買い物と発見
幽玄高校には5段階の評価がある。A~Eというアルファベットで表され、相性指令や普段の生活、期末テストといった成績に反映される場面で上下する評価が。
それによって、買える商品と値段も変動するというのがシステムだ。
まずA評価は今の入学生全員に反映されている評価。幽玄を冠した場所でなら、全てが無料で買えるという最上だ。そしてB評価は8割の商品が無料であり、その他2割の商品は8割引き。C評価は全ての商品が8割引き。D評価は全ての商品が5割引。最後のE評価は全ての商品が3割引。
このように、評価が下がるにつれて支払い料金も高くなる。これもまた、生徒たちの学習意欲を高めるためだろうが、なんとも狡いというかなんというか。お金で動かすのは少々学業としてどうかと思う遥もかつてはいた。
だがそれでも、必死に成績を上げようとする意気込みは大切だと理解しているから、一概に悪い事だとも言えない。
「でも、罪悪感あるよね」
5桁の番号を打ち、更に部屋番号6100と打ち込んで購入完了する。
今は遥もA評価のため、全ての商品が無料なのだが、だからといって好き勝手買ってはいけない。1日1人何個までと決められており、レジを通した時に打ち込んだ部屋番号によってその人がどれを何個買ったかをAIが把握するため、何個も買っていくことはできないようになっている。
レジを通さず持ち出せば、当然センサーが感知して停学か退学の道を歩むことになる。一応万全を期しているため、最近は盗み出す生徒も居ないのだとか。当たり前だが、600人も居るなら1人くらい狡猾に持ち出す者が居てもおかしくないのに皆無なのは、それだけ生徒の質がいいということなのだろうか。
そんなことを思いつつ、遥は手ぶらで家具店を後にする。
「えぇっと……四階か」
次はクッションである。低反発の柔らかいクッションを手に入れるため、クッション専門店へ向かう。
エスカレーターから降り、到着するとそこには学生のような人たちも少なからず居た。家具店と違って自分好みのクッションを欲しいと求める人が多いのだろう。女子が多くて、そういった内装のオシャレに気を遣うのは、これまた青春なのかと最近覚えた言葉を使いたがる子供のように思う遥だった。
テーブル同様、これと決めている物はない。見て選んで感性に響いた柔らかいだけのシンプルなやつでいいと、人混みではない店内を、当たらないよう注意して歩く。
そして一旦止まる。
「抱き枕もありだな」
細長い抱き枕。仰向けで寝るが、時にベッドで横になりながらスマホを操作する遥には、必需品と言っても過言ではないほど重宝するものだ。前々から欲しいと思っていたのだ。この無料の期間、購入するのもありだろう。
早速番号をスマホに打ち込む。
そして良いクッションを今度こそ見つけようと歩き出す。そんな中で、周りを見れば同い年か少し上の人たちが、店員としてアルバイトをしている姿が時々映る。
完全に隔離された幽玄の地で、親からの仕送りなどは許可はされているが、一人暮らしなのに金銭を得る方法はそれを除けばない。だから評価が下がって困る人は、予めアルバイトをしてお金を稼げるのも幽玄高校の特徴だ。
A評価の人もアルバイトをしている人は多く、卒業時に使えるように1年生の頃から貯め続けるのが大半の目的らしい。
「俺もすることになるかな」
自信は全くない。高評価で留まれるとは思わないため、今からでもアルバイト先を探すのも良いかなと、ネガティブな遥がこんにちはしてくる。
そんな思いを感じつつ、ある程度見て回った遥は、その中で最も良いと思えた丸っこいビーズクッションとモコモコの綿入りクッションの2つをスマホに。流れるようにレジに向かって購入を終えた。
購入したのに手持ち無沙汰とは、少し罪悪感が身を襲う。早く慣れないとなと思っても、考え過ぎる性格はまだ治る気配はなかった。
そんなこんなで、最後に一階のフードコートにて、一色に返す食べ物でも探そうかと足を運んだ。丁度人が混み出す正午より少し前。外に出たタイミングミスったと思っても仕方ない。空いた席も見つからないが、座る気も毛頭ない。だから美味しそうで、一色のイメージに合いそうな食べ物を探す。
1分くらい歩くと、人混みの中で1人、見知った顔を発見した。珍しいでしょと自慢するように髪を靡かせた少女だ。
「一瀬さん、今日も居たんだ」
確か昨日も友達となっただろう前の席の子とショッピングモールに行くとか話していたが、足りなかったのか予定がなくなったのか。何にせよ一度見た人は大勢の人の中でも目立つのだと、一瀬の存在感が遥の中で大きくなっていたことに気づいて思う。
そして同時に、客観的に見ての違和感にも気づく。
騒がしく混み合う中、1人の学生のような人が、一瀬の方を動くことなく凝視していたのだ。1人でテーブルを独占し、1つだけ空きがあるように目立つ。だか、遥の目にも違和感として強く印象が残った。
「あれは……」
見たことはない。けれど、異様な光景が昨日の感覚と合致したように思い出される。一瀬と話していた時の小気味悪い視線。彼がその人と断定はできないが、今のところそうかもしれないと、遥の中では答えが出ているようだった。




