隣と仲良くなれるだろうか
「では、いただきます」
寛ぎ始めて早速、一色はプリンを手に取ると一口小さくも口に運んだ。それを見て合わせる気はなかったが、食べた瞬間に「んっ!」と美味しいだろう反応を見せる姿を見て、食欲がそそられてしまった。「いただきます」としっかり呟いて、使い捨てのスプーンでパクッと。
「やっぱり美味しいです。食レポは無理ですけど、とにかく美味しいです」
「ですね。買えて良かったと思える味です」
一色の言うよう、とにかく美味しい。プリンの材料が何かも知らない遥は、このあれが何とかで、何とかです、という人にオススメできる言葉は生まれないが、その分美味しそうに食べる姿は食レポ向きではあった。
「でも、普通の疑問なんですけど、一色さんならこのプリンに1100円出してでも買いますか?」
そんな中、食べているとふと思った。これを買ったのは、お返しをしたい気持ちがあったからで、ただ甘いものを食べたいが故に1100円を払って期間限定の商品を買うのは流石にないかな、と。
だから一色はどうなのかと、甘いもの好きと言った彼女の価値観というのはどうなのか、単純に気になっていた。
「んー……気分次第ですかね。今日はテスト終わりとか、何かが大きく成功して成長したって時のご褒美なら多分迷わず買います。けど、普通の日に自分に買うことはないかもしれないですね」
「なるほど」
考えてみればそうだ。今回も似たようなことで、料金こそ無料だが、買おうと思って1100円の値札に驚きつつも今日くらいは挨拶ってことだし良いかと思っていた。
「まぁ、この学校は忙しそうなので、達成感とか感じてる暇なさそうですけど」
「それもそうですね」
二週間に一度の相性指令。更には月一度のイベント。大半の生徒が月一度のイベントよりも、二週間に一度の相性指令を重要視しているだろうが、それでも日々忙しない時間を過ごすことは変わりない。
成績の上下は普段の生活から関わっているし、プライベートでも相性指令の遂行は可能だから、コミュニケーションが苦手な人は時間を費やすだろうし。考えてくれるなら嬉しいが、学校側が時に過酷な指示をすることもあるらしいので、今からでも怯えるのは準備としてありかもしれない。
そんなことを慎也の顔とともに思い出しつつ、食べ進めるプリンを片手に話は弾ませる。
「隣の人にももう挨拶は済ませたんですか?」
「はい。入寮日が同じだったので、その時に持ってきていたお菓子を挨拶の時に持って行きました。本当は六辻さんにも同じお菓子を持って行きたかったんですけど、消費期限が限界で」
「いえ、入学式前日の夜に入寮する方が悪いので」
誰がどう見ても阿呆の極みである。入学を決めて居たのに、あれやこれやと準備することに手間取って遅れた。荷物なんて多くないのに、これは必要かあれは必要かと、心配性の一面がより強く出て。
思い出すだけで効率が悪くて何がしたかったのか分からない。ここを退寮する時は、前日までに整理整頓を終えてからにしようと固く誓ったのも、実は今では忘れている六辻遥であった。
「それで、隣の人とは仲良くなれそうですか?」
「私とは真逆のような、天真爛漫な女子生徒だったので、他クラスの生徒というのもあって、相性はまだ分かりません」
遥を除く199人がクラス分けの時点で、性格を主に生徒同士の相性を考えて分けられている。男子が多いクラスでは内気な男子が多くて勝気な女子が多い、など。そんなクラス編成故に、内気でも勝気でもなく、平均的のような落ち着きのある生徒を集めた1組では、他クラスとの相性が男女関係なく良くも悪くもない。だから一色も、ハッキリしないと言い切ったのだろう。
「何組の人です?」
「5組ですね」
「それなら納得ですね」
最も女子の少なく、悪く言ってオラオラ、良く言って行動的社交的な女子の多いクラス。たった10人で活動という遥には到底不可能なクラスでもある。
「仲良くはできそうです。陽気で、話していても笑顔の絶えない人なので、万人受けするような性格は関われると意外と楽です」
「良いですよね。相手が盛り上がってくれるなら、それに合わせるだけで話は弾みますし」
「はい。とても重宝しますよ」
笑顔の絶えない、というのが、何よりも重要だ。楽しそうに笑ってくれると、関わる側としても不快が全くなくて居やすい。一度その人と関わりたいとは思わないが、人と話しているとこを見たいとは思っていた。
「でも、六辻さんも中々重宝すると思いますよ。話していて気楽ですし、威圧感もなくて無理をしてる素振りもない。常に本心から話して嘘をついていないような感じがするので、気にすることなく話せるのは良いです」
「そうですか?高評価なのは嬉しいです」
素直になろうと思ってなっているんじゃなく、全て正直に答える方が後々面倒が減るという考えで、結果的に素直に全てを語るだけ。
もし嘘をついて他人と話して、それを聞いていた人たちの中で齟齬が生まれては、軋轢を生むかもしれない。そうなって人間関係が瓦解するのは心底面倒。だから本心から全て選択し、間違えても間違えなくてもそのスタイルは変えない。流石に時と場合を考える能力はあるため、不躾にも発言はしないが。




