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サラリーマン竜王戦 第四局

作者: てこ/ひかり

実況:さぁ今年もやって参りました! 

 毎年恒例、株式会社『的場製鉄』内サラリーマン竜王戦。解説は山内係長十八段です。

 山内十八段、よろしくお願いします。

山内:よろしくお願いします。


実:サラリーマンの実態を竜王戦のように解説していこうと言う人気企画。今年は一体どんな白熱した戦いが繰り広げられるのか!? 今回対戦するのは、


 先手:伊賀三十四段・企画課の新進気鋭指し手(サラリーマン)

 後手:立村六十三段・広報課のベテラン指し手(サラリーマン)


 でございます。山内さん。


山:はい。年齢も部署も違う二人ですから、このような機会がないと、中々絡むこともないでしょう。この際だから、勝負を通して普段は言えないような不満や愚痴をぶつけ合い、火花散る熱戦を期待したいですね!

実:さぁ朝礼が終わり……まず最初に白盤(ホワイトボード)の前に立ったのは、先手・伊賀三十四段。


 最初の一手は……2六『山内』。


山:これは……?

実:えぇと、2六は……『ゴミ捨て』ですね。これは、山内係長に、まず『ゴミ捨て』に行ってもらおう、と言う一手です。

山:解説を聞いても良く分からないんですけど、これはつまり私に『ゴミ捨て』に行けと言う、指し手(リーマン)からの指示なんですね?

実:ええ。

 白盤(ホワイトボード)の上を次々と駒が動きますので、部下達はそれを見てそれ通りに行動する。今回、それぞれの枠の中に、仕事内容が書かれています。たとえば、2六は『ゴミ捨て』。

 リーマンは上からの指示には、絶対服従しなければなりません。

山:なるほど、人間将棋みたいですな。

実:そう言うことです。さて、これを受けて後手・立村六十三段はどう出るか……。


 あぁ、出ました。7六『山内』。


 こちらも序盤から躊躇なく山内を使ってきました。

 7六は……『外清掃』ですね。


山:『ゴミ捨て』の次は、『外清掃』……。

実:おーっとノータイム! 伊賀三十四段!


 2五『山内』! 『雑巾掛け』です。

山:また僕ですか?


実:そしてこちらも迷いない一手! 後手4二『山内』。『資料印刷』です。

山:僕ばっかりじゃないですか! 『ゴミ捨て』に『外清掃』に『雑巾掛け』に……どんだけ『山内』があるんだ。僕は『歩』か。僕ばっかり……少しは長考してくださいよ。

実:しかし『山内』に『ゴミ捨て』から『資料印刷』まで頼む流れは、言ってみれば竜王戦の、セオリーですので。

山:そんなセオリー聞いたことないよ! 不条理過ぎるだろ!


実:さぁ試合は中盤へと差し掛かりました。


 先手・2四『武田』。『第8回定例企画会議並びに分科会』。

 後手・3五『堀ノ内』。『上半期営業部成果報告会・年次ミーティング』。

 そして先手・7三『金子』。『取締役会』。


 我が社でも屈指の活躍を見せるリーマン達が、次々と重要な仕事を任されて行きます! 

 序盤と違い、山内係長は全く動かないッ!

山:バカな!!


実:微動だにしません。『駒』への信頼度が違う、と言うことでしょうか?

山:僕に聞くなよ。大体『駒』って言うのも何か失礼だし……。

実:おっとここで…… 


 先手・4四『山内』の上に……

 後手・4四『山内』ッ! 

 立村六十三段、4四を重ねてきましたッ


 さらにそれを受けてッ

 先手、またしても4四『山内』!

 後手も負けじと4四『山内』だぁ!

 

 4四『山内』の打ち合い! 激しい応酬になっているッ!!


山:いやあの、良いんですけど、数字に悪意がありません? 何か……禁じ手じゃないんですかこんなの。

実:しかし盤上で、不謹慎だからって4四だけを禁止にしては、それはもう将棋とは呼べませんよ。

山:そりゃそうですけど……。

実:さぁそして先手・4四『机』ッ

山:机?

実:これに対し、後手4四『椅子』ッ!

 先手4四『花瓶』、

 後手4四『針山』ァッ!


 4四『山内』の上に様々なものが積み重なって行くゥ!

山:どんな状況なんだ! 僕の上に変なものを乗せるな!


実:4四『福利厚生』、4四『交際費』、4四『文通費』……。

 終盤にかけて、実に見応えのある戦いになってますね山内さん!

山:人に経費を押し付けるのはヤメてください!


実:今や4四『山内』に雑務がほぼほぼ積み重なっている。山内さんの肩に、会社の厄介事が全てのしかかっていると言っても過言ではありません。

山:褒められているんだか、貶されているんだか……。

実:他の駒も次々と山内さんに仕事を押し付けて、盤外(社外)に退避しています。

山:ただの残業じゃないですかこんなの。だけど、だけどやらなきゃいけないのか……。クソッ! 現場叩き上げの根性見せてやるよッ!!


実:おーっとここで、山内さんがコーヒーカップを握り潰した! そして、ものすごい勢いで仕事に取り掛かっている! 早い! 早い! さすが『会社の犬』ッ カラスは真っ白ッッ 何故それが普段できないのかッ!?

山:うぉおおおおおッ!!

実:これはすごい! 掃除から書類作成まであっという間、みるみるうちに仕事が減っていくッ!! 残りはあと少し……っとここで!?

山:おおおおおぉオオオッ!!!

実:『千日手』だ!

山:なに!?


実:引き分け、差し直しです! 山内さんにはこれ以上の進展が見られないため、明日からまた雑務のやり直しになります!

山:バカな!! ここまで終わらせといて……あとちょっとじゃないか!

実:でも、『千日手』ですので……。 

山:何回雑用やらせる気なんだ!?

実:やり直しです。

山:もういいよ!

実:どうも、ありがとうございました。

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