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この美少女よく分からないな




 放課後、遥がトイレに行っている間に九重も星中も一瀬も八雲も帰宅してしまうと、それなりに教室は静かで寂しく感じるものだ。近くの席が空いていて、その近くにはもう既に人は少ない。


 残っているのは4人だけで、そこに今何かしらの理由で居ない人たちも入れたとして10人も居ないだろう。


 病院に行くと言っていたから、誰にもバレないよう1人で帰った一瀬。八雲はそうなると1人だから仕方なく九重と帰ってやると言っていて、それを邪魔するのも気が引けるのでトイレに行って仲良く帰ってもらった。結果、いつもと同じく1人で帰るというシチュエーションが完成。


 「俺も帰るか」


 教室内に届く陽光は斜めだから余計眩しい。遮っても遮っても、どこからか反射して視界に入る。そんなオレンジ色に懐かしさを感じつつ、リュックを片手に持った。そんな時だった。


 「今から帰るのか?」


 「ん?」


 女性の声で、男っぽい口調な新鮮味のある声色。唯一無二の特徴だから、振り向く前に誰かを分かっていた。


 「帰るけど、何かある?」


 「時間があれば、私と少し話さないか?六辻には前々から興味があったんだ。どうだ?」


 「良いよ」


 桜羽については不明なことばかりだ。だからチームとしても、今後接していく友人としても、知ることは必要になる。部屋に戻って暇するより、圧倒的に有効活用できるなら、快諾は当然の結果だ。


 それに興味深いことを言った。


 ――前々から興味があったんだ。


 それは遥にとって言われたことのない言葉であった。自分に対して興味を持つ人は居なかった。誰もが仕方なく接した。だから元々興味があるなんて、そんな物好きな人は出会わなかった。しかし今目の前に現れて、それに応えれば何か得られると思って期待していた。


 「ありがとう。ではお礼にこれをあげよう」


 そう言って背中で隠していた両手を離して片手だけを前に出す。そこには自販機で売っているカフェオレがあって、遥の手を固定してそっと置いた。


 「どうも」


 「嫌いじゃないか?」


 「好きだよ」


 「それは良かった」


 無難に選んだのなら遥の好みの大正解を引き当てた。


 話せること、そして受け取ってもらえたことに嬉々として笑顔を見せると、九重の席に座って後ろを向く。人と関わればきっと好まれるのだろうが、関わろうとしないのもまた、桜羽らしくて良い。


 「この席は当たりだな。私の席より過ごしやすい」


 「そう?」


 「私はさっきもそうだが、学校に通うと退屈で眠たくなってしまってな。つい休み時間や放課後に仮眠してしまうんだ。その時この席だと見つけられにくいだろ?だから少しだけ羨ましいんだ」


 「最前列の廊下側なら逆に見つからないんじゃない?」


 「既に3回見つかっているが?」


 「あぁ……それは何も言い返せないよ」


 今帰宅せずにここにいる理由をそういうことかと理解する。退屈に思って寝たいと思うのは分かるが、実際寝て見つかっても続けようとする胆力は遥にはない。だから羨ましいのは遥も同じだ。


 「六辻、君はどうしてこの学校に来たんだ?」


 「突然だね。俺は感情を取り戻すことと、成長することを求めて幽玄高校を選んだよ。それだけ」


 「そうか。ということは、感情を出すことが苦手ということか?」


 「いいや、少し違う。感情がないんだよ。正確には、ないらしいんだけど」


 無感情だとは知っている。しかし感情がないという意味を理解しているわけではない。確かに笑いもしなければ怒りもしない。そんな人形のような自分が居ることは知ってる。けれど喜怒哀楽がどんな感情か()()()が故に、今の気持ちがどうなのかすら分からない。他人に指摘されないと分からない。そんな状態なのだ。


 「なるほど。やはりそうか」


 「やはり?」


 「うん。中学生の頃、六辻のように無感情のような先輩を見たことがあってな。その人の目に似ていたから、もしかしたらと思ってたんだ」


 遥の無感情と比べられることではないが、予想ではきっと遥より感情はある。そう断言できるほど、遥には越えられない悲惨な過去がある。


 「そうなんだ」


 「その関係で、私は六辻に興味を持ったんだ。惹かれるというやつだろうな。六辻の目を見て以来、何故か何度も雰囲気と目を思い出すようになって、仲を深めたいと思ったんだ」


 「そんなに?」


 「その先輩を慕っていたからというのも関係しているんだとは思う。恋慕ではないからな?」


 「うん」


 一応の補足。勘違いなんてしないし、言われたことを純粋に受け止めてそのままの意味を理解するだけの遥は、冗談さえ判断が難しいくらい素直。だから分かってるよと、強調する意味を分からず頷いた。


 「とはいえ、六辻のことは重宝したいと思う。友達としてだが、滅多に居ないその性格は、私と相性が良い。これからもありのままで居てくれ」


 「……よく分からないけど、俺は俺のままだよ」


 「ははっ。それでいい」


 分からない。何を目的として接近しているのか、胡乱な少女は謎を解いてはくれない。害はないのだろうが、何かを企んでいるような気も感じる。


 「六辻からは、私に聞きたいことはないのか?何故1人なのかという質問以外なら快く答えるが」


 相当今朝のいじりは効いたようだ。


 「あるよ。失礼かもしれないけど、女子にしては少し特徴的な話し方が何故かなって、さっきから疑問に思ってる」

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