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この瞳にもう一度光を  作者: 夜闇
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第4話  巨峰とケイくんの地雷

 「ん………」

わたしは声をあげて起き上がった。


まぶたが重くて重くて、もはや明るいかくらいかすらもわからないほどに目を細めている。


 ベッドに手をついて体を起こすと、壁に体をもたせかけた。


目をこすって、開く。


外は明るいみたいだった。


 ケイくん、起きてるのかな?

ケイくんのベッドのある右側を見ても、何も音がしないし、全然わからない。


 少し残念に思って目を閉じて、うとうとしかける。


 そんな時。


 「………あんなさん?」

と言う、少しくぐもった、ケイくんの声がした。


「おはよう、ケイくん。」


 ケイくんが布団をはねのける音がする。


 「今日は、明るいみたい、ですね。」

ケイくんが壁に体を預ける音がして、わたしは可能な限り右に体を乗り出した。


「ケイくん、今日は少し涼しいよ。看護師さんたちによるといまは10月らしいから、秋らしい気候だね。」

わたしがそう言うと、ケイくんはふっと微笑んで、


「はい、晴れているみたいで、それに風も心地いいですね。窓が空いてるみたいです。」

と言った。


わたしは見えないのに頷いた。


 しばらく沈黙が広がると、スライドドアが開く音がした。


 「「ケイくん、あんなちゃん、朝ごはんよ。」」

わたしとケイくんの看護師さんが、そう声をかけてきた。


「「はい。」」

わたしとケイくんが揃って答える。


 「今日はねぇ、おにぎりにしたから、一回自分で食べてみようか。」

そう言われて、空気がピンと張りつめた。


ケイくんの方を見る。


なぜかわからないけど、ケイくんの顔が青ざめているのが見えた気がした。


 「ほら、持って持って。」

そう言われて小さなおにぎりを手渡される。


ぼろぼろ崩れないように、小さくなっているのだと思う。


わたしは恐る恐るそれを握って、感触を確かめた。


 ラップは巻いてなくて、できるだけわたしやケイくんが食べやすいようになっているみたいだ。


 口の位置と、おにぎりの位置を確認して、わたしは口を開けた。

おにぎりを口に押し込むようにして食べる。


モグモグ、むきゅむきゅと噛む。


 中に入っているのは………

「明太子が入ってる。」

わたしが言うと、看護師さんは、

「うふふ。とっても辛くて、美味しいでしょう。」

と、自慢げに言った。


「美味しいです。とっても、すごく。」

わたしは舌やほっぺたを噛まないようにしながらおにぎりをモグモグ食べた。



 食べ終わると、廊下から足音がだんだん迫ってきた。


「あんな?起きてるの?」

と言う母の声がして、足音はわたしのすぐそばで止まった。


「あんな!元気そうで何よりだわ。最近来れていなくてごめんなさいね。」

母はそう言って謝った。


「ううん、謝らないで。お母さんは仕事が忙しいんだから。」


 母の謝りグセはまだ治っていない。

でも、わたしの目が見えるようにならないことを自分のせいだと思って謝られるより、仕事でわたしのお見舞いにこられないことを謝られたほうが、まだいい。


 それに母は前より少し口数が増えて、お仕事の話をしてくれるようになった。


「そうだ、今日は葡萄を買ってきたの。あとで、看護師さんに出してもらってね。」

ビニール袋がガシャガシャ言う音がする。


 「母さんはね、今度、新しい企画のプロジェクトリーダーになったのよ。」

 前まで、ずっとわたしの心配しかしてこなかった母が、自分のことを話してくれる。


それほど嬉しいことはなかった。


 「よかったね、お母さん。」

わたしはそう言って、口を開けて、またおにぎりを口に押し込んで、噛んだ。


「あら、あんな、自分で食べられるようになったの!?」

嬉しそうな、驚いた母の声を聞いて、わたしは、


「まだ、全部というわけにはいかないわよ。でも、これは小さくて食べやすいように看護師さんが作ってくれたから、わたしでも食べられるの。」

と答えた。


 お母さんは嬉しそうな声のまま、

「でも、食べられるようになったのはすごいことだわ。もしかしたら葡萄も、自分で食べられるかもしれないわね。」

と言った。


母の嬉しそうな声に、少し申し訳なくなってしまう。


 わたしは誘導されないと、何も食べられない。


 わたしが困ったような顔をしていたのか、


「じゃああんなちゃん、私たち、あなたをサポートするわ。」

と、看護師さんが言ってくれた。


「ありがとうございます。」

わたしは看護師さんがいるはずの場所に向かって頭を下げた。


「いいのよ。お母さん、この葡萄、とっても色が綺麗ですね。」

看護師さんが母に話しかける。


「そうでしょう。今日、あんなのお見舞い品何がいいかなぁって思っていたら、見つけたんです。色も綺麗だし粒も大きいし、山梨のなんですって。巨峰は食べにくいだろうから、シードレスグレープにしたんです。」

母が楽しそうに説明した。


 母があまりに楽しそうなので、わたしもつられて微笑む。


するとケイくんが、

「あんなさんのお母様は、どこの会社にお勤めなんですか?」

と聞いた。


「化粧会社ですよ。イーファナっていう会社です。」

母は愛想よく言った。


「すごい大手企業じゃないですか。そこの企画のプロジェクトリーダーなんて、すごいですね。」

ケイくんが本当にすごそうに言うので、母は照れてしまったみたいで、


「いえいえ、そうでもありませんよ。」

と言った。


「フユゾノさんのお母様は、いらっしゃってないみたいですね。ご挨拶でもできたら、と思ったんですけど………」

すると、看護師さんが、あっ。と声を漏らした。


ケイくんは、

「来ませんよ。………というか、これないでしょう。」

と、いつもの調子を崩さずに言った。


 母はそれで何かを察したみたいで、


「………そうなんですね、ごめんなさい。

 あらっ?もうこんな時間だわ。ごめんなさいあんな、お母さんもう帰らなきゃ。」

「うん。じゃあね。」

「じゃあねあんな。また来るからね。」


母は慌てたように帰って行った。


 重苦しい空気が場を支配して、看護師さんまでもが、

「それじゃ、お皿片付けて来るわね。」

と、いそいそ出て行ってしまうほどだった。



 それからしばらくすると、ケイくんが、

「困らせちゃった、みたいですね。ごめんなさい。」

と謝った。


「ケイくんのせいじゃないよ。うちの母がごめんなさい。」

とわたしも頭を下げる。


 すると不思議なことにケイくんは笑った。

「どうしたの?」

わたしが首を傾げて聞くと、ケイくんは笑い声をピタリとやませて、


「あんなさんだって、ぼくの母がどうしてこないか気になってるんじゃないですか?」

と聞いた。


 わたしは口をつぐむ。


ケイくんはそれを図星だと捉えて、


「わかりました。」

と言って息をついた。


 それから、

「つまらない話ですが、聞いてくれますか。」

とわたしに聞いた。


 わたしは頷いてから、見えないことを思い出して声に出して返事をした。

 読んでくださってありがとうございます!!


 ケイくんのお母さん、どんな人なんでしょうか………

次は、ケイくんのお母さんのことをケイくん自身が語ってくれます。


 あんなちゃんとケイくんはこの先どうなっていくのか!?


 それでは、また次のお話でお会いしましょう!

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