趣味も興味も然程ない
「それじゃ、ただ歩くだけってこと?」
「今のとこはそうなってるな」
「なるほど。それなら俺、買いたいものあるからここらへん歩き回ろう」
「まじ?助かるわ」
心底安堵したように精彩さを取り戻すと、親指を立てて満足気に見せてくる。
これではどちらが誘って付き合わせているか分からなくなったが、どうせ何も予定がないのだ。一瀬と九重に、これからよろしくという今後の挨拶として食べ物でも買うと決めていたから、今回は遥のために付き合わせることにしても問題はないだろう。
「これって決まってはいないけどね」
「なんだそれ。また家具とかか?」
「いいや、食べ物」
「食べ物?晩御飯にしては早いな」
「それも違うよ。スイーツ系の何かを買うんだよ。誰からも頼まれてないし、俺が個人的に挨拶代わりに渡したいだけだから」
「あぁー、なるほどな」
説明不足もあったが、ようやく理解してくれた様子。九重にも初対面や隣の部屋の人に何かを送るという習慣があるのかは分からないが、挨拶代わりにという言葉に反応したのは理解はあるらしい。
「それならこの時間帯は正解だな。夕方は作りたてが多く出るって聞いたことがある」
「ホント?」
「噂だから確かではないけどな」
「噂でも、そう思えたなら信じる価値はあるよ」
誰かが感じたことだとしても、実際夕方に作りたてが出るとこを見て思ったのかもしれない。だからその可能性を信じるのも、期間と個数限定のプリンを手に入れる確率を上げる。と言っても、ここに来た時点で買えるか買えないかの二択だが。
そもそもプリンに限定しなくても、一瀬には挨拶として相応しいような気に入ってくれそうなスイーツを買うだけでいい。だからそんなに懊悩することなく、一階を歩き回ることにする。
「そうと決まれば行こうぜ」
「うん」
「ところで、六辻は甘いの好きなのか?」
「好きだよ」
「趣味は?」
「特にない」
今どきはじめましての挨拶の中でも聞かないような問いに、やはり距離の縮め方は人それぞれかと思って答えた。遥のことを知りたいのだろうが、残念ながら特出したことはなにもなく、そもそも趣味も興味も然程ないから、虚無から返される言葉は大半が「何もないかな」だった。
「趣味もないのか。イメージ通りなんだけど、もっと人間らしくっていうか、何かに意味を持って取り組んだりしないのか?相手探しに必死になるとか、学業を頑張るとか、友達を作って青春するとかさ」
「んー……意味ある学校生活にしようとは思ってる。けど今は、まだ慣れるのに時間を費やしてるのもあって思わないかな」
「そうか。俺も意味不明なこと多いし、慣れに関しては同意する。けど、折角なんだし色々挑戦とかしてた方が良いと思うぞ。この学校でしかできないことも多いしな。ほら、あれとか」
視線を向けて見る先、そこには料理教室があって、確かに学生から料理教室に通うことは珍しいだろうし、他にも幽玄には幽玄でしかできなくて幽玄でしか許されないことも多数存在する。
そこに価値を見出すことが可能ならば、いつかはそれらに目を向けて足を運んで経験を積むのも、1つの暇つぶしになるだろう。
「気が向いたらね」
「1人が寂しいなら、いつでも付き合うぞ」
「ありがとう」
それでも1人を好むから、無理に付き合わせたりはしない。
「九重はどうなの?趣味とか」
ここで初めて遥から、興味あるから、と質問を投げる。純粋に気になっただけで、細かなことを覚えられる知力もないから、遥も九重もこれが初めて遥が興味を示して問うたことだなんて気づいていない。
「中学の頃は部活ばっかだったけど、今は漫画読んだりアニメ観たりに変わったな。もう幽玄の敷地内だけだし、友達と遠くに外出ってのも難しいから、当然っちゃ当然だけどな」
「部活は入らないの?」
「予定はないな。休日は相性指令で邪魔されるかもしれないし、競技性ないなら興味が薄れる。スポーツは競ってこそだからな」
結局、行き着くとこはインドアになるだけ。幽玄高校を中心に、西がショッピングモールや水族館、動物園や遊園地などの娯楽施設。東が海水浴場や半径1.5kmの円形の人工林であるため、外で何かするとしても限られてくる。
種類があって飽きなければいいが、3年間同じ場所で過ごす時点で飽きないということは、ないと言いきれる。学校側としても、暇なく相性指令を出したいだろうから退屈することはないだろう。それでも外出が禁じられていることは、アウトドアにとっては酷なことらしい。
「環境変わると暇にならない?」
「最初はなったな。でも、入寮してから仲良くなったやつらと遊ぶと、逆に疲れるくらいになった」
「へぇ、良かったね」
好スタートというやつだ。入寮から既に仲を深めているとは、やはり遥にこうして仲を深めようと接してくるあたり、コミュニケーションが得意な方なのは間違いない。そして雰囲気を悪くすることなく、淡々と笑って会話を続ける。そんな性格もまた、長けた才能の1つなのだろう。
「相性良いってことじゃないの?」
「それは俺も思い始めてるんだよな。相手は俺の隣で、お前がよく話す女子の前の席なんだけど、結構気が合うっていうか、喋りやすいんだ」
一瀬に対して、気分を害することなく心地良く会話を続けられることから、隣の席とは何かしらの関係があるのかと思っていた遥に、やっぱりそうなのかと思わせるようなことを九重は言った。




