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ほ、本気ですか?




 西園寺という生徒がどんな生徒か、それは未知だ。名前も知らなければ顔だって記憶していない。そんな相手だったから、一瀬も八雲も同じように不思議そうに小首を傾げた。だから一瀬にとって、相性を知るに値する人なのは間違いなかった。


 「普通に帰るだけで良いんだよね?」


 「うん」


 未だに目も合わせないモジモジした、女々しくも覇気を感じない西園寺に、先程ちょこっと聞こえた六辻と九重の会話を思い出して問うた。寄り道という考えはないんだよね?と。


 それに小さく頷き、どこか恥ずかしそうにも思える挙動不審は、しかし然程気にすることでもないだろうと見なかったことにする。


 「それなら寮まで帰ろう」


 誘ったのは西園寺なのに、いつの間にか一瀬の方が誘ったかのように主導権が渡る。それに情けないと思わず、ただ、もう少し乗り気というか元気を出しても良いんじゃないかな、なんて心の底に芽生え始める()()()の可能性は感じていた。


 テンション上げて、相性の良い相手の可能性を考えて接しているのに、西園寺は鬱屈さも拭えなくて返事も「うん」だけ。確かに最初から爆上げテンションなのは申し訳ないが、それが一瀬逢という少女の性格故に、それに付いてこれない、若しくは不満があるのは、中々憂慮すべき点だ。


 「今日は誘ってくれてありがとう。それで、なんで私を誘ってくれたの?」


 教室を出てすぐ、西園寺から発言されることは多分ないだろうと雰囲気から察すると、無言の空間は好まない一瀬から問いをかけた。


 「……調べようかなって。その……相性の良い人を片っ端から」


 「なるほど。それで私からってこと?」


 「うん」


 「なんで私から?」


 「……話しやすそうだったから」


 「ふーん、そっか。それは嬉しいね」


 ニコッと微笑むが、八雲や六辻と会話する時ほどではない。主導権を握ったのは一瀬だが、だからといって聞いたことに対して英気を失ったように返事をされるのは、こちらにも陰気が纏わり付きそうになって正直困る。


 (何かあったのかな……)


 「趣味とか何かあるの?」


 帰宅という選択肢を変えることは過去に戻るしかない。そんな異次元の技を使えるはずもないから、なんとか少しでも有意義な時間にしたい一瀬は仕方なくも問いをかけ続ける。


 「ゲームとか漫画読むことかな」


 「おぉー、男子って感じ。外で友達と遊んだりとかしないの?」


 「時々してた。けど今はない」


 友人は既に中学校までの仲となったからだろう。幽玄には毎年日本列島全ての地域から入学希望者が来る。その中で選ばれし、特待生3人を除く197人の生徒の内、友人が含まれる可能性というのが極小数だ。


 絶対にないということはない。しかしそこから更に5つのクラスに別れるとなれば、更に確率は下がる。絶対ではないが、きっと学校側も知り合いを同クラスに所属させることはないだろう。


 「私はどちらかと言えば外に出る方で、夏は海とかキャンプ、冬はスキーとか行ってる所謂アウトドアタイプなんだよね。そういうのには興味ない?」


 「あ、あるよ。海は好きだし、スキーもしてみたいと思ったことある」


 「良いじゃん。絶対楽しいから、人生一度は経験しないとね」


 「僕もそう思う」


 意外と話が通じるのだろうか。答えに一瞬の迷いというか、口ごもる瞬間があるのが気になるが、それでも正直に答えてくれているよう。


 「い……一瀬は休日とか何してるんだ?」


 消えない挙動不審を含め、それでもようやく初めて問われた内容は、一瀬が西園寺に問うた内容と大差ないことだった。それでも必死に考え抜いた結果なのだろう。あたふたする姿は面白おかしく目に映る。


 「私は友達と遊ぶことが大半かな。さっき居た佳奈を中心に、仲良くなった子たちと幽玄の色々を見て回ってるよ」


 「そうなのか。中学の頃は?」


 「勉強と部活の両立が大変で、休日はそんなに何もしてなかったよ。夏休みとかの長期休暇に外出を頻繁にしてた程度だしね」


 思い返せば休日は常に友人とバドミントンをしていたことが鮮明に浮かぶ。体を動かすことが好きだった一瀬は、外出はもちろん、並大抵を超えた体力を持っていたが故に、午前の部活の後に自主練として午後も使っていたりと、実は自ら逼迫した両立へと歩んでいた。


 「まぁ、学生って大抵そうだと思うけど」


 「僕とそんなに変わらないな」


 「そう?」


 「休日は基本午後から部活だったから、逆だけど」


 「何してたの?」


 「卓球」


 「へぇ。意外って感じもするし、イメージ通りって気もするよ」


 偏見となるだろうか。体型や雰囲気で人の真意は見抜けないし、人を知ることもできないが、何となくの印象は抱ける。その印象が、部活に所属していない陰気な人だったから、運動部に所属していたのが驚きだった。


 「見る人はもっと似合ったカッコイイ部活に所属してると思ってるんだろうけど、実際は少し地味な部活なんだ」


 「……ん?……あぁ……ん??」


 久しぶりに聞き間違いかと耳を疑った。本心で嘘偽りなく冗談も感じられない語気で、きっと本当に思っているだろうことを口にしたと思ったから、一瀬は混乱した。


 自分に似合ったカッコイイ部活に所属している。


 それはつまり、西園寺は自分をカッコイイと思っていて、その上でそれに相応しい部活に所属していると思われていると思っていたということか。


 だとしたら、少しではなくとても驚きだ。

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