はじめまして?
翌日、土曜日という休日を迎えた遥は、既に決められた予定のために動くことにしていた。昨晩、簡素で何もない部屋にテーブルとクッションを置けと言われた気がしたから、向かっていたのは大半揃うショッピングモールだ。
晴れ晴れとした春らしい天候に心地良さを感じ、まだ一緒に出かけれる友達も皆無の今、悲しくも1人で歩く。不慣れな外出に、しかし慣れの適応速度は早いらしく、着いた時には他人の視線を気にすることもなくなっていた。
「えぇと……家具は三階か」
先に買うのはテーブル。部屋番号を書き込むだけで後日送ってくれるシステムなので、それに甘えて少し大きめのテーブルを買おうかと決めてエスカレーターに乗った。
それにしても人が多い。学生は当然のこと、一般客が過半数を占めていた。休日でも娯楽施設が隣接されてることもあって、フードコートに足を運ぶことを知っていても、その量は見ているだけで暑く疲れる。
そんな思いで三階に着き、早速家具店に足を運んだ。
初めての大型ショッピングモールでの買い物。何もかもが不明で迷う中、どうやったら買えるのかなど、初心者故の思考を巡らせつつ見て回る。
円卓のように丸いテーブルより、形のオシャレな見栄えのいいテーブルが良いなんて、どうせ誰も家に呼ばないだろうに無駄に考えてしまうと、1つのテーブルに足を止められた。
「これ……」
角はなく滑らかな側面で、内側と思われる場所には窪みがあって、真っ白という遥の最も好きな色に染められたテーブルがそこにあった。
「良いな」
これしかない!という拘りはなくて、だから足を止められたテーブルの重要さがよく分かる。それだけ良いと思わせてくれたのだから、これ一択だよな、なんて。
しかし、まだ半分も見ていない。これから良いと思えるテーブルに出会うかもしれない。だから一旦保留ということに――。
「いや、でもこれってテーブルコーナーここだけ……」
――しなかった。
家具店は全てテーブルしか置かないということはない。普通に椅子やソファなど置いてある。だからどうせこの先良いと思うテーブルには出会えない、と。それに何よりも面倒という気持ちが勝った。根付いたその悪い気持ちは、いつまでも遥を甘えさせた。
「これにしよう」
その商品の下、値札に書かれた幽玄高校の生徒に向けての【番号を確認後、レジにて会計】と書かれた文字通り、番号を記憶してレジに向かう。
すると、軽々と手持ち無沙汰の幸せを感じつつ歩いていたところ、不意に肩に手が置かれたので、ビクッとして振り向く。
「よっ」
「……ん?」
誰だろうか。男子生徒であり、はじめましての顔なのはそうなのだが、何故か初見ではないような雰囲気もある。どこかで出会ったような記憶もあるし、声も聞いたことがある。
しかし胡乱で、そんな男子生徒の陽気な挨拶に、小首を傾げて次なんと言われるか待つことにした。
「そんな誰だこいつって顔しないでくれよ。確かにはじめましてだけどさ」
「……ごめん」
「ははっ、ホントに俺が誰か分かってないのかよ。そんな影薄かったか?」
「いや、薄いというか、俺の記憶力が乏しいから会ってても思い出せないだけだよ」
いや、会ったなら本当は覚えている。確かに忙しくて逼迫した脳みそが彼の存在を本気で忘れることもあるだろうが、出会って会話したのは2人だけ。その他に居たとしたら、鮮烈に覚えているが。
「そうか?だとしても、前の席のやつを忘れるのは、無頓着ってか興味なさすぎじゃないか?」
言われてやっと出てきた彼の記憶。はじめましてなのはそうでも、見たことは何度もある。遥の前の席に座っている男子生徒だった。だから声も聞いたことあれば見たこともある。特徴的な背中をしていたわけでもないから曖昧だったが、ようやっと思い出せた。
「あぁ、やっと思い出せたよ」
(名前は知らないけど)
「流石にそうだよな。まぁ、喋ってないし、覚えてないのも普通かもしれないけどな」
遥が覚えてなかったことを責めることなく、笑ってそれが普通だと気にすることはないようだ。
「俺は九重優斗。特に紹介するようなこともないけど、今度は名前覚えてくれよな、六辻」
察していたらしい。名前を知らないことを、自ら紹介することでなかったことにしてくれた。しかも遥の名前を知っていたとは。
「分かった」
(今度は9か)
数字を持った名字の人は中々多いんだなと、中々聞かない名字に思っていた。
「呼び方、好きに呼んで良いぞ。多いのは九重だけどな。みんな、九重って名字が好きらしくて」
「それなら俺も九重にする」
いきなり下の名前を呼ぶことは、遥にとって高難易度だった。
「おっけー。よろしくな」
「うん。――それで、何で突然俺に?」
何か用事がないと、はじめましての相手の肩に手を置いたりしないだろうと思って、話を聞くためにも問うた。
「何でって、ただ六辻が1人で居たから声をかけただけだな」
「それじゃ1人でここに来たの?」
「いや、この後遊ぶ約束をしてて、早く着いたからぶらぶらしてたんだよ。あっ、お前も遊ぶか?」
「いや、遠慮する」
「そうだよな。好きそうじゃないもんな、大勢の集まりって」
ここで行くと言っても知らない人からしたら迷惑だろう。遥にその考えはなく、単に行きたくないと、大勢が嫌いという推察通り遊ぶ気は皆無だった。




