はじめに
琥珀と申します。
異世界恋愛読み兼、金髪碧眼超絶美形王太子アルフォンスが雑な扱いを受けるシリーズなぞを投稿しております。
以前、異世界恋愛物のルーツの一つに、何度も映像化されてるジェイン・オースティンの『高慢と偏見』もあるんちゃうか思うて、再読してみたら色々面白すぎたのでレポートしてみたのですが、その時、次は『分別と多感』行くやでーと言いつつ、読むだけ読んですっかりレポート忘れていたので、夏休みの宿題代わりに提出なのです。
■『分別と多感』:基本情報
作者はジェイン・オースティン(1775-1817)。
イギリスの田舎、ハンプシャーの中産階級の出身で、父親は牧師です。
彼女の作品の中で、牧師はちょいちょい出てくるのですが、19世紀初頭のイギリスの場合、牧師は紳士階級(地主などの不労所得者)のはしっこにぶら下がるような存在なのかな?という感じ。
土地って代々分割してしまうと、あっという間に細切れになってしまうので、長男とかに集中して相続させることが多く、まとまったものを継がせてもらえない人は、士官株というのを買って軍人になるか、牧師になるか、法律の勉強をして弁護士になるかという感じのようです。
このへん、現代の牧師とか、アメリカ産の『若草物語』とはちょっと立ち位置違う感じです。
ちなみに「商売をする」ことは、どういうわけか異様に下に見られています……
異世界恋愛物と大きく違うところですね。
オースティンに話を戻すと、5男2女の末っ子で、兄が詩を発表していたり、当時としてはしっかり目に教育を受けたこともあって少女時代から小説を書き始めました。
恋をしたり、別の男性からプロポーズされてお断りしたりしたこともあったそうですが、結局生涯未婚。
長編作品は、すべてイギリスの田舎地主かそれに類する家の娘をヒロインに、結婚をめぐって右往左往するというものです。
『分別と多感』(1811)は、オースティンの処女作。
少なくとも日本では『高慢と偏見』の方が有名なんちゃうかと思いますが、小説としては『分別と多感』の方が面白いと思いました。
みんな大好き「婚約トラブルからの勘当」とか出てきますし、あとヒロインのライバル的な「相談女」がなかなかエグくていい感じなのです。
「相談女」というのは、恋愛相談を男性に持ちかけ、いつの間にか相談相手の方とデキちゃったりするタイプの女性。
女性に対しても相談することで、牽制したりマウントしたりという技もお使いになります。
大学の語学クラスにモロにそういう人がいて、クラス内であれやこれや「相談」しまくられており、相当周囲がアレなことになってしまって、引いたことがあったわ……と懐かしく思ってしまいました。
彼女に轢かれた男子2名、相当なトラウマになったんちゃうか思いましたが、元気にしとるんじゃろうか……
ていうか、異世界恋愛ではあんまり相談女系のキャラ見た覚えがないですけど(たまにヒドインが相談女ムーブしていることはある)、お話作る上では色々トリッキーでおもろいことできそうな気がします。
クソ妹物もさすがに最近減ってますし、いかがでしょうか相談女。
親友だと思ってたら、そいつが相談女で婚約者を盗られ、頼りにしていた兄弟も盗られ……からのリベンジとか、ざまぁ好きな人にはよいかもですよ。
■『分別と多感』の面白さ
と、話が早くもとっちらかってますが、『分別と多感』のどこが面白いかと言いますと……
①キャラが面白い、というか登場人物のクズ度が高い
ヒロインのエリナーは真面目で賢い、善意の人なんですけど、人間観察力が鋭すぎてまわりの人々のクズさが丸裸に……
そしてそのクズ描写に動物園的なおもろさがあるという……
『高慢と偏見』もそういうところがあるんですけれど(マジでウザいお花畑思考母とか真面目系クズ従兄とかレディなんとかとか)、あっちはエリザベスとイケメン大金持ちダーシーの恋愛がそれなりにロマンチックなので、恋愛が展開していくプロセスのノイズとして読んでしまったんですよね。
が、こっちのヒロインのお相手は、堂々たる真面目系クズ。
エリナー、ほんまにこの人でええん?とマジで心配になるレベルなので、正直、恋愛パートには腰が引けてしまい、その分、作品をクズ図鑑として存分に堪能できます。
サブヒロインのエリナーの妹・マリアンも、本人ほんまに納得しとるんかどうか怪しい結婚してしまうしね……
その後、ハピエンにはなりましたという話にはなっていますが。
P.D.ジェイムズが書いた『高慢と偏見』の続編みたいに、現代の作家が続編を書くとしたら、マリアンはドロドロ不倫してました!て話にされそうです。
そんな小説、面白いの?と思われるかもですが、これ、要は「ぶつ森」シリーズなんですよ。
あのゲームって、変なこと言ってくるどうぶつが色々いて、「え、なに?この人ヘン……」って思いつつ、それが面白いわけじゃないですか。
登場人物、みんな「自分は普通の人」って思ってるっぽいんですけど、みんな癖が強いんですよ。
人間観察バラエティ的な面白さ。
いうて、パーマー夫妻の描写とかは、ちょっと引きましたけど。
どうも軽度の知的障害があるとしか思えない妻を、夫が精神的にDVし続けてるんだけれど、妻はDV受けてることがわかっていない、そして周囲はなんでかしらんけど、特に問題視せずに流してる──
そのあたりの感覚は、やっぱり今の社会と違うなぁとしみじみです。
②わりとがっつりお金の話が出てくる
『高慢と偏見』は、相場観がいまいちわからなかったんですけれど、こっちは年収がこれくらいあったらこのレベルの生活が維持できる、年収をこのくらい得るにはこのくらい資金が必要とか数字で出てくるので、面白いです。
あと、駆け落ちとかやらかして令嬢人生から転落した女性がどういうことになるかとかもガッツリ書いてあります。
具体的には、①借金返せなくなって債務者監獄入りしてしまい、肺病に感染して若いのに病死、②どうにか縁者に救出してもらって、田舎で子供と暮らす、です。
あと、結婚相手に私生児がいたら、その子はお金をつけて奉公に出せばいい的なことをさらっと言う場面もあったり。
どこまで当時の実情に即しているのかはわかりませんが。
個人的にはこの2点ですかね。
あと、ヒロインのエリナーが理性的で辛抱するタイプなので、そのへんも異世界恋愛スキーな方に合っていると思います。
異世界恋愛のヒロイン、周りに振り回されてひたすら辛抱させられる(そしてざまぁをキメる)悪役令嬢と、自己肯定感が低くてもだってる令嬢がめっちゃ多いじゃないですか。
エリナーはざまぁしませんけれど、圧倒的に辛抱ヒロインタイプです。
恋愛物として完成度が高い(ちゃんとハピエンになる)のは『高慢と偏見』ですが、小説として面白いのは『分別と多感』だと思います。
いやー、このラスト、ほんまにこれでええの?ってめちゃめちゃ言いたくなりますけど、どうでもいい小説だったらいちいちそんなん思わんので、やっぱり巧いんですよね。
というわけで、以下、お金の話&私見によるクズ度ランキングをまとめてみようと思います!