罪を背負っても縋りたいなら
「まっ、そんなに思い悩むことでもないけどな」
「うん」
遥からすれば、やはり興味のないことだ。巷で恋愛専門学校と呼ばれ、それに興味を抱いて幽玄の門を潜る生徒も複数存在するだろうが、元々相性の善し悪しが男女で選ばれるという確約のない幽玄高校では、生徒が自ら成長を手に入れるサポートをすることが主軸。故に恋愛という思いや行為に重きを置く必要もなく、恋愛専門なんていうのはただの脳内お花畑の思い込みなのだ。
しかし、慎也は言った。恋愛感情を利用して、相性の善し悪しを決めることもあると。だがそれに関しては、無感情の遥にとって全く関係ないことであるため、今も尚、慎也と初めて会った勧誘の日以来、興味の1つも示さないのは至極当然とも言えた。
なるようになる。
そう信じて、自分のしたいことをして、動いて学校生活を送る。それが今の遥の根本的な生活の目的だ。
「それにしても、俺たちが退学除いて3年間この幽玄の敷地内から出られないのって、相性が崩れたり学校の教育方針から逸脱するからってことだったよな?なのに、娯楽施設とかに行って幽玄と関係ない人と関われるのって、普通に変じゃね?」
校舎を背に、間に挟んだ道路を渡りつつ九重は言った。目の前に見えるショッピングモール他、動物園や水族館、遊園地などのテーマパークに対しての疑問を。
「長時間の触れ合いを禁止にしたいんじゃない?相手の家に遊び行ったり、休みの日に旅行とかさ」
「でも休みの日に、毎週ここに来て会う約束とかしたら長時間ってことにならね?」
「あぁ……確かに」
誰もが気づきそうで、でも然程気にしないようなことを聞かれている。疑問に思ったことは解決したい性格なのか、顔を顰めるほどに謎を解明したそうな九重に、どこか共感してしまう遥も居た。
「何か狙いあったりしてな」
「あっても、多分学校側も問題視してないってことだろうし、些細なことなんじゃない?」
「どうだろうな。やべぇことしてきそうなのが、幽玄高校って感じもするし」
そのやべぇことの想像がつかないが、聞いている遥には、意味不明な校則に怯える姿を見るのは少しだけ不思議に思える。特待生だからという理由ではなく、単に慎也に特別に聞かされたからという理由で、遥はその謎を解く理由を知っているから。
『幽玄の敷地を出て他人と関わることが禁止されている理由は、他人に相性の根底が崩されないようにだ。だが、その理由を本当だとするなら、生徒の多くがその矛盾に気づく。敷地内でも一般客と関われるなら無意味では?と。そう思えばもう十分だ。校則で幽玄と関係ない人との接触は厳しく制限されているが故に、関われば罰則ということは周知の事実。しかしそれを超えてでも、相性の良い相手が居るという絶対の条件を捨てでも、何をしてでも、接触し続けたいと思ってしまう人間が居たとして、それもまたその1人の生徒が選んだ茨の道。してはいけないことをしたいほど、相性の良い相手を見捨ててでも、その他人と接触を続けたいと思う価値観を持っているということ。矛盾に気づいて、相性の良い相手を見つけられなかった生徒は、時にそういう思考に至って、幽玄を訪れた他人に干渉を始めることもある。それもまた、幽玄高校で生活する生徒として一興なことだ。だからわざと、触れ合えるような環境を整えているんだ』
九重に教えることはないが、実は慎也はしっかりと考えてその理由を作っていた。長々と電話越しに話されたのをよく覚えている。
つまりは、相性の良い相手を見つけられず、校則違反をしてでも他人と関わりたいという欲を捨てられなかった人が犯してしまう罪のようなもの。幽玄の敷地内での他人との接触が許されていることを良いことに、そこに手を伸ばして誰かに縋ろうと、躍起になってでも手に入れたいという価値観に駆られてしまう誰かを見ることも一興だと、慎也らしい考えがそこにはあった。
そして九重の勘は大当たりということにもなる。
「この学校も分からないことが多いし、まだ入学して間もないし、気にすることじゃないんだろうけどな」
「4月はそういう期間って思えば気楽だよ」
「思っても気持ちは変わんないのが俺なんだよ」
「それは残念」
横断歩道を渡って歩き続けて、幽玄高校の謎について少し語り合って、着いたのは玄関から出て10分程度の時間が経過してからだった。
すっかり太陽は夕刻を知らせていて、右斜めから照らされる陽光に右目だけ眩しいと半目にしつつ、まだ春の暖かさを含んだ風に背中押されて中へ入った。
「寄り道って何するの?」
「特に決まってない。今日は六辻遥がどんなやつかを知るために来ただけだからな」
「俺を?」
「これから長い付き合いになるんだ。今から知っとかないと、イベントだったり相性指令だったり、後ろの席のお前と関わることは多いかもしれないだろ?」
席替えというものが存在しないらしい幽玄高校は、1年間同じ席に座る。クラス替えもないため、3年間同じメンバーと付き合うことにもなる。これから長い付き合いになるのなら、やはり少しでも知ろうと、近くの席から始めて仲を深めようとするのは大切なことなのだろう。
「だったら、先に考えてくれた方がここで色々悩まなくて良かったんじゃない?」
「まぁ……見切り発車が俺だし?」
計画性皆無の友人は、九重優斗が記憶上初めてだ。




