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世界最後の英雄達よ ~The Last Storytellers~  作者: 晦日 朔日
一章  アエルとアルエ
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二十話 終わりがあるから耐えられる。


 超高位の『汎用魔法』を大量に使用しすぎたせいで精神的にも肉体的にも疲れ果てているソラだったが、その顔は一切苦しそうではなく、寧ろ清々しく笑ってさえいた。

 さあ。準備は整った。

 アルエ・テルンムスの人生は、()()()()()()()()

 僕が間接的にとは言え、()()()()()

 その事に罪悪感は感じないでもない。だが、しかし、それでも。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 アア、楽しみだ。()()を僕自身の目で観られるのなら、死んだって構わない。それだけの価値が、あれにはある。

 一度『世界の記録』を通して視てから、あれだけが僕の希望だった。その所為で、僕も生きたいと願ってしまった。縋ってしまった。

 だから、どうか。

 僕に、観させてくれ。



 地平線に沈んだ陽が、再び反対側から顔を出す。薄く引き延ばされた、立ち並ぶ天幕の影が次第に短くなり始めた。赤い土や岩石が、暗い色から朱に戻り、血の様な空気を纏う。

 帝国、王国両陣営とも起床の鐘が鳴らされ、人々が目覚める。つい先ほどまでは生物の気配が一切なかった染血盆地が、にわかに活気づく。炊事の細い煙が何十本も不確かに立ち、人工的な匂いが辺りに漂う。

 誰も未来の事なんて分かっていないのに、今日も昨日と変わらぬ日だと信じ込む。

 そんな中、この後何が起きるか知っている二人が、王国軍の天幕で会話を始めた。

「おはようございます」

 ソラの気味が悪いにこやかな挨拶に、テルンムスは短く、

「ああ」

 テルンムスの素っ気ない反応後、ソラは声のトーンを落として訊ねる。

「準備は終わりましたか?」

 訊ねられたテルンムスは厭そうな顔をして、

「全て終えた」

 テルンムスの表情には目もくれず、ソラは満足げに、

「それは重畳です。じゃあ僕に聞かせて下さい。あなたの人生を。あなただけの道を」

 今更ながら、テルンムスは躊躇し、長い沈黙の後、

「…………ああ。いいだろう」

 頷いた後、ふと、テルンムスが苦しむようにソラに訊ねる。

「人は死んだ後、どうなる?」

 【観測者】ならば、知っているのだろう、と。

「魂のみが『陽』と『陰』の神の元へと誘われ、漂白された後、再び生を受ける。そう、神話にはあります」

「……ああ、そうか。ならば、もう。……良いんだな」

 テルンムスはそれを聞いて目を細め、目尻に少し涙を滲ませた。その涙は、苦く、吐きそうな味がした。



 染血盆地全体に、何かが広げられた。

 暖かくもなく、冷たくもなく。

 無機質な色を持たない魔法陣が、全てを覆った。

 そしてその下には、更に三層の広大な魔法陣が敷かれた。



 二人の帝国軍兵士が談笑している。

 曰く、片方の軍役はあと二日で終わる。だから半年ぶりに愛しい妻子に会えるのだ、と。

 もう片方は後二ヶ月残っているので、心底羨ましそうな顔をした。

 そんな戦場の休息があった。

 一人の若い帝国軍騎士が一心不乱に素振りをしている。

 朝から続く彼の背中に話しかける者は一人としていないが、全く気にする風もない。

 何の為に剣を振るのか。そう問われれば、彼はきっとこう答える。

 皇帝陛下の為に他ならない。

 そんな戦場の一場面があった。

 帝国東方面軍の長――エルドルド・セントルードが、半ば発狂しながら山のように積まれた書類を片づけていた。

 数日前に開いた宴会の後始末から逃げ続けた結果だ。

 だが、そんな彼はどこか楽しそうで、変わりのない日常を愛しているかのように見えた。

 ああ、こんな日々も、悪くはないものだ。

 そんな戦場の舞台裏があった。


 それを魔法で覗いていた男は、陽が天頂に達した事を確認する。

 正午。約定の時間だ。

 男は乾ききった唇を開き、詠唱を開始する。

「『()():三日目:人間なんてろくでもない

 ああ 全てが終わってから日記を書き始めて三日目だ

 三日坊主という諺もあるし 気をつけなければ

 ただ もう三日も経ったのだ

 時の流れは侮れない

 だが 私の心の棘は一向に抜ける気配がない

 今も私を傷つけ続ける

 これも全てあいつらの所為だ

 いつか私の傷が癒える日が来るのだろうか

 昔から たった二人を除いて私の周りの人間はどうしようもない屑ばかりだった

 もう 誰も居ないのに 何かが引っかかる

 この感覚の正体はなんなのか

 分かる日が来るのを願い 今日は筆を置こう


 :人間なんて滅んでしまえ』」


 男が詠唱し始めた瞬間から、男を黒い靄の様なものが覆った。そしてソレは、彼の身体に吸収され、その血を覚えた。そして男が告げる。

「呪われろ、屑共め」

 黒い靄が男の身体から、最初の量の何十倍、何百倍にもなって飛び出し、天井をすり抜け、地上に出た。

 靄は男の血を求めて、近くに居た一人の兵士に飛び込んだ。

 そして、

 一人目の不幸な兵士は悲鳴を上げる間もなく、異形と化した。

 当然靄は一人だけで満足することはない。近くにいる者から順に、『擬非人(デミ・カースド)』へと造り変えていく。

 帝国軍の端から始まったその惨劇は、一分もすれば中央指揮所へと伝えられた。

「将軍ッ! 兵が、黒いナニカにとりつかれ、おかしくなっていますッ!」

 急報。可能な限り迅速に伝えられたその情報は、しかし遅かった。

「何!?」

 顔色を変えた帝国軍の将軍が立ち上がった瞬間、伝令が黒い靄に呑み込まれる。

 そして将軍もその後を追う瞬間、全てが遅かったのだと、悟った。

 彼の意識が混濁していく最中、黒い靄の向こうに一人の狂ってしまった男の顔を見た。



一瞬でも面白い、続きが読みたいなど思ってくださったら、評価の方よろしくお願いします。


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