不覚にもドキッとする…。
王子がここで食事を摂るということで、いつも以上に豪華な食事がテーブルに並んだ。王家の使用人による毒味が終わった後、王子は優雅に食事を楽しんでいる。王子の席以外には重々しい空気が流れているというのに。
婚約破棄を勧めた時の王子の間抜け顔を思い出しながら、食事を摂ろうと思っていたのに!!!飯うまする予定だったのに!!どうしてこんなことに…。
豪華な食事が並んでいるのに、全く味を感じられなかった。それどころかキリキリと胃が痛んだ。
「ヴィランズ公爵、家内はどちらに?」
「…えー、数日前に港町へ旅行に。」
「そうか。」
家内って貴方が使う言葉ではないからね。お父様も一瞬おかしいなって思っただろうに普通に返事をしている。
お母様は大の旅行好きで、気付けば置き手紙だけ残して消えていることは日常茶飯事だ。貴族同士のお茶会を好まず、旅行に逃げているというのが正しいかも知れないが。
「急なことだったのに、準備感謝する。」
「いやいや、滅相もない!殿下のお頼みとあらばなんでも喜んでお受けいたします。」
お受けしないで…。そして、珍しく王子が礼を言ったことに吃驚。プライドエベレストなのに。
王子の側で見守るサディスターは少し目を見開いた後、感動しきった顔で王子を見つめた。
「こちらの使用人達の分まで用意して貰ってありがたい限りだ。公爵家に勤める皆にもよろしく伝えておいてくれ。」
……どうしちゃったの?貴方は誰。
なんだか見直してしまう。背中に薔薇を背負っているような見た目の彼の口から、その様な言葉が出ると不覚にもドキッとする…。
「私を含む下々の者に…なんという慈悲深いお方だ…。殿下の婚約者になった娘は世界一の幸せ者ですな…。」
お父様は泣いているのか、ナフキンで目元を押さえた。
それを見た王子は、ふふんと鼻を鳴らした。そして咳払いをして、自信に満ちた声でこう言った。
「下々の者のことを考えるのは上に立つ者として当然だからな。」
それさっき私が言ったやつーー!!!!!!!!!
そもそも下々の者って言ってる時点で考えが足りてないー!!!
不覚にもドキッとした自分がもう恥ずかしすぎて穴があったら地球のコアの部分まで突っ込んでいきたい。ここが地球なのか知らんけど。
「…早くこのバカ連れて帰れよ。」
「デビルナどうした?」
王子がこちらを見て不思議そうに聞く。
「いいえ、なんでもありませんわ。ほほほ」
あっぶねー!!聞こえちゃう聞こえちゃう。不敬で処刑なんて展開になったら大変だわ。不敬で処刑って韻踏んでてラップに使えそう。
なんだか最近、前世の自分が強く出過ぎてて言葉が下品になっている。お嬢様キャラに転生したっていうのに。気をつけよう。