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購買からの帰り道




 「どこか不思議な人だと思ってましたけど、特待生だったとは。これからも仲良くお願いしますね?」


 一色が仲を保つことを願って遥と目を合わせようとする。そこに邪な気持ちは皆無。


 「こちらこそ」


 特別変化することはない。特待生だからってイベントに不参加が許されたり、相性指令に背いたり、退学が免れたりなんて特権は存在しない。だから特別待遇にしては、購買が無料という小さい待遇しか得られていない。


 今後特別待遇としてメリットが大きく得られる何かが起こる可能性はある。だが、だからなんだという話。遥にとっては何が起ころうとそれに従って動くことしか考えはないのだから。


 それから遥たちの順番になって、遥はたまごサンドとカフェオレを、一色は野菜サンドと牛乳を1つずつ手にした。評価に左右されない購買は、元々の値段を払う必要がある。だから一色は、生徒手帳を出して会計を済ませる遥の隣で、ベビーピンクの長財布を出して小銭の音を鳴らした。


 残念ながら特待生の特典を他人に分け与えることは禁止されているため、無料で奢ってやるよ、なんて恥ずかしいこと言えるはずもなく、ここはお支払いを眺めて待つことに。


 「お待たせしました」


 先に会計を済ませた遥が待ったのは10秒程度。小銭探して渡して解放までの数瞬の待ち時間だ。


 「いえ。戻りましょうか」


 「はい」


 横に並んで、広い廊下を占領することもなく歩き出す。一階にある購買は、四階が教室の1年生にとっては億劫な距離。しかし日々走ることを欠かすことのなかった遥の体力は、それを面倒と思っても身体的苦痛だとは思わなかった。


 「六辻さんは少食ですね。プリンもそうですけど、それだけで足りるんですか?」


 右隣の壁側。肩付近から声が聞こえる。先日プリンを食べた時、会話の途中で昼ごはん代わりと言っていたのを覚えていたらしい。それに対してたった1つ、たまごサンドだけで足りるのかと、自分の手持ちを見て言ってほしいと思いながら言う。


 「足りますよ。俺からすれば、一色さんの方こそ足りるのかなって思いますし」


 「私は教室に1つパンがあるので。それと、身長伸ばすための牛乳も!」


 自前の袋から牛乳パックを取り出すと、ニコッと。それを見て先日のことが鮮明に思い出され、もしかしてと思って問う。


 「……もしかして、幼いって言ったこと気にしてます?」


 恐る恐る、傷つけたかな?と、他人に優しく、そして傷つけられることの痛み苦しみを知る遥の、1つの憂慮を口にした。それに、一色はすかさず「あはははっ」と可憐に笑って、ズレた眼鏡を戻す。


 「幼いって言われたことには全く気にしてませんよ。ただ、私が身長伸ばしたいって切実に思うだけですから」


 一瞬にして笑顔に触れた遥は、その憂慮は杞憂として消え去った。嘘のない本心の言葉。受け取って安心感に浸っていた。


 「そうですか。なら良かったです」


 「遠慮しないで、思ったこと言っていいですよ。私、メンタル強強なので」


 「まだ一色さんについては知らないことがありますし、距離感的にも敬語が抜けないので、慣れてきたらそうします」


 「自分のペースで、ですね」


 きっと似たような価値観を持っている。決して迎合を好まず、大人数の場所を好まず、自分の好きな生き方を選ぶ。他人に人生を曲げられない、自分だけの信念。


 一色はそれを持っているのだろう。だから無理強いをしない。それが遥にとってどれだけ楽か、知っているわけでもないだろうに。


 「それにしても、今日が授業始まった初日なのに、皆さんもう何人も友達を作ってるって凄いですよね。仲良く話してますし、楽しそうなので相性も良いってことなんでしょうけど」


 「それがこの学校ってことなんでしょうね」


 相性の良い生徒で埋めたクラスメイト。平均的で大差のない男女共に20人ずつ。そのクラスに所属する以上、クラス全体と話が噛み合ったり相性が良くなって話が弾むことは至極当然だ。


 「1人2人でいいと思うんですけど、やっぱりもう少し多い方がいいんですかね」


 「全員が大勢と仲良くすることはないですし、俺もそこまで多くなくても楽しめると思っているので、それこそ十人十色で良いんじゃないですか?」


 「やっぱりそうですよね。友達少ないと後々ペナルティというわけでもないですし、相性指令で仕方なく関わることはあっても無理には嫌ですから」


 結局自分がどうしたいか。慎也も言っていたが、生徒が生徒たちと創りあげるのが学校生活。そこに学校が強制的に他人との関わりに関与することは、慎也の性格上考えにくい。


 だから好きなように過ごして、その結果で得られることが全てだ。自分から動くのも、他力本願なのも。


 「まぁ、今後の相性指令次第ってとこもありそうですけど」


 「ですね」


 AIや学校側が、生徒に対してどの指令を下すか。未知の今から対策することもできない。まだ楽なら、遥的には嬉しいが。


 そんな会話を続け、2人は仲良く階段を上り終えた。教室は最も手前の教室。だから上がってすぐ、喧騒に包まれた教室が目に入る。


 揃って入る2人に目を向けて興味を抱く人は居らず、一瀬も九重も、そして西園寺も昼食を食べていた。


 (西園寺は1人か)


 だろうな、とも思えることに反応し、「ではまた」と別れを告げられることで遥は一色から離れて自分の席へ戻った。

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