帰りたい。
馬車に揺られて、王城へと向かう。今なら荷馬車に揺られて売られていく牛の気持ちが分かる気がする。
「気分が優れませんか?」
向かいに座っているリリアンが困った顔で聞く。
「行きたくないんだもの。」
「毎回とても楽しみにしていらしたのに…。」
「今日から行きたくない気分になったの。」
「殿下となにかあったんですか?」
「そもそも、私好かれてないから。」
私の言葉を聞いて、リリアンはすかさずフォローに入る。
「そ、そんなことないですよ。お嬢様のこと大事に思ってくださっているはずです。」
「ないない。ないから。」
頑張ってフォローしてくれてるけれど、デビルナの評判は物凄く悪い。王子に媚を売って、周りの女の子を蹴落としてきた。お陰で友達もいない。デビルナと親交のある人物は、ヴィランズ家の使用人達だけだ。とんでもないことをしてしまっていた。王子蹴落として、女の子に媚び売るべきだったのに…!
「大丈夫です。お嬢様のこと、きっと分かってくださいます。」
「あはは…。」
分かってもらわなくて構わないんだわ…。分かられると逆に困っちゃうんだわ…。
けれど、リリアンは真剣で。真っ直ぐと私を見ていた。
「着きました。」
御者の声掛けの後、馬車が止まる。
着いてしまったか…。腹を括るしかない。私は、気持ちを落ち着かせようと大きく深呼吸をした。
「遠い所をようこそお越しくださいました。」
王城の門で待ち構えていたのは、王子の執事サディスターだ。彼もまた攻略対象の一人。イケメン。ドSな性格をしているが、捨て猫拾ってくるというベタな優しさを持っている。
彼は笑顔で迎えてくれている。しかし、その目の奥が死んでいるのを私は知っているぞ!!
今までは気付かないふりをしていたが、今は認める。全く歓迎されていないということを…。
「安心して。挨拶をしたらすぐ帰るわ。」
「は…?」
予想外だったのか、サディスターは驚いた表情を一瞬だけ見せた。いつも貼り付けたような笑顔でいるサディスターの素顔が見られた気がする。
「エイディオット様はどちらに?」
「所用がありまして、少しお待ち頂くことになります。」
はい出ましたー!これは、いつもの応接室で2時間待ちぼうけパターン!学習してるのよ、私。本当時間の無駄だから帰ってやりたい所だけど。
そのまま応接室に案内され、待ち続けること丁度2時間。
「待たせたな。」
待たせたとは微塵も思っていなさそうな声が聞こえ、遂に会いたくない例の王子が来てしまった。