視線は小気味悪くても運は良き
遥には気づいていない。だから視線を向けられないと正確性は欠く。それでも、似ているという予想は拭えなかった。
一瀬はそれに気づいていない様子。昨日作った友達と仲良く会話しつつ笑みを零しているため、聞かないと視線については知らないが、それを言って違って、逆に気にさせてしまっては元も子もない。
だからここは一旦静観で良いだろうと帰結する。結局人助けをしたいわけでもなく、自分が不快だと思わない学校生活を過ごせるならそれでいいと思う遥は、未だに見続ける男子生徒を記憶してその場を離れようとした。
するとそのタイミングで、視界にふと一瀬が入る。踵を返すように後ろを向こうとした遥は、慌てず向き直す。そこにはテーブルからやや身を乗り出して手を振る一瀬の姿があった。
「……手を振れば良いのかな?」
きっと男子生徒に視線を向けていた際、何度も手を振っていたが気づかれず、大胆にも身を乗り出すという選択をしたのだろう。大きく手を振る姿も、少し目立って恥ずかしそうにする相好も、それで納得がいく。
取り敢えず遥は、軽く手を振ることでそれに応える。すると一瀬は感謝を伝えようとしているのか、親指を立てた。
特に話すこともなくて、偶然見つけたから手を振った程度の挨拶のような交流。これもまた学校では普通なのかと、欠如した普通の概念を知る。
そして何よりも、それと同時に――やはり向けられる視線は鋭い。睥睨とも似た相手を嫌悪するような威圧感。視線こそ気づかないふりをして合わせないが、受けていて心地良いとは言えないのは相変わらず。人の視線を受けない日々を送った故に、逆に敏感となった遥の感受性は、それを唾棄していた。
(確定かな)
絶対と言い切れる証左は何もない。感じることは証拠として形に残せないのだから。けれど、十中八九違いはないと思う遥は、以後彼が自分に対して視線を向け続けるのなら、その理由を聞いても良いかもしれないと思い、離れていても感じる視線を背中に、その場からササッと消え去った。
「分からないな……そんなに悪いことをしている覚えはないけど」
もしかしたら無意識に不快にした可能性もある。人は当たり前と思ったり、性格に実直故に自分の行動に不審な点があることを理解しきれない。それは仕方のないことであるため、割り切って後々反省するのが普通だ。
遥もまたその1人だ。だからこれ以上続くのなら、謝ることを視野に、どうにかして解決の緒を掴むことを選んだ。
「まぁ良いや。今は一色さんの……」
好きそうな食べ物を買う時間だ。無駄に小気味悪い視線に時間を奪われては癪に障る。もうそのことは忘れて、イメージを思い出しつつ見て回る。
小柄な体躯で可愛い系。怜悧そうな一面と真面目の一面もある。甘いお菓子も大人な苦めのお菓子も似合うという、結局答えのない結論が頭を過る。
だがどちらにしようか、それを迫られればと思考し、結局選んだのは甘いお菓子。性格は確かではないが、見た目は確かだ。
オシャレも最近の人気もトレンドもなんにも知らない無知の遥。購入して渡しても嬉しいのかという他人の感想の心配がありつつ周りを探す。そして探し出して5分くらい経過した時、右往左往と迷路に迷わされるように動いていると、偶然にも期間限定&時間限定商品と書かれたプリンを発見する。
現在時刻11時55分。5分後に販売開始と書かれているので、12時ピッタリの販売なのだろうが、今貼り出された時間によって人は然程並んで居ない。だからこれしかないと、無駄な並ぶ手間も省けるし期間限定という女子の好きそうでレアなアイテムを獲得しようと、商品には迷わず列に並んだ。
すると貼り出しを狙っていたのか、人は遥の後ろに何人も並び出す。それほど人気なのかと思えば、取り敢えず間違いないだろうと確信してホッと安堵した。
そして時間は過ぎ、個数限定でもあったので2つ無料で買ってすぐにその場を後にする。改めてその時感じた人混みに入ると気分を悪くする性格は、まだ治らないらしい。そして列に並んでいた一瀬を見てこれ狙いかと、歓談の時正午にも関わらず食べ物を持たずに座って居たのを思い出すと、深呼吸して一階のフードコートエリアから抜け出した。
「あんなに並ぶなんて……運だけは良かったな、俺」
紙袋を大切に持ち、落としたりしないように丁寧に運ぶ。何事もなくショッピングモールを出ると、そこは天国のように静かで心地良い風が涼しくも吹きつける場所だった。
「しっかし、1個1100円って高いよね」
本当なら払うべき値段を見て驚愕したのが鮮烈に残る。B評価の生徒も8割引の設定だったので、それだけ高価らしい。
だから崩さぬよう、遥は帰路に着いた。
そして寮に戻ったのはそれから10分後。エレベーターで最上階を押し、真っ直ぐ長い長い通路を最奥まで歩く。到着したのは最奥手前の部屋。一色と書かれた表札を見てポチッと。
するとすぐ、「はい」と返ってくるので居るのは確定した。
「どうも、隣の六辻ですけど、俺からも今後よろしくという挨拶の意味を込めてこれを渡したくて来たんですけど」
「あぁ、わざわざありがとうございます。待っててください」
するとバタバタと足音が近づく。
その間、敬語の人には敬語になるけど、タメ口の人にはタメ口で話してしまうという現象を実感して、自分は流されやすいタイプなのかなと思ったりしていた遥だった。




