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目的は感情を取り戻すこと。恋愛じゃない




 「六辻こそ、なんでここに居るんだ?」


 「テーブルを買いに来たんだよ。部屋が味気ないから、気分的にも何か置こうかなって」


 疑問に思われるのも当然。この辺りに学生っぽい人は全く居なくて、それは部屋に十分な家具があるからだ。実は入寮前に好みの家具を寮部屋に配置することが可能な幽玄高校なので、今更買いに来る人は然程多くない。


 それこそ遥のように逼迫してバタバタしていないなら、慎重に長考して内装を考えられる。きっと九重もそっち側なのだろう。


 「なるほどな。忙しかったってことは、遠くからの入学か?」


 「いいや、マイペースで準備に遅れただけ」


 「イメージ通りって感じだな」


 中学の時は都立の学校に通っていたという設定にしているため、聞かれれば答えるが、なるべく逃げる方向で返すようにしている。嘘はなるべくつきたくないから。


 「それにしても、入学してまだ初日終わっただけだけど、自分と相性良さそうな人見つけたか?」


 「見つけられる気がしないよ。199人もいて、その中で見つけるなんて中々難しいからね」


 (そもそも居ないんだけど)


 相性の良い子は用意できなかった。無感情の子に合う相手は探せない。ということで、結局遥は3年間孤独に生活する可能性が高まったのだが、それでもここに通った理由は明白だった。


 ――君と仲良くできそうな子をこちらで集める。


 慎也がそう言ったことが、入学を決めた一手だった。だから今、自ら探そうと意気込むことはない。それにまだ余裕がない。久しぶりの学校に久しぶりの交流。壁は大きく聳え立つから。


 「そうだよな。俺もそんな人数関われるとは思わないし、見つけられるとは思わないんだよな。ただ女子であってほしいとは思うけど」


 「なんで?」


 「だってその方が楽しそうじゃね?もしかしたら付き合えるかもしれないし、青春ってのを送れそうな気がするだろ?」


 「なるほど」


 青春。一度調べたことがあるが、どこをポチッと押しても必ず出てきた単語が恋。やはり慎也の言うように、人は恋して他人を求め幸せを獲得する生き物なのだろうと、九重の切実な願いから改めて思わされる。


 全く共感もなければ、そんなのは理想であり容易く叶わない願いであると割り切って興味を捨てている。きっと心に響いて目を覚ませば、誰かに恋して幸せを得られる。それでも遥は、したいと思わないし意味もないと思う。だからこそ九重に、(何言ってるんだろう)と心の底から思うのは当然だった。


 「相性が良ければきっと自分好みなんだろうしな」


 「どういう人が好きなの?九重は」


 一応人を好きになる条件というのを、他人の基準として知るのも1つの勉強だろうと問うた。


 「面倒じゃなくて趣味に理解ある人かな。自分の趣味を否定されたらその人とはやっていけないし、小さなことで気にして喧嘩とか嫌だろ?だから寛大な心を持ってる人が良いな」


 「それはそうだね」


 「六辻は大人しい人って感じだよな、騒がしくなくて、インドアタイプの人が好きそう」


 「多分そうかな」


 「多分って、ないのか?自分の好み」


 「今のとこはないかな」


 けれど騒がしい人は好みではないかもしれない。一概に嫌いとか苦手ではなく、一瀬のように会話を弾ませてくれる人は好ましい。けれど、常に騒がしいのも疲れるしついていけない。時と場合で変えてくれる器用な人は、もしかしたら合うかもしれない。


 自己分析すらまだできない遥は、その自分と合う人を見つけることはまだ難しいのだ。


 「そうか。まぁ、今は学校生活で忙しいし、慣れとか必要だもんな。それに相性の先が必ずしも好きな人ってわけじゃないだろうし」


 大前提として、相性の良い相手が恋愛に関してとは限らない。恋愛に重きを置いていることは確かでも、相性から恋愛に直結することは多くはない。更に友人としての可能性もあるのだから、浮き足立って期待すると、幻滅して落ち込みかねない。今は初めての学校生活のシステムに心踊らされても、いつかは現実を見る必要がある。


 「楽しめれば何でもいいよ」


 「それもそうだな」


 ここに来たのは恋愛ではなく成長。感情を取り戻すための勉強と、己の閉じた心を再び開けること。自力では不可能だろう今、他人に頼るために関わりを持つことは重要だ。だが急がず焦らず、マイペースを崩さないようにしなければ。


 「おっ、そろそろ時間だわ。悪いな、時間潰しに付き合ってもらって」


 「話せたことは良かったから、気にしないで」


 「おう。そんじゃ、買う番号忘れるなよ。じゃな!」


 「うん、楽しんで」


 親指立ててグッド。去り際の九重は外に遊びに行く少年のようで幼さを残していた。まだ高校1年生という若人。そういう一面もまた個性というやつなのだろう。


 「さて、番号何番だっけ」


 しっかり忘れてしまっていたので、再びテーブルの番号を確認して記憶。今度こそレジに向かって会計をする。


 そしてそこで幽玄高校のぶっ飛んだ校則を1つ――国が後ろで支援するということの重みを知る。この学校、実は幽玄と名乗る娯楽施設やショッピングモールでは、全ての買い物が無料となっているのだ。


 とはいえ、流石にそんな甘えに甘えられる校則ではなく、しっかりと条件というものが存在するが。それでも大半普通に生活しているなら、どんな高額な商品でも無料で購入可能なのが、この幽玄高校の他校にない唯一無二の校則だ。

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