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親密度は知らされない




 「六辻さんは遅いタイプなんですね」


 まだ残る遥のプリンを見て満足そうな一色は言った。食べる量を正直に答えるし、早く食べ終わっても平然として笑う姿は、そういうことを気にしないタイプなんだと、繊細な性格でもないことを言われて思う遥だった。


 「話してると食べるより考えることに集中してしまって、つい手が止まるんですよ。マルチタスクが苦手なので、同時進行は難しいです」


 「そうなんですか?てっきり得意な方かと」


 「まぁ、口数少なくてこんな性格なら、そういうイメージになるかもしれませんね」


 きっと一色はマルチタスクを可能にする人だろうが、人間は大半マルチタスクを得意としないと遥は思う。学生で言うなら、会話しながら勉強だったり、球技しながら対策を考えたり。それを容易く行える人こそ少ないんだと。


 「ごちそうさまです」


 合掌して食べ終える。一色と比べて圧倒的に遅かったが、それでも自分にとって幸せと思える感覚で食べ続けられたのはノンストレスで良かった。気を遣う相手なら味を気にせず食べ進めただろうから。


 「どうでした?」


 「お昼ご飯を食べてなかったので、丁度良かった感じですね」


 「あっ、お昼ご飯食べてなかったんですか?」


 「気にしないでください。本当はフードコートで食べようと思ったんですけど、それを忘れた俺が悪いので」


 また謝られるのも良くない。しかし、悪いと思ったことを謝ろうとしてくれるのは少し関わりやすい人の特徴だろうから安堵する。


 「そういえば、一部屋ずつ親密度を調べるAIが設置されてるって言ってたんですけど、それ、試してみませんか?」


 会話を途切れさせることを嫌うとかではなく、単純に次から次に聞きたいことやしてみたいことが、まるで天啓のように降り注ぐから口に出す。


 新たな学校生活に気分上々なのだろうか。遥は自分でも全く高揚感を覚えない感情に、それはないだろうなと結論付けた。


 「あぁ、良いですね。やってみますか」


 そう言って快諾してもらえると、一色はベッドの横につけていた背と、床に置いた腰をクッションから離して立つ。そして向かうのは4つもあるという噂の合鍵の置き場所だろう。


 本鍵入れると5つあるのがこの寮の鍵。そんなに渡す相手なんていないのに、一体何に使うのか。


 そんなことを思っていると、鍵を持って一色は遥の前に来る。


 「では鍵閉めるので、これ使ってガチャって解錠してください」


 「分かりました」


 言われる通り、遥は合鍵を持って一旦部屋を出る。すぐに鍵が閉められ、追い出されるってこんな流れなのかな、なんて思いつつ、合鍵を片手に解錠を試みる。しかし、ぐるっと鍵は回転しても、解錠の音は聞こえない。引いても開かないし、完璧に追い出されたらしい。


 「こんな感じか」


 きっとそれを見た人は、本当に追い出されたと勘違いして、哀愁漂う情けない男子生徒の姿に、スマホでカメラを起動させて写真撮って友人に流すのだろう。


 だが幸いにも同じ階に見えるエレベーターまでの50の部屋で、1つとして誰かが部屋を出入りする姿はなかった。


 そんなこんなで、何かを確認した様子の一色が、内側から鍵を開けてくれる。ひょこっと覗く姿は小動物系のような可愛さがありつつも、思ってすぐに頭の中から消えた。


 「凄いシステムですね。スマホに何か連絡が来るのかと思ったんですけど、単に親密度が足りてないということで入れないだけらしいです。どこにもメーターのようなものはないですし」


 「へぇ、親密度が分かれば良かったんですけどね」


 そうすることで目安は決められるのだろうが、親密度を可視化することで、足りてないなら接触を増やそうとか思ってそこから悪い方向に発展する可能性もあるため、一概に見せるのが正しいとも言えない。


 「ですね。でもまだ私たちの仲では入れないのは分かりましたし、時間を費やす必要があるようですね」


 「はい」


 とはいえ、遥は頻繁に訪問することはないと思っている。用事もない時に訪問して、「暇つぶしに来た」と言うほど暇してない。今のところ勉強で行き詰まった時だけが該当する。


 「それにしても、なんで合鍵って4つもあるんでしょうね」


 戻りつつ、幼く見える一色の後ろから一言問うように言った。


 「確か本鍵合鍵合わせて2つの時に、鍵を無くしたって報告が1年間で89件あったらしく、それなら元からたくさん置いておけば追加の必要もないだろうということで、当時から今まで5つになったらしいですよ」


 (ということは178個は最低でも無くしたことになるのか。それで1つ無くしてる人も居るとすれば……それは凄い)


 娯楽施設やショッピングモールに行く際、どうしても無くすことがあるのだろう。不用心な人は、財布やスマホを出そうとして落としたり、ハンカチに紛れて落としたり。その可能性は多くある。


 しかし、特別な意味もなくそれが理由とは、実はどこか抜けた人も多いんじゃないかと思う遥だった。


 「先生たちも大変苦労してるんですね」


 「教員になるなら、この学校だけは転勤したくないです」


 ふふっと笑って、将来の自分を思い描いたような一色は先程と同じ場所に座った。そして流れるようにプリンの容器を取ると、ゴミ箱にポイッと丁寧に捨てた。「ありがとうございます」と感謝し、遥もまた同じ場所に座った。

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