設定に負けるな。
ドカッと音を立てて、私から離れて向かいのソファの隅に座る王子。メインキャラだけあって、超絶イケメンだ。光る金色の髪に整った顔、スラっと伸びた手足。絵に描いたような王子像。
でも、明らかに"ぼくは不機嫌です〜君とは話したくないんです〜"って態度とりやがって…。早々に帰ってやるわよ、こんなとこ。
王子が来てもお構いなしにお茶を飲んでいると、苛々した口調ではあったが、私に珍しく話しかけて来た。
「おい。」
「何でしょう。」
「何か話すことはないのか。」
「えぇ。ございませんので、美味しいお茶をいただいたらお暇させていただきますわ。」
「……は?」
は?とは何よ。失礼すぎるでしょ。大体、そんな不機嫌な態度取られたら話があっても話す気失せるわ。よくこんな王子に今まで媚び売ってきたなぁ…私。信じられないわ。
チラッと王子を見ると、こめかみがピクピクとしている。お怒りのご様子。お茶も飲み終えたし、帰りますか。
「殿下もお元気そうでなによりですわ。それでは。」
立ち上がると、王子は「そういうことか。」と嘲笑いながら私を見た。
「引いて駄目なら押してみろってやつだな。」
いや、逆な。
「ふふ、面白いことおっしゃるのですね。」
本当この馬鹿どうにかしてくれ。
王子の後ろにいるサディスターは俯いている。…気付いているなら、間違いを指摘してあげなさいよ。
ここはゲームの世界であったとしても、皆ちゃんと意思を持って生活している現実世界なわけで…。この世界のこの国を引っ張っていくのは貴方なのだから、しっかりしてよ。設定に負けるな。
「そうすれば、俺の気が引けると思っているんだろ。」
「いえ、全く。」
「連れない態度を取ったとしても、俺がお前を好きになることはない。残念だったな。」
人の話を聞け。
「では、婚約破棄の手続きをお願いしますわ。」
どうよ、この余裕の笑み。王子は呆気に取られた顔をしている。サディスター、あなたもか。
「落ち着いてください、デビルナ様。こちらの一存では、破棄が罷り通るだけの理由がありませんと、それはできません故…。」
サディスターは焦っている。ヴィランズ公爵家の権力は国の中でトップクラス。王家にはどうしても必要なのだ。
「そうだ。本当に俺が破棄の手続きを進めたらどうするつもりだ。」
王子は指先でテーブルを凄い勢いでコツコツ鳴らしている。苛々マックスといった感じね。良い気味だわ。
「どうするも何も、喜んでお受け致しますけれど。」
私はそう言い残すと、口をあんぐりと開けている王子とサディスターを放置して、部屋を後にした。