不憫過ぎて同情するって
「お前はどうなんだ?中学の頃」
ドキッとしたのは一瞬。自分が過去を聞いて答えてもらったのなら、自分の過去もいい加減隠し続けることではないと思った。
「1年生の頃、1学期だけ通ってそれからは行ってないよ。詳しくは思い出せないけど、事情があってね」
薄い。ただただ薄い記憶の中で、曖昧にだが行かなくなった理由を知っている。けれど口に出せるほど思い出せない。言葉にしようとすると忘れたように口ごもる。理由は分からない。有るのはその事実だけ。
「へぇ、お前も苦労してんだな」
「まぁね」
詮索しないでいてくれること、それは助かった。何もかもパーソナルスペースに勝手に入って自己中で暴れ回る人ではないことは意外と助かる。
そんな会話をしながらも、遥は点を入れた側に加点していく。そしてついに、24点目を捲り終えて、一旦仕事は終了だ。
「何か抱えてんなら、吐き出すことも必要だぞ。溜め込むと、自己犠牲も厭わないやつになるからな」
立ち上がりつつ、経験談からアドバイスを投げる。
「分かったよ」
「そんじゃ、合流して遊びに行こうぜ」
「うん」
仕事を終わらせて次の人に任せると走って向かう。走ることに違和感を覚えるから、そろそろランニングを再開してもいいかもしれないと思い、チームメイトと合流した。そして桜羽が散々いじられたのも、早速項垂れて1人だけ疲れたように相好を崩しているとこから分かる。
「また桜羽をイジメてたのか?」
「違う。桜羽がイジメられに来てただけだ」
「そうそう。私たちは普通に会話したいだけなのに、良い雰囲気だな、とか、相性良いんだな、とか、ボッチだったから羨んでるような感想を何回も言うから、これは自業自得です!」
「私はこのメンバーの中に居ていいのか分からなくなった……」
悪巧みが好きそうな九重と八雲らしく、桜羽を完膚なきまでにいじり倒した様子。それを見てみたかったと思う遥は、一瞬にして係の仕事を嫌いになった。
「それだけ仲が深まったってことでしょ。いいことだよ、多分」
「一瀬、それは慰めか?一番私をいじった君が慰めてるのか?」
「さぁ、それはどうだろう」
無関係だとも言いたげに知らんぷり。そんな深まったとしか思えない関係を見て、胸の中に覚える感情は1つとしてないが、若干感じる人と接することの幸せに、こういうことが楽しいことなのかと思いつつあるのは成長の前兆かもしれない。
「さーて、私たちの初戦はすぐだよ。勝って休日増やすぞー!」
「お前なんでそんな張り切ってんだよ」
「球技だよ?イベントだよ?楽しまなくてどうする!!」
「……ペース上げすぎだろ」
最も八雲と付き合いの長い九重でも、勢いには付いていけない。それだけ今を楽しみにしていたと思うと、先日の事件で改めた戒めも忘れそうだ。
そんなこんなで整列し、握手を交わして気づく。
「どうも」
「一色さん」
相手は同じく6人チーム。そこに予想外にも一色が居た。握手して分かる華奢で小さい手。運動が得意とは思えないが、味方がそれだけ優秀な人たちで埋められているということか。
「私、意外にもバレー得意なので、狙わない方がいいですよ」
ニコッと笑顔で言われる。本気のようで嘘のようでもある。だが裏を知ろうとしない遥は純粋に受け止める。
「分かりました。俺は得意ではないので、狙うのは他の人でお願いします」
「ふふっ。分かりました」
5人とも自分よりも上だと確信している遥は、男女関係なく狙いは他にしてと願う。自分が醜態をなるべく晒さないようにしたい一心で。
それに相変わらずの可愛らしい小動物のような笑顔で返すと、握りこぶしを作って気合いを入れて背中を向けた。思っているより楽しんでいそうで、馴染みつつもイベントに取り組めていることに何故か安心する遥だった。
「よっしゃー、ミスした人後で考えた罰ゲームってことで気合い入れて頑張ろーう!」
「プレッシャーをかけないでくれ。そういうのに弱い人が居たらどうする」
「その時はその人が罰ゲーム受けてもらうだけー」
「ならお前が受けろ。俺たちでお前にボールが集まるようにしてやるから」
ここぞとばかりに八雲に関わろうとする様は、やはり相性の関係かそれとも九重が誰にでもそういう性格なのか。
「それはイジメでは?」
「因果応報だ。私は賛成する」
「優、そんな酷いことする人だったんだ。私は賛成しないから、逆に優にボール集めるよ」
「は?何を言って――」
「じゃ俺も」
それから「え?ちょっと待て、君たち……」と言う桜羽を無視して、流れるように遥まで賛成コールが続いた。
「……俺も」
「……六辻、私は信じていたのに」
悲しまれても空気感には抗えないものだ。
「ということで!ボールは優に集めて点を稼ぐぞぉ!」
「「「おぉー!!」」」
「チーム決めから失敗だ……ホント……」
見てしまえばこの哀愁が癖になるのだろう。美人とも言える大人びた桜羽が、ぽつんと寂寥に囚われて悲しむ。酷い光景にも見えるだろうが、冗談の範囲ならまだそれも不憫と思いつつ関わり方の1つとして良いことなのだろう。
「よし、私はミスをしない。だから好きなだけ集めろ!」
「頼んだよ」
一瀬の一声に、切り替えた桜羽は親指立てて喜んだように顔を綻ばせた。




