私見による『分別と多感』クズ度ランキング
■私見によるクズ度ランキング
というわけで、癖が強いというかクズいというかな面々が揃っている『分別と多感』の登場人物の中で、個人的に「これはなぁああああ……」と思うキャラを適宜紹介していきたいと思います。
【5位:ブランドン大佐&マリアン】
「悪い人じゃないんだけど、とにかく感情に走る人達」ということでまとめてみました。
マリアンはヒロイン・エリナーの妹で、魅力的な美人
引っ越した先で、イケメン紳士ウィロビーと恋に落ちるんですが、結局、捨てられちゃうんですよね。
エリナーはマリアンのことを愛しているので、自分の助言をまるっと無視したマリアンが傷つきまくってエライことになっても、頑張って支えようとするんですが……
このマリアン、ちょっとどうかと思うところもたくさんあります。
自分の趣味に合わない人は、滞在先を善意で提供してくれている相手でもわりと平気でディスり、暴言放言なにげに多い。
で、「感情」をめっちゃ重視するので、悲劇のヒロイン化するのはまあしゃーないけど、めちゃくちゃ引っ張る。
いい加減立ち直れやってなるくらい引っ張る。
というか、「自分はこんなに酷い目に遭ったのだから、やつれてないとおかしい」的な謎思考でわざと衰弱しにいってる節すらあります。
悲劇のヒロインモードの面倒を見なきゃいけないエリナー乙、ほんと乙ってなりました。
めんどくさすぎです。
ブランドン大佐は、引越し先で知り合った35歳の紳士。
作中で「いい人」ランキング作ったら、まず1位確定の「いい人」です。
終盤、エドワードを身銭を切ってめっちゃ助けてくれたりもします。
ただこの人、業が深い人でもありまして。
過去に、父親が引き取って育てていた従姉妹と大恋愛→でもその従姉妹が資産持ちだったので、父によって、大佐の兄との結婚を強制される→大佐は軍隊に入って外国へ→兄は従姉妹に精神的DVかましまくって、結局従姉妹は浮気に走り、財産とられて離婚し、ボロボロになって早逝してしまったという経緯があり、その従姉妹への思いが捨てきれないのです。
ちなみに兄はその後亡くなって、大佐が資産を相続しています。
こんなことなら、最初っから大佐と従姉妹が結婚しときゃよかったんじゃ感すごい。
で、結局、その初恋の従姉妹に似たタイプの20歳近く年下の女性と、相手が弱っているところにつけこんで、外堀埋めまくって、なしくずしで結婚。
いい人なんだけど、初恋の人への執着がどうにもできなくてこういう結婚の仕方をするっていうのは、正直クズいと思うんですよ私……
奥さん視点でいうたら、完全にバッドエンドじゃないですか。
結局、奥さんは大佐を愛するようになったとはあるんですが。
ほんとは、初恋の従姉妹タイプへの執着を捨てて、大佐の人格や教養を高く評価して尊敬しているエリナーと一緒になった方が良かったんちゃうかと、つい思ってしまいます。
エリナーが先にエドワードと出会っちゃってたってのもありますが、エドワードがなかなかにアレな人でもあり、大佐&エリナーの方がカップルとして安心してお幸せにーって思えそう……
【4位:ルーシー・スティール】
噂の相談女。
でも4位なのは、上にもっとクズい紳士共が詰まっているからです。
美人だけど、なんだかんだ品がない人やなーとエリナーは評価しています。
ママの従兄のサー・ミドルトンとどういう関係だったっけ……なんかとっかかりがあって、やって来て、エリナー達と知り合うんですが、まーなかなかにエグい人です。
この人、エドワードの家庭教師の姪で、エドワードが十代の頃に知り合って婚約しちゃってるんですわ。
口約束っちゃ口約束だし、諸般の事情で超極秘にしているんですが。
ただし、エドワードにとってはこの婚約、色々後悔するところもあり、既に重荷になっちゃっている様子。
なので、婚約のことを、エドワードがどうも気があるっぽいエリナーに「相談」して牽制かけてきます。
そんなことは全然知らなくて、エドワードは自分が好きなんや思うてたエリナーの反応が、この作品の見どころの一つかと思います。
みかけは美人令嬢2人がお話してるだけなんですが、水面下の駆け引きがなかなかなかなかです。
エリナーの引越し先にエドワードが訪ねてきた時につけていた、編み込んだ髪の毛を飾りにした指輪をエリナーは自分の髪やろ思うてたんですが、それが実はルーシーの髪だったとかね。もうね。
ていうか、エリナーは髪をあげたわけではないんで、適宜調達したんやろ的に思ってるんですが、この時代、まだほんまに恋人言うてええんかはっきりしとらん相手の髪を勝手にとって(ヘアブラシとかから勝手に持っていくの?)、勝手に職人に加工してもらって身につけるとかアリなの??そうしてもらうことを喜ぶの??とわたくしドン引き。
故人を偲ぶためのモーニングジュエリーとして遺髪を組み込んだブローチとか作ってたと聞いたことはありますが、指輪だとうっかり濡らしたりしそうだしなー……
好きな人の髪を組み込んだ指輪がカビたりしたら、捨てるわけにもいかないし、なにげに辛くないですか?
それはさておき、この相談女、エリナーよりも資産もなくて、たぶん家格ももう一段低いので(なので、姉と一緒に金持ちの知人には媚びへつらってて、見てる方が辛いとこある)、到底エドワードの母に結婚を許してもらえる見込みはなく、なかなかに詰んでいる状況だったのですが、終盤も終盤、これ以上はない一瞬のチャンスを捉えて、大逆転をキメます。
野球で言うたら、9回裏に、2アウト3塁からのサヨナラスクイズとかですかね。
あ、スクイズというのは要はバントです。
サヨナラホームランよりもはるかにレアで(ほんと大博打なので)、負けた方のガックリ感はんぱない。
なかなか鬼畜なプレーではあるのですが、ルーシー視点の成り上がり令嬢小説、読んでみたい気はかなりします。
ちなみにルーシーはアンという姉がいて、不細工・頭悪い・下品と結構アレな描かれ方をしているんですが、謎の愛嬌があって私は結構好きです。
肝心なところでやらかしてたりましたが、なにはともあれ彼女には幸せになってほしい。
【3位:ジョン・ウィロビー】
マリアンと激しい恋に落ちるイケメン紳士。
チャラい系のわかりやすいクズです。
叔母から遺産相続を受ける予定になっているけど、予定は未定という状態で、年収6〜700ポンドくらいの地代収入から言えば派手な生活をしている人。
その後色々あって、やっぱ資産持っている女の子じゃないと無理!となり、結局マリアンとは「なにもなかったこと」にして、美人じゃないけど5万ポンドの財産を持っている女性(えらい束縛しまくるという噂もあったような)と結婚します。
その手紙が、なかなか酷くて味わい深かかったです。
この人、マリアンだけでなく、よそでもあかんことやってて、避暑地でナンパした身寄りの少ない女の子を連れ出して、妊娠させといてヤリ捨てとか平気でやってますからね……
マリアンはそこまで深入りしていなくて、本当によかった。
熱烈な恋いうても、家族もいる場所で、すみっこで2人でお話してるってだけっちゃだけでしたからね。
あ?一応、2人でおでかけとかもしてたか。
後でもっかい現れて、ほんとはマリアンがーとか寝言言うてましたが、ほんまなに寝言言うとるんやボケってかんじです。
ほんと、顔がいいだけの、ただのクズです。
しかし、『高慢と偏見』のウィカムに続き、こういうキャラってお約束なんでしょうか。
もし皆様がうっかり19世紀初頭のイギリス地主階級世界に転生してもうたら、「資産を持っているかどうかはっきりしない、愛想のよいイケメン」には超警戒してください!
姓がWで始まっていたら、もう最大戦速で回避です。
ご自身が気をつけるだけじゃないですよ?
パリピ気質な妹とかが引っかかって駆け落ちでもしたら、姉妹全員、連帯責任で婚活はゲームオーバー、田舎に引っ込んで、楽しいこともなんにもなく、無為に年を取っていくだけの人生です!
この際、小説やエッセイ書いて一山いうても、手書きの原稿を出版社に持ち込まないといけないので、物価の高いロンドン在住でないと厳しいかと。
なにしろ「なろう」なんて便利なものはないですからね。
マジでハードモードだわオースティン世界……
【2位:エドワード・フェラーズ】
ルーシーと婚約しているのに、エリナーを好きになってしまった真面目系クズ。
「容姿は特別すばらしいというわけではない。けっして美男子ではないし、あまり親しくない人が相手だと態度もぎこちない。(略)でも生まれつきの内気さが取り払われると、大変率直な、愛情あふれる心の持ち主だということが、ひとつひとつの振る舞いにはっきりと現れた」(ちくま文庫版・24頁)
物語の後の方になってくると、「愛情あふれる心とは??」って感じになってしまいますが。
エドワードはお金持ち一家の長男。
だけど、母親に財産を握られていて、持っているのは2000ポンドだけ。
母親や姉は、イケてる紳士として振る舞ってほしいと願っているけど、いかんともしがたく地味系男子。
というわけで、母も姉も陽キャ気質な次男のロバートがお気に入り。
大学は出ているけれど、パブリック・スクールには行ってなくてルーシーの叔父がやっている私塾的なところで教育を受けていたりするのは、内気なのでパブリック・スクールに行かせたらいじめられて酷いことになると、既に亡くなっている父親あたりが判断したんじゃないかって気もします。
自分のような人間は、紳士として派手にやっていくのは向いていない、田舎で牧師でもやりたいとか最初っから言うてます。
そのへん、自分がわかっているところは良いことではあるのですが──
大学を出た後は、ママがーとか姉がーとか言いながら、ぷらぷら生活。
姉のファニーのところにいって、エリナーと出会い、エリナーの引越し先にも訪問してくるのですが、その前にルーシーのところに行ってたりもする。
中盤の終わり頃、ルーシーとエドワードの秘密婚約は継続中、でもエドワードが好きなのはエリナー、そしてエリナーはルーシーとの婚約を知っていて、もうエドワードは諦めており、ルーシーはことあるごとにエリナーにマウント取りに行こうとするという地獄な状態で、エドワード・ルーシー・エリナーが揃ってしまうんですが、何も知らないマリアンが「エドワードは誠実さがとりえですものね!」的なことを言いまくって、エドワードが超ダッシュで帰る場面、マリアンええ仕事するな!!ってなったりしました。
というかこのエドワード、もだもだにもほどがあるんですよね。
ルーシーと結婚するならするで、母親に財産分与を働きかけるか、自分で生計立てる算段をするかしないといけないのですが、なーんにもしていない。
もしルーシーとの結婚が無理だと思うんだったら、ちゃんと別れないといけないじゃないですか。
この時代、女性の結婚適齢期は20歳過ぎくらいまでなんですよ。
引っ張ったら引っ張るだけ、ルーシーは後がなくなるのに、なに考えとるんじゃこのボケ。
もしかしてこの人、母親が死ぬのをお口をぽかんと開けて待ってたんじゃないか、ルーシーが自分に見切りをつけるのを待ってたんじゃないかって気もします。
内気なのは別にいいけれど(私もたいがいコミュ障ですし)、これがヒロインの相手役でほんまにええんじゃろうかと、めっちゃ脳内審議しました。
エドワード視点、エリナー視点では、この話はハピエンではあるんですが(たぶん)、「もうちょいね、なんとかしてほしかった」としか言いようがありません。
【1位:ジョン・ダッシュウッド】
お金持ちなのに、妹たちにはとことんケチなエリナー達の兄。
諸悪の根源2号(1号は遺言でエリナー達に配慮しなかった大叔父さん)な兄ですが、わりとモブ扱い、ほんまに悪いのは嫁のファニーやでーという描かれ方ではあるのですが……
この人、ウィカムとの恋に敗れてやつれ果てたマリアンを見て、エリナーに凄いことを言うんですよ。
「マリアンはきみより早く、きみよりいいところへお嫁に行くだろうって、ファニーがよく言ってっていたよ。(中略)でもあれはファニーの見込み違いになりそうだ。私の予想では、もうマリアンは、年収5、600ポンド以上の男性との結婚は無理だろうな」(ちくま文庫版・311頁)
え。なにこれ。
母親は違うとはいえ、実の妹ですよ!?
それが病気をして(自業自得感は若干あるけれど)、やつれているところにこの言い草……
なんなんこれ!? なんなんこれ!?ってなりました。
個人的なことですが、私、二人姉妹の長女でして。
昔、妹が大病をして、見た目も結構変わってしまったことがあるんですね。
今はおかげさまで、無事復活して元気ですが。
こんなん、当時の妹に言うヤツおったら、手近に金属バットあったら後頭部をフルスイングしますよ私。
傘しかなかったら、喉を突きに行きます。
絶対に許さない。
でも、こういう考えが足りんで言わんでもええこと言うてしまう人って、現代でも普通にいますよね……
このあたり、「人類あるある」と、現代の私達からしたらなんじゃこりゃ?ってなる「19世紀初頭イギリスのあるある」がうまい具合に入り混じっているのが、『分別と多感』が今も読みつがれている理由なのかなと思います。
普遍的に人間を描いてる作品って、やっぱりコンテンツとして強いんだなぁとしみじみです。
というわけで、『分別と多感』レポートでした。
これを書くために拾い読みしなおしたんですが、やっぱり「あつまれ!クズい人々の森」だなこれ……
他にもお花畑脳のママ、エリナー達を歓待してくれるんだけど、教養もなんもないママの従兄弟の空っぽ夫婦、奥さんの母でエリナー達に目をかけてくれるんだけど、空気を読まない恋愛脳なお金持ちの未亡人などなど、アレな人たちでてんこ盛りです。
妙な視点からまとめてしまったので、この作品の魅力が伝わっている気はあんまりしませんが、今読んでも面白く、特に異世界恋愛書きであれば色々学びもある作品です。
ご覧になるなら、ぜひ「ちくま文庫版」をお勧めします!