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一応の同盟




 「先生といえば、学校についての説明でもありましたけど、相性指令というのも気になりますよね」


 座ってお茶を一口飲み、遥も気になっていたことについて一色が問うた。入学前にそういう試験のようなことをするとは聞いていたが、詳細については詳しく聞かされていなかったのだから当然の疑問だろうが。


 「相性によって学校側が決めた相手と交流をする。それが相性指令って書いてますけど、内容までは分からないですね」


 スマホを操作して、昨日風早の言っていたように分からないことは調べて解決する。そこに幽玄学校の生徒だけに閲覧可能なサイトがあり、押して校則や不明点に目を通していた。


 「噂では相性の悪い人とも交流をさせられるらしく、そこだけは唯一気乗りしないんですよね。無理矢理の関係って、私好きじゃないので」


 「同感です」


 過去に何かあったのか。詮索はしなくとも、嫌うことには理由があるため何となく察する。それこそ何故嫌うのかは不明だが。しかし共感はする。自分らしく生きるため、無理矢理他人と合わせるなんてこと、したいと思う人間は皆無だろう。


 「過去にはそれで自主退学した人も居るらしいですし、安心とは思えませんよ。いつ私も規則に触れるか分かりませんし」


 「一色さんが触れるとは思いませんけど。まぁ、それも多分なんですけどね」


 かつて清濁併せ呑む性格をしていた遥が、今ではこうだ。人生なんて何が起こるか分かったものじゃない。未来は常に確定しないし、不意に刹那の絶望だって訪れる。それを知るからこそ、その言葉には重みがあった。


 「はい。しかも相性指令は内容を誰かに言っても良いけど、内容を誰かに見せるのは禁止されてる。それってつまり嘘もつけるってことじゃないですか。だから変な人に絡まれたらどうしようって不安もありますよね」


 きっとそれが一色の最大の心配なのだろう。どこかの誰かさんとは違って、勉強が、とか学生として有るまじき怠惰を心配の頂点に掲げることなく、幽玄の学生として最もな憂慮を持つのは、流石の聡明を自負する一色だ。


 「それは思います。もし自分に無意味に接触する人が居たら、相性指令と言われると納得しますし」


 そしてその心配の中の心配。嘘をついてでも他人と関われる誘い文句が作れることだ。


 それもまた、恋愛とやらに関係していることは遥も察していて、接触の理由がない、ということを問題視して好きな人に接触することを抑える生徒の背中を押しているのだろう。


 そういった面では、決して悪いとは思えない。自分の力で乗り切ることも大切だが、チャンスをものにすることも自分の力となるのだから。


 「今からそう考えると、相性指令も億劫に感じます」


 「流石に1年次に酷な指令はこないでしょうし、1学期から積極的に関わろうと動く人は居ないと思いますよ。まだ慣れるまでの期間、流石に学校も生徒も鬼じゃないと思うので」


 そう信じたいだけだが。


 実際慎也の本懐は未だ分からない。本当に成長へと繋げてくれるのか、それともただ実験体の1人として勧誘しただけの放任主義か。


 「だといいですけど。最悪、相手の指令を見てペナルティを受けるのも覚悟しないとですよね」


 「はい。俺もそれは考えてます」


 許可されない。校則違反だから、当然大きなペナルティが課される。相性指令の未達成よりも重いペナルティらしく、それも今調べた校則一覧に載っている。


 「1日休みが消えても、危険を防止できるならまだ良いですし」


 幽玄高校の狂った校則の1つ――生徒1人につき10日の自己休暇という休みの日が自由に使える日数を与えられるというもの。幽玄高校では、社会でいう有給休暇のような休んでも給料貰える日として、欠席とならない自分だけの休みの日を10日取れる校則が存在するのだ。


 そして相性指令のペナルティは、その自己休暇を1日削るか成績を下げるかの二択だ。つまり考えを変えれば、年に10回は相性指令を見ることが可能ということでもある。


 最低でも二週間に一度の相性指令。10回は大きな回避方法だ。


 だが、自分に迫る人間の数によって左右される。退学者も含めて600人存在するのが幽玄高校。先輩後輩関係なく指令は出されるらしく、故に暴論では599人が自分に接近する指令を与えてくるかもしれない。


 だから、絶対的なお守りでもなければ、回数制限のある無敵状態となる魔法は、簡単に使用することもできはしない。


 「システム理解にまだ時間かかりそうです」


 「私もです」


 何度辟易とさせられ、部屋にこもって誰とも会いたくないと思い始めるのか分からない。何が起こるか分からない今、やはり今だけを見て幸せを得ることも大切なんだと思わされる。


 「私たちは、お互い嘘をつき合うのは無しにしましょう。その方が少し楽なので」


 「そうですね」


 嘘なんてつく気はない。仲を深めた相手と軋轢が生まれては、少々困ることがあるのだから。


 そうして一応の同盟のような信頼関係を築き上げた遥と一色は、それからも学校のことについて過去のことについて、触れられたくないことは回避しつつ臨機応変に会話を重ねた。


 そして18時前、もうそんな時間かと気づいた遥は、長居させてもらったことに感謝し、長い長い土曜日という色の濃い日を過ごし終えた。

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