え、やだな。
「では、またな。」
「お気をつけて。」
バカ王子は食事を終えると颯爽と馬車に乗り帰って行った。二度と来るなと思いながらも完璧なお辞儀でお見送りをした。
「デビルナ、おでこは大丈夫か?」
隣でお父様が声を掛けてくる。大丈夫じゃないわよ。誰のせいよ。
「怒っているか?怒っているよな。あぁ、私の天使…許してくれ。」
お父様から熱い抱擁を受ける。天使ならエンジェル辺りの名前にして欲しかったわ。英語圏じゃないのが悔しい。
「可愛い可愛い可愛いデビルナの顔に傷が残っては大変だ。冷やすものを持ってこよう。」
可愛いに合わせて額にチュッチュッされる。見てくれ…父親から必要以上にキスされて死んでいる娘の目を…。
そうだ本来はデビルナの両親は娘を溺愛いるのだ。娘の欲しいものは何でも買い与え、言うことも全部聞いてきた。だから我慢のできない我儘娘が出来上がってしまったのだ。
「いや、もう遅いんで必要ないです。」
「ダメだ。冷やしなさい。痣になっているではないか。」
そう言い合っている間に、リリアンが冷えたタオルをお父様に渡す。お父様はタオルを私の額に当てると「異変があったらすぐ言うんだぞ。」と言って、仕事部屋へと戻って行った。
残されたのは大量の食器…。私の誕生日前夜の晩餐会並みだわ…。ごめん、みんな…。手伝おうかと声を掛けると、厨房にいる使用人達が顎が外れそうなくらい口を開けて驚いていた。そして全力で拒否されてしまった。
今までの私の行いがいけない。反省。みんなと仲良くなれるようにしよう…。頑張ろう。
「リリアン、私は部屋に戻るわ。」
温くなったタオルをリリアンに渡す。
「湯浴みの準備をしますね。」
「ありがとう。」
部屋に戻りベッドにダイブして、王子の行動を思い返す。なぜ、こんなに執着してきたのだろうか…。と3秒ほど考えて分かったことがある。
当て馬悪役令嬢だから、ヒロインが来るまでに婚約破棄しちゃダメなんだ!!そういうことか。ヒロインと王子がハッピーエンドを迎えるために、私がヒロインに嫉妬しないとなのか…。
え、やだな。
嫉妬する点が一つもない。なんなら熨斗付けて贈りたい。半返しとか言って半分返されたらどうしよう〜。二股ルートとか望んでない〜。冗談はさておき……。
本当にあのバカが国王になったら、この国終わっちゃう。ヒロインとハッピーエンドを迎えるまで、王子を真人間にしていこう。そうしよう。あの王子が立派になって、わしが育てた…みたいに感動する日が訪れるかもしれない。