幽玄高校の謎の1つ
答えの言い方からして、九重も何故なのかは理解していないらしい。九重の、自分の行動に謎があることが遥にとって謎であるが、そんな意味不明な何かに背中押されて自分に話しかけたのだと、そういうことなのだろうとは理解した。
「なんて言うんだろうな。話して損はないから、取り敢えずクラスメイトだし声かけくらいはして善し悪しを決めるっていう、所謂食わず嫌いをしてはいけないって感じたんだと思う。ハッキリとしないけどな」
「威圧感的な?」
「いいや、逆じゃね?優しそうでミステリアスだから、妙に興味が湧くって感じだな」
逆じゃね?と言われても、自分のことすら知らない遥に、そんな問いは無意味。
しかし優しそうなのは一瀬からも聞いていて、過去にも何度か言われたという記憶はある。ミステリアスなのはきっと、自分が何も持たない無の権化だからだろうと、遥は何となく思っていた。けれどそこに深く知ろうとの思いは皆無。
「そんな変な魅力が俺に?」
「多分ある。丁度いいくらいの整った顔しててすかし顔にも感じないから、性格ともバランス取れて完璧だな」
「……ありがとう」
褒められているか否か、それすら判然としない。けれど悪く言っている様子はないので、素直に受け取って感謝する。詮索も謙遜も好きではないが、相手の言ったことに少しの不審感を抱くのは遥にとって至極当然だった。
疑心暗鬼が常に心の中にあって、誰かに騙されているのでは?と思うことも少なくない故の、自己肯定感の低さが招いたネガティブ。それが時に邪魔をするのだ。それを減らし消すのも、また目標の1つである。
「うえっ、なんか俺がお前に恋愛感情持ってるみたいで嫌だな」
顔を引きつって、遥に対して偽りの嫌悪感を向ける。冗談というやつだ。
「それはこっちのセリフだよ」
嫌な顔はしないが、喜怒哀楽見せること当然なく、真顔でただ優しそうに言った。
「まぁ、そうだよな」
九重が納得していると2人は玄関に着き、ローファーに履き替えつつ九重は続ける。
「相性の良い相手見つけたか?」
「全く。多分見つけられない気がするよ」
(居ないからね)
居たとして、自分から動くことの良さを知らないから、きっとどの道歩いても見つけられないと諦めるのは決められたことだろう。
「そうか?でもそう言っても、来年の今頃には平均して75%が見つけられてるって答えてるらしいぞ」
相性は通達されない。故に誰と誰がという答えは明確にならない。だから見つけられたというアンケート結果なのだろうが、その中で何人が本物と出会えているだろうか。
「75%なら、残りの25%に俺は含まれるね」
「再来年には94%で、卒業には99%だぞ?」
「自信ないから、残る1%――2人の内の1人になりそうだよ」
相性指令を筆頭に、学校生活に於いて様々なイベントがそれらのパーセンテージを出したのだろう。だが、気になることはそこではなく、残る1%が存在するということだ。
遥自身、相性の良い相手が見つからないことは絶対だ。だから遥の学年は元々100%になることを想定されていない。だが他はどうだろうか。遥のような存在が居なければ、絶対に相性の良い相手を見つけたと言える学校生活を送れるのではないか。
そう思うから、平均して99%という全員ではないことに少し引っ掛かりを覚える。もしかしたら、自分と似たような生徒が毎年入学をしているのではないか、と。
元々、誰とも相性を合わせられないとして選ばれた生徒が居るのではないか、と。
(……退学も有り得るのかな?それとも本当に居たり?)
可能性は様々だ。犯罪だって行われると言った慎也の言葉通り、人を突き動かす原動力ともなる恋愛感情を罪に染めることはあって、退学の道を堂々と闊歩した者も居るはず。もしそれを含めていないパーセンテージなら、やはり特別はどの学年にも存在するのかもしれない。
(まぁ、いいか)
けれど、やはり自分に無関係なら好きにしてくれて良かった。だからパーセンテージなんてただの数字として、意識することもないようにした。
「何にせよ、今年中には見つけたいよな。その方が気楽だし、もっと学校を楽しめる」
「確かに」
九重の目標に似て、遥は感情の1つでも見つけることを今年の目標としている。それまでに関わる人は皆、教育方針に沿って遥とて例外なく相性によって左右されるため、簡単ではないだろうが不可能でもない。
「楽なのは、同じクラスに居ることだな」
「嬉しいのは女子だっけ?」
「そうだな。相性の良い相手が女子なら、それこそ青春を謳歌できる。けど、相性の良い相手じゃない女子と付き合うことも、別に悪いことではないと思うし、今後どう転んでも楽しそうなのは良いよな」
楽しそうに、未来がどう動くかを嬉々として話す九重。
その隣で、やはり青春という言葉の中に、恋愛という意味が含まれるのは至極当然らしいと、未だに遥か遠くの惑星を見るような目で九重を眺める遥はただただ、恋愛というものは面白いのかと共感しない思いに懊悩していた。
(難しい話だな……)
いつか自分に興味が湧いたら、恋愛という気持ちがどういうことなのか、知ろうと動き出すことはあるのだろうか。その未来はまだ、確立できそうになかった。




