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この帰宅、どう転ぶ?




 夕刻、憂鬱な月曜日の授業を全て終えた一瀬は、未だ元気を残した精彩な己を保ちつつ、放課後友人と歓談していた。


 ――「だから、六辻くんは相性の良い相手じゃないよ」


 ついさっき、後ろを通り過ぎて帰宅しただろう六辻が偶然友人の視界に入り、仲良くしているところを何度か見られているため、それが話題となって一瀬に質問の連鎖を続けていた。


 「ホントに?」


 「ただ隣の席ってだけで仲良くなったんだよ。そこに相性の善し悪しは含まれなくてね」


 「ふーん。逢がそう言うなら信じてあげなくもない」


 「もう、信じてよ」


 出会った日は逢ちゃんなんて呼ばれていたが、既に逢と呼ばれるようになるほど、2人の仲は縮まっていた。


 そんな距離となった一瀬逢と、その第一の友人――八雲佳奈(やぐもかな)。相変わらず話しが噛み合うようで、今日も今日とて井戸端会議のようななんてない会話をしていた。


 「そう言う佳奈だって、隣の人とはどうなの?」


 「どうって、普通だよ。相性については分からないけど、中々楽しいよ」


 「ふーん。良さげじゃん」


 確か九重優斗と言ったか。先程六辻と共に帰宅した生徒だ。


 一瀬の第一印象では陽気で人付き合いが良さそうな人。関わったことはないため、あくまで雰囲気から気取った印象。それでも悪い人とは思えないのは、隣に座る六辻と似たような感覚だ。


 「どうなのかは分からないけどねー。やっぱり相性の良い人見つけたら、この人だ!って分かるのかな?」


 「そうじゃないと困るくない?」


 「だけど簡単に見つけられないようにもなってそうだし、案外そういうものかもよ?」


 八雲の心配は、見つけられたと確定できなかったというもの。本当は別の人と相性が良いのに、違う人と勘違いをして関係を築いてしまえば、この学校に通う意味がなくなって徒労に終わることとなる。


 それを憂慮とすることは当然だ。


 「相性指令に身を委ねるのも1つの方法だよね。きっといつかは導いてくれるだろうし」


 その憂慮を杞憂としてくれるのが相性指令。絶対でもなければ、無関係の人とだって関わることを指示される相性指令に、信頼が置けるかと聞かれれば答えはいいえだ。それでも内気な性格の生徒だって見つけることが可能になるそれを、嫌でも信頼するのは、これまた当然のことだった。


 「自分で見つけてこそ、だと思うけどね」


 「こんな話してて、実は私と逢が相性の良い生徒でした、なんて結果だったら爆笑だよ」


 「だね」


 それこそ有り得る話だ。いつ誰がどこで199分の1を引き当てているか分からない。同じクラスか否かも不明。そんな中で隣に居るなんてこと、稀とは言えないのだから。


 「おっ、もうこんな時間か。そろそろ帰ろーう」


 八雲は一瀬を見ていて時計に背を向けている。だから見えているのは一瀬だけ。時計を見るともう16時半をとっくに過ぎていたので、駄弁も終わりにして帰宅することに。


 「明日火曜日かぁ。休日にしたい気分」


 背伸びして八雲は言った。


 「それができるのが、幽玄高校の良いとこだよ」


 そう。10日は自分が休みたい日に休める。10連続も可能なので、春休み、夏休み、冬休みを除いて土日と組み合わせて使うことも許されていることから、過去に16連休とか取った人もいたらしい。


 「楽しいからまだ使わないけどね」


 「なら、明日からも通い続けよーう」


 やる気を出して明日から通うことを声に出して、2人は席を離れようとする。そんな時だった。


 「あの……」


 弱々しくもか細い、それでいて陰気な雰囲気に纏わりつかれるような感覚を覚えてすぐ、一瀬は「ん?」と振り向いた。


 「少しいいかな?」


 そこには1人の男子生徒。眼鏡を掛けていて失礼ながら若干太ってもいる。お世辞にもBMI的に健康体型とは言い難い。


 そんな相手に対して、それでも普通通り何も思わず一瀬は言う。


 「良いよ。どうかした?」


 「一瀬さんになんだけど……今日僕と帰らない?」


 「わぁお」


 突然の流れに、隣に立っているだけの八雲は一言驚きを口にする。予想外の展開のようで、驚きの後も口は開きっぱなし。


 しかしそれと逆の反応を見せたのは一瀬だった。


 「私と?んー……おっけー、良いよ!」


 「良いの?」


 「うん」


 少々考える時間を作ったが、それでも承諾した。しかもそこには満面の笑みも加わっていて。


 「ってことだから、もしかしたら相性の良い相手かもしれないので、佳奈は先に1人で帰ってて!お願い!」


 「……はぁ?嘘でしょ?」


 「マジだよ」


 一瀬が承諾すると思っていなかったのか、八雲は驚愕の事実を聞いた時のように、それはもう激しく狼狽して瞳孔を揺らしていた。


 「まぁ……良いけど。それじゃ……えーっと、なんて言うか……その……頑張って?」


 それでも理解してくれたようで、八雲は渋々その場を去る。何かを気にしていたようだが、それは相性の良い相手を見つけたい一瀬には全く伝わらない。結局初対面の男子生徒と向き合って、ついには帰宅することとなった。


 「さて、私たちも帰ろうか。私は一瀬逢。君、名前は?」


 「西園寺尊」


 「じゃ、西園寺くん、君が私の相性の良い相手か確かめつつ帰ろう!」


 ノリノリで、相手から来てくれたことに嬉々として言った。


 清濁併せ呑む性格の一瀬は、他人を初めから嫌悪しない。相手が誰であろうと関わって善し悪しを決めるという善人故に、自分と相性の合う相手を探すためなら、謎の生徒相手にも普通に帰宅を承諾したのだ。

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