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今は敬語、いつかはタメ口




 「こうして部屋に呼んで、不思議と安心感を感じれるのはそれだけ人がいいというオーラを発してるってことですよ」


 「そんなにですか?」


 「はい。初対面から2日で人の性格なんて完全には知れませんけど、昨日と今日でお返しをしたいと言ってくれる人の良さは感じれましたし」


 少ないのか多いのか、挨拶をされてそれに返したいと思う人の割合はどんなものだろうか。


 確かに遥も多いとは思わないが、基本としてお返ししたいと思うのでは?とは考える。だが考えてすぐ、お返しを()()()と思うか()()()()()()()()と思うかの違いは、大きくあるなと理解した。


 「これから俺のことを知って、やっぱり悪い人だと思ったらどうします?」


 「その時は絶縁ですよ。そうなると、今は思えませんけど」


 それも今だから。いつまで今が続くか分からないし、感情の変化が起こることも有り得る遥には、一概に絶対という言葉を使えない。


 他校に比べて人間関係が複雑となり、格段に成長する人、そして成長せず、逆に自分の首を絞めていく人が顕著に現れ始めるこの学校。今は友達、今は知らない人、今は恋人。その【今】が永劫か否か、決めるのは自分自身だ。


 良くも悪くも、成長するという意味では、この学校の教育方針は間違えてはいないのだ。


 (絶縁……か。俺も悪人に成ることがあるのかな)


 ないとは言いきれない。


 「仲良い人と絶縁は嫌ですね」


 過去の記憶がチラついて、不意に語気が強まりそうになって堪えて、普通通り言った。


 「ですね。それにしても、六辻さんも同級生に敬語を使って会話する人なんですか?初対面だからって今は敬語なのかもしれませんけど」


 話が変わって問われたのは、先程部屋に入れてもらう際に思ったことと似たようなことだった。やはり一色もそこは気にしていて、仲良くというなら、無理をしない関係を築きたいという思いがあったのだろう。細かなことにも気づきそうな気遣い得意っぽい一色らしい。


 「いえ、相手が敬語を使うと自分も使ってしまうだけで、一色さんも言うように初対面だから敬語を使う性格でもあるんですけど、基本は慣れると敬語は使わなくなります」


 最近同い年と会話をしていなかったから、それが本当かは不明だが。


 「そうなんですね。では、慣れたら普通通りお願いします。仲良くするにはその方がより楽しいと思うので」


 決して強要はしない。求めるのは実直さ。いつまでも偽りの相手と関わりたくないという、学校生活という青春とやらを充実させるために、一色から出た小さな願い事だろう。


 「分かりました。その件に関して、一色さんはどうなんです?」


 「私は幼い頃から誰にでも敬語で育ったので、これが普段通りなんです」


 そこに暗い過去はないようで、笑顔とともに語られた言葉に嘘もなかった。


 「良いですね、敬語。一色さんに敬語使われると、後輩と話している気分になりますし、早くも敬語を使わなくなりそうです」


 そこに悪意の1つもなく言った。だが、聞いている側はきっと感情は豊かだからこそ、それを少しだけバカにされたと思うのだろう。


 「ふふっ。それ、私に幼いって言ってます?」


 何にも怖くなく、むしろ楽しんでいて幸せそう。そんな綻びの笑顔を見せながら、一色は聞いてくる。


 「少し幼く見えますね」


 本音はいつだって変えない。一色に良く思われたいのはそうだが、だからと言って迎合は嫌いなのが遥だ。自分らしく学校生活を送れと、慎也から言われて以来、他人がどう思おうと自分の判断にただ従うだけ。だから今回も、そんなことないよとは言わず、本音として言った。


 すると一色は気分を悪くした様子もなく言う。


 「まぁ、六辻さんって高身長ですし、大人っぽいので私が幼く見えるのも分かります。私も雰囲気は大人しめって言われますけど、どうしても童顔が影響してそう見られることも多いので」


 凝視しなくても、一色の顔は何度も言うよう可愛い。それは恋愛感情なんて持つはずもない遥が思うことから分かるが、ただ顔が幼くて可愛く見えるという意味だ。


 今年16歳にしては少しだけだが。


 小顔ということもあり、中学生と見紛うこともないことはないだろう。


 「でも、一応成績優秀ですし、中身はしっかり大人っぽいとは自負してるんですよ?」


 「多分俺よりは大人だと思いますよ」


 「そう言われると、皮肉ですか?って聞きたくなります」


 「全く違いますよ」


 「ですよね」


 きっと知力に関しては圧倒的に上だろう。遥は中学に通っていない間、時々独学で知識を入れていただけなので、差は大きく開かれているはず。だから実は、明後日からの授業も受けられるか心配なのが最大の心配だった。


 だが、同時にその対処法として、分からなければ優秀を自負するこの少女に全てを聞けば、きっと快く教えてくれるだろうから、最悪の場合は頼ることを密かに決めていた。


 「あっ、もう食べ終わりました。思ってたより量ありましたけど、意外と食べられました」


 「いっぱい食べるタイプなんですか?」


 「普通か普通より少し食べる程度だと思いますよ」


 (普通って何?)


 基準があるのかすら分からない。一般的な普通を、誰か教えてくれないかと願うのは、儚い希望のようで誰にも届かない。


 そんなこと思いつつ、「ごちそうさまでした」と丁寧にする姿は、やはり律儀な人のイメージに合った善人の様だった。

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