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デートの誘いは男が先




 その後、特出すべき点は1つもなかった。昼休みという学校生活で最も長い休息時間が、教室のざわめきに耳を傾けるだけで終わる。ただそれだけの時間。


 一瀬は仲を深めた生徒と話すことに夢中で、九重だって例外ではなかった。だから無理に話すこともなかった。そして今、放課後という解放の時間へと進んだ時の中で、遥は先日と変わらず帰宅の準備を整えていた。


 「帰るのか?」


 けれど、帰宅は簡単に許されることではないらしく、九重が遥の方を振り向いて聞いてきた。


 「うん。帰るよ」


 「なら、一緒に帰ろうぜ。って言っても、すぐそこなんだけどな」


 「分かった。良いよ」


 何かと思えば帰宅の誘い。昼休み話していた前の席の男子生徒は今も席に座っている。しかしそれでも九重は遥を求めた。距離を縮めたいという友人としての思いがあったのか、それは遥には到底計り知れることではない。


 だから全く意味も分からず、遥はただ快諾する。受け身だから、誘われて断ることは基本ない。西園寺だったら少し考えて承諾する程度の誘いでもあったから。


 「よっし、んじゃ寄り道でもして帰るか」


 「寄り道?」


 席を立ってリュックを背負い、元気よく月曜日を終えたことを幸せそうに言った。それに対して、机の中に見えた教科書類に、置き勉かと同類であることを知った遥は、聞き慣れない言葉に問いをかけた。


 「ああ。戻っても暇だし、まだ部活には所属しないんだから、今は幽玄の敷地内を見て回ろうぜ」


 幽玄高校には部活があっても、それはクラブ活動と同義だ。幽玄の敷地外に出ることは許されてないため、部活があっても試合に向かえない。故に部活あっても体力を鍛えたり筋力を鍛えたり、ストレス発散程度にしか利用価値はない。


 そしてそんな部活は、入学から二週間後に入部を認められる。複雑な学校のシステムの理解のため、少しの期間が用意されているのだ。今はその期間中。それを使って、学校側の狙い通りに幽玄を知ろうと言うことなのだろう。


 「それもそうだね。そうしようか」


 「ノリが良くて助かる」


 ニッと笑って綺麗な顔立ちの綻んだ相好を見せる。魅力的と捉えられるし、好む人は男女関係なく好みそう。雰囲気も人柄の良さを感じるし、きっと九重は今後を幸せに過ごせる1人なのは間違いないだろう。


 「そうと決まれば、ほら、それ持って行くぞ」


 催促されて準備を終わらせて席を立つ。時間差はそんなにないだろうと思ったのか、先に九重は教室の外へ向かう。忘れ物がないか確認してすぐ、追いつこうと歩き出す。


 そんな時ふと視界に入る一瀬の後ろ姿。友人と弾む会話はいつも通りで楽しそうに笑い合っていて、既に確立した関係を築けていることに感心する。それと同時に、友人と言ってくれた一瀬に何か買うべきだろうと、今朝の会話が過る。


 (何か買うか)


 寄り道の理由が生まれた。九重にも何かお菓子でも買おうと決め、ササッと背後を通り過ぎる。


 (……なんでまた……)


 そして一瀬に一瞬だけ視線を向けただけでも、やはり鋭く敵意を向けられた視線は痛く届くもので、その方向を一瞥すると、見るなと言っても見てくる西園寺という存在は、心底気分を悪くし害してくる。


 きっと好意なのは間違いない。恋心として発達した、遥にとっては毒の好意。全く見るなと言ってないが、やはり高所はいつどこであっても苦手なように、視線もまた、回数関係なく一度で不快感に苛まれる。


 (……気をつけて)


 心の中で一瀬に注意するよう言って、早足で教室を出る。視線は九重に話しかけられるまで続いた。


 「なんかすげぇ顔してるな。不貞腐れっていうか、ムカついてるっていうか、不満そうな顔してどうした?」


 「ん?えーっと、喉に違和感あったから取り除こうとしてただけだよ」


 「なるほどな。俺とのデートが嫌なのかと思ったわ」


 「そんなことない」


 言い訳は得意だ。けれど好きではない。視線に対して自分以外の干渉は避けるべきだとの判断で、他人に伝播することはない。だから九重にも、視線の気持ち悪さを与えないため意識しないよう伝えない。そのためにつく嘘は、悪ではないと信じて。


 そうしてやっと、今日も視線から解放されつつ歩き出す。


 「そういえば、お前も意外と友達作ってるんだな」


 「そう?」


 「失礼だけど、お前って良く言えば大人しいタイプで、悪く言えば陰気ある1人を好むタイプって感じがするんだよ。悪いやつじゃないんだろうけど、俺からしたら関わることを少し避けるような暗いやつってな。だから隣の女子とか、昼休みどっからか戻った時に一緒にいた女子とか、珍しいなって思ってさ」


 「なるほど。よく言われるよ」


 九重の受け取り方は間違いではなかった。そもそも他人が他人に抱く思いに間違いはないのだろうが、誰もが第一印象で遥に好印象を抱かないことは一致していた。だからそれを正解とし、遥は間違えたことを言っていないと、自分への解釈の仕方に不満はなかった。


 「けど、そう思って話しかけるのはなんで?他にも人は多く居るのに」


 そんな遥でも疑問はあった。では何故、マイナスなイメージを抱く己に君たちは仲を深めようと接してくるの?と。


 それに対して九重は、軽快に下りる階段のテンポも声色も変えることなく言う。


 「なんか、よく分からないけど、六辻と話すことを避けないとって思うことはなかったからじゃないか?確かにイメージは良くなかった。でも話すことも良いだろうって思えたんだよな」

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