから、早くも2日だ。初日からはじめましての空気感が抜けず、お互いに性格の底を知らないから様子を伺いつつ距離感を詰めていた。その結果、既に犠牲者が生まれてしまったが、それでも共に友達としての相性の良さそうな関係で居られたのは、学校側の組み合わせが狂いなしということだろう。
「それにしても、最初の話に戻るけどさ、距離近いよね」
再び話題は九重と八雲へ。肩が触れ合う距離になって、それで一瀬から横の友達に会話を投げかけることもなく、変わらない2人だけの空間が健在している。
「これを機に私から2人へ変えてみてはどうだ?いい加減私も抜け出したいんだが」
「2人に向けながら、桜羽さんへの攻撃は続くと思うよ。むしろ逆にいじると倍以上で返されると思う」
「……根付いた地位は変わらない、か」
そう言って辟易が続くことに疲れたのか、脱力して突然遥の肩にぽつんと寄りかかった。それに「ん?」と疑問に思うだけで、特になんとも思わず普通なんだと遥は受け入れて肩を貸す。
「えっ、こっちも距離感近くない?付き合う手前みたいな仲になってたの?」
当然驚きの一瀬は若干焦りつつも問うた。
「そんなことはない。ただ、六辻と似たような人を知っていて、旧知の仲のようで気を許せるだけだ。それに、六辻は感情表現が乏しいが故に寄りかかるには最適の存在だ。無だからな」
「えぇ??それにしても寄りかかる?普通」
「睡魔が襲ってくるから普通に寄りかかる。ホントならまだ柔らかい膝にでも後頭部を載せたいが、流石に成績に関わりそうでこれで我慢だ」
イベントは勝ち負けの存在する内容だとしても、勝ちが評価上がって負けが下がるということは決してない。しかし、これもまた授業の1つなので、その中での行動に評価はある。だから寝ることはもちろん、膝枕なんて成績急降下だ。
「六辻くんは何とも思ってない……よね。まぁ、そうだよね……」
最も関わりのある人だから、それだけ遥について知っている。桜羽の言うように、無感情だから気にしないということも、真顔で一瀬と桜羽を見ていることから当たり前のように分かる。
それにしても、寄りかかってすぐ結った髪をほどくから、フローラルな香りが鼻腔を一瞬で擽っていい匂いだと感じる。染められた若干紫の髪は染めてから時間が経過していることを、根元の黒髪が教えてくれた。
「嫉妬してるなら、片方空いているが?」
「してないし、普通仲良くてもそんなことしないよ」
「ホントか?」
ニヤニヤして、美人の嫣然も台無しと言えるレベルに聞くから、そんな人だとは思わなかったと心の中で思って、2人の攻防戦を見ていた。
「ホントですぅ。第一、旧知の仲の気分じゃないなら、優だってそんなことしてないでしょ」
「なんだ。面白くない」
「なんで佳奈たちのことを話してて、こっちの2人の方が距離感近くなるのかな……優が狂ってるだけなんだろうけど、それを受け入れる六辻くんも狂ってるね」
「俺は座ってるだけだよ。桜羽さんが嫌がらないなら、別に俺も拒否しようとは思ってないから受け入れてるだけ。それを狂ってるって言うのかもしれないけど」
どうなのかは不明のまま。会話始めて一週間にも満たない女子に肩を貸すことは、普通ではないことすら分からない。友人を友人として受け止めたつもりの遥には、男女の物理的な触れ合いの線引きが全くの未知なのだから。
「あっちはあっちで興味あるけど、今は六辻くんと優の距離感の方が気になってるよ。2人、実はお似合いなんじゃない?」
「だとしたら、今の一瀬は邪魔者だな。どうする?」
「どうもしません。ただボッチに見えるのはなんか嫌だし、無限に話しかけ続けるよ」




